爆風の名残が土煙となって漂う中、
長刀は薙刀を構えたまま、呻いた。
「……くそが、
前行こうにも足場に地雷がばらまいとる。
これじゃ踏み抜いて死ぬわ……!」
薙刀を構えて踏み出しかけるも、
草むらの下から“カチ”と鈍い音がしただけで、即座に飛び退いた。
女教員が張り巡らせたトラップは、
それだけで致命傷を与える設計だ。
六夢も後方から動きを探るが――
「っ……また飛んできた!」
木の陰から伸びた爪でナイフを弾く。
だが、一本かわすと次の二本、三本が角度を変えて飛来する。真後ろから接近しようにも、
どこにでも目があるかのような正確さだった。
「どうなっとんじゃ、この女……!
お前、何か考えあるんか!」
長刀が叫ぶ。
六夢は一瞬の沈黙の後、
瞳を鋭く光らせ、短く告げた。
「――あるよ」
「……ほぉん?」
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
長刀は力強く踏み込むと、
薙刀を矢のように投げ放った。
空気を裂いて唸る斧刃は、女教員の顔面へ一直線に飛ぶ。
「……ふん、見え透いた真似を――」
女教員は肩を傾けて軽くそれを避ける
――そう見えた瞬間、地面が爆ぜた。
連続して吹き上がる地雷。
飛び散る泥と炎の中、長刀が駆ける。
「いっちょ派手に、
散歩させてもろうたるわぁああ!!!」
爆煙と火花の中心を突き進む長刀。
その迫力に、一瞬、女教員が後退る。
彼女の視界は長刀に釘付けだった。
「無謀すぎる……バカが、くたばりなさい!」
女が構えたナイフを取り出しかけた
――その瞬間。
「後ろ、空いてんだけど?」
ひやりとした声音が耳元で響いた。
「――え?」
見ると、そこには六夢がいた。
完全に、死角に入り込んでいた。
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
以下、
ついさっきのやりとり。
「地雷を避けられないなら、
「……は?」
「その薙刀、投げて。
思いっきりあの女の頭めがけて。
それから正面突破。
あんたが囮になってる間に、
あたしが背後から行く。一か八かだけど……今のあたしたちには、これしかない」
長刀の顔に一瞬、呆れとも感嘆ともつかない笑みが浮かぶ。
「よう言うたな……クソガキのくせに」
「うるさい、さっさと行け!」
「……任せんさい」
以上、
作戦内容。
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
「――ッぐ、ぎィイィ!!」
ガリッ
鋭利な爪が、教員の背中を思い切り裂いた。
血が噴き、悲鳴が上がる。
女がナイフを投げようとしたその腕――
「舐めんなよ、クソババアが!」
ぱすっ
先ほど投げられた薙刀を再び拾った長刀が、
その腕を切り裂いた。
ひらりと円を描くように舞い、
腕がぺちゃりと音を立てて地面に落ちる。
「……なんで、私が……」
女教員の視界が傾く。理解が追いつかない。
――どうして、後ろを取られた?
――どうして、踏み抜いた地雷で死ななかった?
「“獣”を相手にするには、ちょっと計算が甘かったね」
六夢が静かに言いながら、ぐ、と女の首を掴む。
「じゃあね、せんせ」
ごきん。
乾いた音がした。
女教員の身体が、ぐにゃりと崩れ落ちる。
沈黙が戻った河川敷に、二人分の息づかいだけが残った。
「……なぁ、お前普通の女子高生ちゃうやろ」
「アンタに言われたくないわ。
爆弾踏み抜きながら突っ込んでいくやつが、
普通なわけない」
「ハッ……じゃがまあ、ええコンビじゃったの」
「調子に乗んな、バーカ」
春の陽が、ようやく静かに河川敷を照らしていた。