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羽衣編

10「羽衣の回想」

はっちは、昔から変だっただなも。


脳裏に浮かぶのは、小学校の教室。

入ってきた雀が自分の机に止まってたので、

誰もいないのを確認してから、

そっと話しかける


――そんな姿を見られた、あの日。


「なにしてんの、羽衣〜?」

「また一人でぶつぶつ? 気持ち悪っ」

「動物と話せるとかマジで言ってんの?

うける〜」


笑われて、冷たく見られて、避けられて。


(……誰にも信じてもらえなかっただなも)





――でも、本当に話せるのだ。




野良猫が「お腹すいたにゃ」と言えば、それを聞き取ることができる。

鳥が「怖いから近づかないで」と羽音に込める声も、分かってしまう。


それが「普通じゃないこと」だと知ったのは、早くも幼いころだった。


泣きながら家に帰った羽衣を、

父は優しく抱きしめてくれた。


「羽衣、その力は素敵なもんだよ」

「動物の声を聞ける人間なんて、

そういないんだ。

誰かを助けられる、特別な力なんだよ」


――そう言ってくれた父の声だけが、

ずっと羽衣の心の支えだった。


けれど、あれから何年も経った今も、

羽衣はこの力を口にしない。

誰にも、六夢にも、長刀にも。


(知られたら、きっと嫌われるだなも……)


ふと、教室のドアが開き、

六夢と長刀が笑いながら入ってくる。


「羽衣〜!

メロンパン買ったー! 半分こしよ!」


「てか六夢、

お前四つ買うとか食いすぎじゃろ!

 ひとつワシによこせ!」


「はぁ!?

うっさい私の燃料なんだよこれは!

欲しけりゃ金払いな!」


「いやせっこ!?せこ!」


「うっさい!んべー!!!」


(――だけど)


二人の姿を見て、胸の奥に小さな希望が灯る。


(この人たちなら、

いつか……はっちのことも、

笑わずに聞いてくれるかもしれないだなも)


羽衣はそっと、微笑んだ。

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