目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

6「十斧との対戦」

「行くからにゃあ、

こっちも手は抜かんけのぉ」


そう囁いた長刀の背中を追い、

六夢は校門を抜け、

人気のない河川敷へと降りた。春の風がざわつく草の匂いを運ぶ。遠くに電車の音が聞こえ、近くに人の気配はない。

絶好の殺し合いの場だった。


「ここなら、誰にも見られんで済む」


長刀は言い終えるが早いか、

肩に担いでいた大きな布袋を無造作に地面へ落とし、

中から――重そうな漆黒の薙刀を引き抜いた。

長く、鋭く、

そして異様なまでに禍々しい斧刃のついた異形の武器。

柄の部分には乾いた血痕のようなものがこびりついている。


薙刀【月哭げっこく】。


「男子高校生が、

そんなモン隠し持ってくるなよ……」


六夢は呆れたように呟くと、

肩から鞄を放り投げた。

パサッと地面に落ちる布と教科書の音。


次の瞬間、彼女の指先が



――変形した。

人間の皮を引き裂いて、

内側から滲み出るような鋭利な爪が伸びる。


「こっちも――準備万端、ってことね」


「殺る気満々じゃの、六枝の次女」


「アンタにだけは言われたくないんだけどー」


言葉が終わるより先に、薙刀が振るわれた。

風を裂き、地面を抉る凄まじい勢いの突進。長刀の動きは重量武器とは思えぬ速さと精密さを併せ持っていた。


六夢は即座に後ろへ跳び、

爪で刃を受け流す。


火花が散る。


二人の殺し合いは、

周囲の時間すら置き去りにして加速した。


鋭い爪が風を裂き、薙刀の軌道が空間を歪める。

六夢の動きはまさに獣。

だが、理性を保ったまま最短距離で殺意を叩き込む、

戦闘訓練された動きだった。

対する長刀もまた、

攻撃と防御を兼ねた一撃を繰り返し、

真剣勝負を遊びのように楽しんでいる様子すらあった。


「ええな、お前。

牙の出し方がえげつない」


「こっちも、

凶器ぶん回してんのに楽しそうで腹立つわ」


次の瞬間――


カチン、と金属音がした。


何かが、空中を滑ってきた。


六夢の本能が、それを「死」と察知する。


「ッ、伏せて長刀!!」


地面に手をついて加速し、

長刀の胴を抱きかかえた。

男が何か言う暇すら与えず、

草の中へと二人で転がり込んだ瞬間――


凄まじい爆音。




閃光。





爆弾が、二人が立っていた場所を粉々に吹き飛ばした。土煙が舞い、熱が肌を焼いた。


「……誰やァァアアアアッ」


長刀が叫び、六夢が見上げると、

そこに立っていたのは――入学式で壇上に立っていた女性教員だった。

式典中、

六夢が本能で“殺意の臭い”を感じ取った女。


女は教師の格好をしたまま、

手に銀色のナイフを何本も持ち、

口元にはうっすらと笑みを浮かべていた。


「いい獲物が揃ってたから、

まとめて頂こうと思って」


声に感情はない。

ただ冷酷な殺意と

「金の匂い」だけがそこにあった。


「お前……十斧ワシも狙うんかい……!」


「雇われ仕事なの。

六枝も十斧も、首を持っていけば高値がつくのよ」


女は優雅に笑う。

手元のナイフが何本も空を裂いた。


「チッ

どうするんじゃ、六枝の次女ッ」


「……しゃーなし。

今だけ共闘、死にたくないでしょ、

十斧のド阿呆坊主」


「上等じゃ、クソ喰いの嬢ちゃん」


牙と斧が並び立つ。

一時の共闘、その先にあるのは



――再びの殺し合い。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?