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15「廃墟にて目覚めた羽衣」

意識が戻った瞬間、まず感じたのは――

冷たく、鉄臭いコンクリートの感触だった。


「……ん、……うぅ……」


視界がぐるりと回る。薄暗い天井、割れた蛍光灯、朽ちた柱。


……どこか、廃墟。

薄ら寒い風が割れた窓から吹き込み、肌を刺す。


「やっと起きたかぁ、小鳥ちゃんよォ……」


聞こえてきたのは、ねっとりと湿ったような、気味の悪い声。


羽衣がそちらを向くと

――そこには、大きな影が笑っていた。


脂肪の塊のような巨体。汗まみれのシャツ。

右腕に彫られた蟲のような刺青。


「蟲貯」のリーダー――

蟲飼蚈むしかいやすでだった。


「ひっ……」


羽衣は思わず声を漏らす。

両手首と足首は太い結束バンドで拘束され、床に転がされたまま。


「大事な“エサ”だからなぁ?

無理やりはしないよ、まだな」


男は低く笑いながら、

羽衣の目の前にしゃがみ込む。


「……ま、だ?」


「そう。お前にはもうちょい働いてもらわんとなァ。

 なんたって、“六枝家の次女”と“十斧族の跡取り”を引きずり出すための、大切な人質だ」


羽衣は、ぽかんとした。


「六夢と……長刀くんを?」


「そうともよォ。

ふざけた名前のくせに

中身は本物の化け物共だからな、あいつら」


「……化け、物?」


羽衣の声はかすれていた。

昨日まで、笑い合っていたあの二人――


「お嬢ちゃん、知らねェのか?

六枝六夢と十斧長刀は、

【人を喰う家系】と【殺しの一族】なんだよ」


羽衣の心臓が、ドクンと音を立てる。


「どっちも人間じゃねぇ。獣だ。

 あいつらに笑って近づいてたなら、

そのうち喰われてたかもなァ……?」




「嘘……だ……」


「嘘?

……なら、信じたくなるまで痛い目見せてやろうか?」


蟲飼の指が、羽衣の顎に伸びる。だがその瞬間――




「ッ……っ!」


羽衣は目をつむり、それでも言葉を絞り出した。


「うそ……でも……っ、

六夢も長刀くんも……優しいなも!」




「ほぉん……?」


男の笑みが歪む。


「なら、見てみろや

――優しい二人がどんな殺しをするか。

ここに来るだろうよ、

お前のために……血まみれでなァ」




……冷たい風が吹く。

羽衣の目から、一筋の涙がこぼれた。

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