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13「放課後、分かれ道」


「二人とも、先に帰ってていいだなも」


モップを手にした羽臣羽衣は、困ったように笑った。教室の隅では、ほうきや雑巾が乱雑に投げ出され、誰も掃除をする気配などない。


「また、あの上位様たちに押し付けられたんか……」

長刀が不満げに眉をしかめる。

「羽衣、手伝おっか?」と六夢が言うと、

羽衣は大きく手を振った。


「いいだなも、すぐ終わるし。

二人とも待ってるだけ時間のムダだなも!」


くるんと背を向けて、羽衣はテキパキと掃除を始めた。

その背に、長刀がぼそっとつぶやく。


「なんやあいつ、無理しとるじゃろ」


「うん。でも……待っとこっか。校門のとこで」


「……ほいじゃな」


顔を見合わせ、ふたりはゆっくりと教室を後にした。



⬛︎ ⬛︎ ⬛︎


それから20分ほどが過ぎた頃。

夕日が差し込む教室に、羽衣は一人。

雑巾を水で絞りながら、ため息をついた。


「……ふたり、ちゃんと帰ったかな」


教室を後にし、昇降口へ向かう途中――


「……ん?」


背後に、わずかな足音。

羽衣が振り返ろうとしたその瞬間、


「っ――!? ん゛――ッ!!」


背後から、冷たい手が口をふさぎ、

羽衣の体が宙に浮いた。

細い体がばたつき、

落ちた上履きが床にカタンと転がる。


そして、彼女の瞳が虚ろに閉じていった。



⬛︎ ⬛︎ ⬛︎

校門前。


「……おっせえな、あの子」

「だよね。普段ならとっくに出てきてる時間……」


六夢と長刀は、校門前の石段に座っている。

空は茜色に染まり、春の夕暮れが静かに迫っていた。


「ちょっと、見に行こうか」

「……うん。変な予感する」


ふたりは同時に立ち上がり、校舎へと走り出す。



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