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17「悪口への反抗」

錆びた鉄扉の内側。

羽衣は薄暗いコンクリートの床に、

手足を縛られ転がされていた。


目の前には、肉塊のような男

――蟲貯のリーダー、蟲飼 蚈。


太い指を鳴らしながら、半笑いの声が響く。


「お前……あいつらのこと、知らねぇのなあ。

 六枝六夢と、十斧長刀。

どっちも人間じゃねぇよ」


床を踏むたび、地響きのように響く蟲飼の足音。

その声は愉悦と嘲りに満ちていた。


「人間どころか、あいつらは人殺しの家系さ。

 何十人、いや百人以上は殺っとる。

家の誇りってやつでな。クソみてえな伝統だ」


羽衣はうつむいたまま、震えていた。


「血を吸って育った殺し屋。

 気味が悪ぃよなぁ? なぁ?

そんな奴らに肩入れするなんて、

 お前もどうかしとる」


――“気味が悪い”


その言葉が、羽衣の中で強く反響する。


(気味悪い……そうだ、はっちも……)


小学校のころ。


「うそつき」

「動物と話せる~? きもッ」

「魔女かよ」


小さな教室、あの時の笑い声がよみがえる。


何もしていないのに。

誰も傷つけていないのに。

“普通と違う”だけで、自分はいつも……。


(……違う。六夢も、長刀くんも……そんな人たちじゃない!)


怒りが、にじり寄るように湧き上がっていく。


「……言わないで」


「はあ?」


「六夢と長刀くんの悪口……言わないでほしいなも!!」


羽衣が顔を上げる。

涙に濡れたその目に、

決意と怒りが宿っていた。


「二人とも、人のこと大事にする、

優しい人なんだも!

 誰も、

あの二人を“怪物”だなんて言う権利ないも!!」




その瞬間、蟲飼の表情が歪んだ。


「ハッ……調子に乗るなよ、ガキが!!」


ドッ!!


――鈍い音とともに、

羽衣の腹に蟲飼の蹴りが突き刺さる。


「うぐぅっ……!」


床を転がる羽衣。

肺の空気が一瞬で抜け、呻く声すら出ない。

すぐに髪をわしづかみにされ、無理やり引き上げられる。


「テメェみたいな弱っちいメスガキが、

あいつら庇ってんじゃねえよ。

 どうせすぐ売り飛ばすつもりだったが、

先に顔でも潰してやるか」




だが――


「……なぁにやっとんじゃワレェ!!」


鉄骨の天井をつんざく、怒声と共に飛び込んできたのは――


「はーちゃん!!」


――十斧 長刀!


その背後からしなやかに舞い込む影、

冷ややかな光を瞳に宿した――六枝 六夢!


「……触るな。羽衣から、今すぐ臭い手を離せ」


二人の声に、蟲飼が振り返る。


「来たかァァ! お前らみてぇな化け物にゃ、ここが地獄ってこと教えてやらぁ……!!」


「はァ? 上等じゃけぇ、太っちょ。

 その口、閉じさすんはワシじゃけぇの……!」


「もう怒ったから……絶対に、許さないから」

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