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7「標的を狩る牙と斧」

爆風の名残が土煙となって漂う中、

長刀は薙刀を構えたまま、呻いた。


「……くそが、

前行こうにも足場に地雷がばらまいとる。

これじゃ踏み抜いて死ぬわ……!」


薙刀を構えて踏み出しかけるも、

草むらの下から“カチ”と鈍い音がしただけで、即座に飛び退いた。

女教員が張り巡らせたトラップは、

それだけで致命傷を与える設計だ。


六夢も後方から動きを探るが――


「っ……また飛んできた!」


木の陰から伸びた爪でナイフを弾く。

だが、一本かわすと次の二本、三本が角度を変えて飛来する。真後ろから接近しようにも、

どこにでも目があるかのような正確さだった。


「どうなっとんじゃ、この女……!

お前、何か考えあるんか!」


長刀が叫ぶ。

六夢は一瞬の沈黙の後、

瞳を鋭く光らせ、短く告げた。


「――あるよ」


「……ほぉん?」



⬛︎ ⬛︎ ⬛︎





長刀は力強く踏み込むと、

薙刀を矢のように投げ放った。

空気を裂いて唸る斧刃は、女教員の顔面へ一直線に飛ぶ。


「……ふん、見え透いた真似を――」


女教員は肩を傾けて軽くそれを避ける



――そう見えた瞬間、地面が爆ぜた。


連続して吹き上がる地雷。

飛び散る泥と炎の中、長刀が駆ける。


「いっちょ派手に、

散歩させてもろうたるわぁああ!!!」


爆煙と火花の中心を突き進む長刀。

その迫力に、一瞬、女教員が後退る。

彼女の視界は長刀に釘付けだった。


「無謀すぎる……バカが、くたばりなさい!」


女が構えたナイフを取り出しかけた

――その瞬間。


「後ろ、空いてんだけど?」


ひやりとした声音が耳元で響いた。


「――え?」


見ると、そこには六夢がいた。

完全に、死角に入り込んでいた。



⬛︎ ⬛︎ ⬛︎

以下、

ついさっきのやりとり。


「地雷を避けられないなら、





「……は?」




「その薙刀、投げて。


思いっきりあの女の頭めがけて。


それから正面突破。


あんたが囮になってる間に、


あたしが背後から行く。一か八かだけど……今のあたしたちには、これしかない」




長刀の顔に一瞬、呆れとも感嘆ともつかない笑みが浮かぶ。




「よう言うたな……クソガキのくせに」




「うるさい、さっさと行け!」




「……任せんさい」



以上、

作戦内容。

⬛︎ ⬛︎ ⬛︎


「――ッぐ、ぎィイィ!!」


ガリッ


鋭利な爪が、教員の背中を思い切り裂いた。

血が噴き、悲鳴が上がる。

女がナイフを投げようとしたその腕――


「舐めんなよ、クソババアが!」


ぱすっ


先ほど投げられた薙刀を再び拾った長刀が、

その腕を切り裂いた。


ひらりと円を描くように舞い、

腕がぺちゃりと音を立てて地面に落ちる。


「……なんで、私が……」


女教員の視界が傾く。理解が追いつかない。

――どうして、後ろを取られた?

――どうして、踏み抜いた地雷で死ななかった?


「“獣”を相手にするには、ちょっと計算が甘かったね」


六夢が静かに言いながら、ぐ、と女の首を掴む。


「じゃあね、せんせ」


ごきん。


乾いた音がした。

女教員の身体が、ぐにゃりと崩れ落ちる。


沈黙が戻った河川敷に、二人分の息づかいだけが残った。


「……なぁ、お前普通の女子高生ちゃうやろ」


「アンタに言われたくないわ。

爆弾踏み抜きながら突っ込んでいくやつが、

普通なわけない」


「ハッ……じゃがまあ、ええコンビじゃったの」


「調子に乗んな、バーカ」


春の陽が、ようやく静かに河川敷を照らしていた。


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