目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

19「ケジメ」

バチバチと羽音がまだ残響のように

空間を満たす中____。




蟲飼 蚈は、

目の前の信じがたい光景に汗を垂らしながらも、なお羽衣の髪を乱暴に掴み上げた。


「ぎゃ……!!!」

羽衣は頭皮が

引っ張られる痛みに涙を滲ませる。


「こ、こんな……虫が、裏切るなんて

……てめぇ、この野郎……ッ」


歯を食いしばり、

震える手でポケットからナイフを抜き出す。

鈍く光るその刃先を、

羽衣の首筋へピタリと当てた。


「動くな……!

てめぇら、一歩でも近づいたら、

こいつの喉、掻っ切」



「掻っ切る」という

言葉を言い切るよりも早く








「____。」


静かに放たれた長刀の声が、

空気を震わせた。




ぱす。







何かが裂け、吹き飛ぶ音。


「…………あッ、

あ、あ゛ああああああッ!!?

お゛、おれ……、おおおぉおおぉおれの

手ぇがあぁあぁああぁあ゛____!?!?

なな、なななな、なぁああぁ____あぁ!?」


蟲飼の右手が、肘から先ごと吹き飛んだ。


宙に飛んだナイフと手首が、

鈍い音を立てて床に転がる。


「が、が、ガァァァアアアアッ!!!」

激痛に絶叫し、羽衣の髪から手が離れる。


「ひぃぎきいいいいいいい!!!

お、いでぇえよぉおおっ゛

おっかぢゃぁああぁああ____っ!!!」


よろめいたその体――


「うっさい、ブタが。

私の友達に触んなって言ったでしょ?」


六夢の瞳がギラリと光り、

容赦なくそのみっともない声を上げてる

肉の胴体に向けて、



「ぐぇ」


手刀を心臓目掛けて突き刺した。


その指はまるで鉤爪のように鋭く、

肉を割り、肋骨を砕き、心臓を貫いている。


「人質を盾にして、

悦に浸るクソみたいなやつ、

マジで大嫌い。」


六夢の口元に、冷たい笑みが浮かぶ。


「じゃあね、蟲飼 蚈クソヤロウ


ずちゅっ



そのまま手刀が、蟲飼の胴を内側から裂くように引き抜かれた。


その隙間から血と行き場を失った

臓器がドロドロと滝のごとく吹き出し

口や鼻にも逆流した胃液と血が

上からもどぷりと吐き出た。


鮮血が噴水のように撒き散らされ、

壁や床赤く染め汚す。


もはや原型を留められてない

蟲飼の巨体が、

音もなく崩れ落ちた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?