昇降口を駆け抜け、校舎を逆走する。
六夢と長刀は、教室のドアを勢いよく開け放った。
「羽衣!!」
だが、そこに彼女の姿はなかった。
……代わりに、目に飛び込んできたのは――
黒板に殴り書きされた、
不気味な赤い文字だった。
『六枝六夢 十斧長刀へ
仲間を殺された。
取り返すには"支払い"が必要。
よって、この場所にて待つ。
無視
すれ ば
担保は
消え散る
と思
へ。
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「……なんじゃこりゃ……」
長刀が低くうなる。
チョークではない――それはまるで、
六夢の表情が曇る。
「蟲貯……。
あの女、やっぱり組織に属してたんだ……」
「殺し屋の……グループか」
「うん。名前だけは聞いたことある。
六夢の声が低く震える。
背筋に、冷たいものが這い上がってくる感覚。
「羽衣、攫われたってことか」
「……間違いない。
しかも、私たちに向けて交渉してきてる」
「これは挑発だよ。
たぶん、
ふざけやがって、と
六夢は拳を硬く握った。
その掌からは
爪が刺さったことにより
赤い雫が一滴ぽたりと
床に落ちてった。
ふたりは黙り込んだ。
背後の夕日が、教室の窓からゆっくりと沈み、空を赤く染めていく。
その赤が
――まるで羽衣の見た夕焼けと、
繋がっているように思えた。