バチバチと羽音がまだ残響のように
空間を満たす中____。
蟲飼 蚈は、
目の前の信じがたい光景に汗を垂らしながらも、なお羽衣の髪を乱暴に掴み上げた。
「ぎゃ……!!!」
羽衣は頭皮が
引っ張られる痛みに涙を滲ませる。
「こ、こんな……虫が、裏切るなんて
……てめぇ、この野郎……ッ」
歯を食いしばり、
震える手でポケットからナイフを抜き出す。
鈍く光るその刃先を、
羽衣の首筋へピタリと当てた。
「動くな……!
てめぇら、一歩でも近づいたら、
こいつの喉、掻っ切」
「掻っ切る」という
言葉を言い切るよりも早く
「____。」
静かに放たれた長刀の声が、
空気を震わせた。
ぱす。
何かが裂け、吹き飛ぶ音。
「…………あッ、
あ、あ゛ああああああッ!!?
お゛、おれ……、おおおぉおおぉおれの
手ぇがあぁあぁああぁあ゛____!?!?
なな、なななな、なぁああぁ____あぁ!?」
蟲飼の右手が、肘から先ごと吹き飛んだ。
宙に飛んだナイフと手首が、
鈍い音を立てて床に転がる。
「が、が、ガァァァアアアアッ!!!」
激痛に絶叫し、羽衣の髪から手が離れる。
「ひぃぎきいいいいいいい!!!
お、いでぇえよぉおおっ゛
おっかぢゃぁああぁああ____っ!!!」
よろめいたその体――
「うっさい、ブタが。
私の友達に触んなって言ったでしょ?」
六夢の瞳がギラリと光り、
容赦なくそのみっともない声を上げてる
肉の胴体に向けて、
「ぐぇ」
手刀を心臓目掛けて突き刺した。
その指はまるで鉤爪のように鋭く、
肉を割り、肋骨を砕き、心臓を貫いている。
「人質を盾にして、
悦に浸るクソみたいなやつ、
マジで大嫌い。」
六夢の口元に、冷たい笑みが浮かぶ。
「じゃあね、
ずちゅっ
そのまま手刀が、蟲飼の胴を内側から裂くように引き抜かれた。
その隙間から血と行き場を失った
臓器がドロドロと滝のごとく吹き出し
口や鼻にも逆流した胃液と血が
上からもどぷりと吐き出た。
鮮血が噴水のように撒き散らされ、
壁や床赤く染め汚す。
もはや原型を留められてない
蟲飼の巨体が、
音もなく崩れ落ちた。