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16「廃墟ビル、突入」

暗く沈んだ空の下。

黒板に記されていた位置。

――腐臭漂う、

鉄筋むき出しの廃ビルが、

静かにそこにあった。


「……ここか」


六夢が鋭い眼でビルを見上げ、爪を剥き出す。


「来たるんは……覚悟しとる連中じゃろうの。

……行くで、六夢」


「うん。羽衣を、取り返す」


それ以外は、何も言わなかった。

家の名誉も、自分たちの命も、

今はどうでもよかった。


――友人羽衣を助ける。

ただそれだけが、

六夢と長刀の全神経を支配していた。


⬛︎ ⬛︎ ⬛︎


ドン、と足音一つで扉を蹴破り、

二人は廃ビル内部へと突入。


「来たぞォォ!! 六枝と十斧が来たァ!!」


「囲め囲めぇえッ!!

一人残らず血に沈めろ!!」


怒号と共に、

数十人の蟲貯の構成員たちが

鉄パイプや鉈、銃器さえ持って押し寄せる。




「──退け」


六夢の瞳が、淡く爪痕の光を帯びる。


刹那。


赤が壁や天井、床に飛び散った。


彼女の動きは、しなやかな獣そのものだった。

鋭い爪で喉を裂き、眼を抉り、関節を外す。

無駄のない、確実な殺傷動作。


「ちぃぃいと数が多いのォ……楽しいのう!!」


長刀は大袋から愛用の薙刀を引き抜き、

広範囲を薙ぐように豪快に振るう!


「うおぉおらぁ!!

死にてぇ奴から前出ぇえやァァァ!!」


刃が風を切り、二人、三人をまとめて両断する。




「ギャァア!! ぐぅお……っ、ぐえぇッ……」


「つ、強すぎる……!

あれが六枝と十斧……!?」


部下たちの絶叫が、薄暗い廃墟に木霊する。




――でも、六夢も長刀も叫ばない。吠えない。名乗りもしない。


それは、戦争でも家の誇示でもないから。


「羽衣は……どこ」


「はーちゃん、待っとけよぉ……!!」




その表情に浮かぶのは、ただ一つ。


友達を救いたいという、純粋でまっすぐな怒り。


そして――


「誰にも渡さねえ」という、

誓いにも似た想い。




廃ビルの中、血飛沫と硝煙が混ざった空気の中。

“元・敵同士”だったはずの二人が、

まるで最初から

親友であったかのように背中を預け、

進んでいく。




――“はーちゃんは俺らのもんじゃけぇ”


――“羽衣は、私たちの、大切な友達だから”


その足取りは、確かに友と呼ぶにふさわしい、二人のものだった。

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