放課後のチャイムが鳴った瞬間、教室の空気が弛緩する。
「じゃ、掃除お願いね~」
そう言ったのは、クラスの中心にいる女子。
サラサラのロングヘアに整った顔立ち、
そして何よりも絶対的な
輪の中心であるという空気をまとっている。
その横には取り巻きの女子たち。
笑いながらスマホをいじり始めている。
「今日、カフェ行くんだよね。
あの新しいとこ~」
「写真撮りたい~。
てか、羽衣ちゃんお願いね〜ぇん?」
何気ないように、でも逃げ場のない声。
羽衣の机の上には掃除用具入れの鍵が、
ぽつんと置かれていた。
「あ……う、うん。いいなも……」
微笑むしかない。
断れば、何をされるかわからない。
きっと、机にゴミを詰められたり、
動物の真似をされて笑われたりする。
「ありがと~羽衣ちゃん♡
ほんっと助かる~」
雫が作り笑いで言うと、
他の女子たちも口々に「マジ女神~」などと適当に笑いながら教室を出ていく。
羽衣は、ひとり、ぽつんと残された。
机の上に残る掃除用具の鍵が、
まるで「お前はここにいろ」
と命じる錘のように見えた。
「……よし、やろ」
自分に言い聞かせるように呟く。