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18「羽音」

「お前ら!!!やっちまえ!

こいつらの首を取りやがれぇ!!!」


蟲飼 蚈の怒声がビル中に響き渡ると、

廊下、階段、壁の影、天井の梁――

ぞろぞろと姿を現す黒装束の手下たち。


「どんだけいんのよ……!」


六夢が呆れたようにため息をつくと、

「一匹残らず片付けりゃええじゃろ」と

長刀が忌々しげに刃を構える。




次の瞬間――


血しぶきが吹き荒れ、

手下たちはあっという間に切り刻まれていく。


六夢の指先から伸びる鋭利な爪が、

宙を裂き、喉元を裂き、壁に血を飛ばす。


長刀の薙刀は重たく、しかし正確に。

一太刀ごとに骨ごと砕き、絶命させていく。


「ッ……!!」


羽衣はその場から一歩も動けず、

ただ見つめていた。


鮮血と断末魔の中、

学園で見せていた二人の姿は、どこにもなかった。


教室で笑っていた、

体育の時間に手を差し伸べてくれたあの子たちが――

今、目の前で人を“殺して”いる。


(これは……本当に、同じ人間だなも……?)




やがて、床一面に転がる屍。


「はぁ……まーた制服汚しちまったじゃん……」

六夢が口元を拭いながら呟く。


「はーちゃん……大丈夫か」


血に濡れた薙刀を肩に担ぎながら、

長刀が羽衣に駆け寄ろうとする――




――そのときだった。


「ふふ……ハハハハハ!!!」


笑い声が響いた。

その中心にいたのは、蟲飼 蚈。


「さっすが化け物共だなァ!!

よく殺った、よぉーーーーく殺った





……だがなあ!」


バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ


耳障りな羽音が響く。

彼の背後から、

壁一面を覆い尽くすように、

黒と黄色の群れが姿を現す。


「うちの特製の毒蜂共が、

黙っちゃいねぇんだよ!!

喰い尽くしてやれ、全部なァァァ!!」


――大量のスズメバチたちが、

一斉に羽ばたいた。


天井を埋め尽くす羽音。

突進してくる殺意の塊のような群れ。


六夢も長刀も、思わず動きを止めた。


「ッ……くる……!」


「畜生、間に合わんか……!」




だが――


その瞬間。







「やめるなもおおお!!

二人を傷つけないでほしいなもッ!!!」


羽衣の、必死の叫び声が響いた。


空間が、張りつめたように静止する。


スズメバチの群れが







――ピタリ、と空中で止まった。


まるで時間が凍ったように。


次の瞬間、

スズメバチたちはくるりと向きを変えた。






「な、なっ……!?

おい、こっちじゃねぇ!

俺じゃ――」


ブゥゥゥゥゥ………………ン…………………………ッ゛


スズメバチたちは、

まだ隠れていた蟲貯の残党の手下たちへと

一斉に襲い掛かった。


断末魔。

悲鳴。

血まみれの悲鳴。


「ぎゃああああああああ!!!」

「やめろ! 俺は関係な――!!」

「く、くるなァァァあああ!!」


天井、床、壁。

スズメバチたちが埋め尽くし、

蠢き、喰い荒らす。




蟲飼の顔が青ざめる。


「ふ、ふざけんな……なんだよこれ……

オレの蜂が、言うこときかねぇ……!?

テメェ、何者だ……!!」


羽衣は、荒い息をつきながら言った。


「……はっちは、羽臣羽衣。

ただの女子高生だなも。

でも……友達のことを傷つける悪いやつは、

絶対に許さないなも……!」




六夢と長刀は、静かに羽衣を見つめていた。


その表情は、驚き。

そして

――どこか、安堵したような優しさがあった。




「ねぇ、長刀……」


「……ああ。やっぱ、

はーちゃんは――こっち側人殺し

人間じゃねぇな」




――次の瞬間、蟲飼の目の前に長刀が立っていた。


「おい太っちょ豚。

お前さん、蜂だけじゃなくて

……命も喰い尽くされてぇんか?」


「ぐ……!」

刃物のような殺意と敵意を向けられ

蟲飼が怯む。


「六夢、斬るぞ」


「うん。私もかなりイラついてたとこ」


2人の目には、

明らかなるこいつを生かさないという

意思があった。

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