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8「それは敵でも友でもなく。」

爆破の跡がまだ残る河川敷。

陽は少しずつ傾き、

空の色が茜に染まり始めていた。


焦げた草の匂いと、血の匂いが混じる中。

六夢は地面に座り込み、

乱れた制服の袖をぱんぱんとはたく。

あーあ、母さんにも兄ちゃんにも

小言言われちまうよこりゃ。


長刀も傍らに座り、

無造作に薙刀を肩に担いで空を仰いでいた。


しばらく、何も言わなかった。


そして、ぽつりと六夢が呟いた。


「そういえばさー」


「ん?」


「なんで、あたしたち戦ってたんだろ」


「……は?」


長刀が思わず間の抜けた声を上げる。


「いや、だからさ。

戦う理由。

あんた、

別に私が憎いわけじゃないでしょ」


「……まあ、そうじゃな」


六夢も笑う。


「こっちだってそう。

あんたがどうとかじゃなくて、

十斧ってだけで構えた。

家が敵ってだけ。

今こうして喋ってみて思うけど、

あたし達、別に普通に話せるじゃん」


長刀はしばらく沈黙したあと、

ふっと口の端を上げる。


「お前、映画何観る?」


「えっ、唐突すぎない?」


「いや、趣味の話とかしたことねぇけ。

ちょっと気になってな」


「……アクション系。

スパイものとか。

たまに泣けるやつも観るけど、

ハッピーエンドが好き」


「……まじで?ワシもじゃ!」


「うそでしょ!?」


「ほんまじゃって。

どんでん返しで死人出まくる系は苦手なんよ。後味悪いし」


「わかる、すっごいわかるー!」


ふたりは顔を見合わせた後、

くつくつと笑った。


「……敵同士だったはずなのに、ね」


「ほうよな。

うちの家はお前んとこと

何百年も殺り合っとるって親父が言うてたわ。でも、ワシらは別にやない」


「うん。ドーカン」


春風がふたりの髪を優しくなでる。

六夢は制服の襟を正しながら、

肩の力を抜いて言った。


「長刀ー。

あんた、意外と悪くないよ。

広島弁ガチうるさいけど」


「ほうか、

ほんならこっちも言わせてもらうけどな、

六夢。

お前、見た目ただの女子高生やのに

中身えげつないけ。うん、バケモンじゃ。

ギャップで死にそうになったわ」


「それ褒めてないよね!?」


「ほめとるわ!」


ふたりはふたたび、声をあげて笑った。


敵でも、味方でもない。

ただ、気が合う。

話していて心地いい。

それだけの理由で、自然に肩を並べていた。


気づけば、日が完全に落ちかけていた。


「……じゃ、帰ろっか」


「おう。」


「あーあ、入学の日早々に

制服ボロんなったー」


「じゃのぉ。こりゃドヤされんの

確定じゃあな。」


「それな、マジ嫌すぎワロタ」


帰路に就くふたりの背中は、どこか似ていた。

まるで、生まれたときから一緒だったように。


その日、六枝六夢と十斧長刀は――

“相棒”で、“親友”になった。



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