目の前には、長刀のよって
拘束を解かれた小柄な少女
──羽臣羽衣。
その瞳が、おずおずと2人を見つめる。
「……はっち、ぜんぶ……
見ちゃった、も」
「……羽衣」
「……ああ、見たんじゃな。ワシらの裏を」
六夢は静かに前へ進み出る。
手には、
先ほどまで「人間だったもの」の痕跡。
瞳はいつになく冷たく、感情を殺していた。
「羽衣。
あんたがどう思おうと構わない。
でも──もし万が一
私たちを怖いって思ったなら」
「……そのときは、
もう……すまん、殺さにゃならん」
「友達でも、
それがルールなんだよ。私たちの……ね」
…… …… …… 。
小さな沈黙があった。
しかし次の瞬間、
羽衣はてくてくと
小さな体で二人に駆け寄り、
六夢の手を、長刀の腕を、
ぎゅっと抱きしめた。
「──でも
はっち、2人のこと、嫌いになれないだなも」
「……え?」
「だって2人は、
助けにきてくれたも。
ボロボロになりながら、
こんな怖い場所に来てくれて、
はっちを見つけてくれたも……
そんなの、はっちにとってはもう、
……ずっとずっと、
六夢の肩がわずかに震え、
長刀は目を伏せたまま、拳を握りしめた。
「……そんなの言われたら……バカ……」
「……殺さんでええんか……
殺さずに、済んだんか……」
ふたりの異形の高校生が、
その夜はじめて、
人間らしい“安堵の涙”を流した。