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12「言えない、“嫌だ”の一言」

放課後のチャイムが鳴った瞬間、教室の空気が弛緩する。


「じゃ、掃除お願いね~」


そう言ったのは、クラスの中心にいる女子。

サラサラのロングヘアに整った顔立ち、

そして何よりも絶対的な

輪の中心であるという空気をまとっている。


その横には取り巻きの女子たち。

笑いながらスマホをいじり始めている。


「今日、カフェ行くんだよね。

あの新しいとこ~」

「写真撮りたい~。

てか、羽衣ちゃんお願いね〜ぇん?」


何気ないように、でも逃げ場のない声。

羽衣の机の上には掃除用具入れの鍵が、

ぽつんと置かれていた。


「あ……う、うん。いいなも……」


微笑むしかない。

断れば、何をされるかわからない。

きっと、机にゴミを詰められたり、

動物の真似をされて笑われたりする。


「ありがと~羽衣ちゃん♡

ほんっと助かる~」


雫が作り笑いで言うと、

他の女子たちも口々に「マジ女神~」などと適当に笑いながら教室を出ていく。


羽衣は、ひとり、ぽつんと残された。


机の上に残る掃除用具の鍵が、

まるで「お前はここにいろ」

と命じる錘のように見えた。


「……よし、やろ」


自分に言い聞かせるように呟く。

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