また別日、昼休みの教室。
もうすぐチャイムが鳴るというのに、
掃除道具を押しつけられた羽衣は、
困ったようにほうきを握りしめていた。
目の前には、
クラスでもっとも
目立つ女子グループのリーダー。
薄く笑いながら、肩に手を置いてくる。
「ごめーん羽衣ちゃん、
また掃除お願いしていい?
あたしィ、ネイルやんなきゃでぇ~」
後ろには、
取り巻きの数人がクスクスと笑っている。
いつものように、
羽衣が「なも」と頷けば終わる話だ。
……でも今日は、違った。
「……やなも」
はっきりと、そう言えた。
女子が目を細める。
「は?」と語尾が鋭くなる。
「毎回毎回、
それってズルいも。
掃除は交代でやるものだなも」
羽衣は、声を震わせながらも言葉を続けた。
喉の奥が熱くて、膝も少し震えている。
でも――動物たちと話す自分を気持ち悪いって言われたあの日より、怖くない。
「はぁ~~?
何言ってんのアンタ。いい加減に――」
女子が羽衣の肩を掴みかけた、その時。
「……やめといた方がいいと思うけど?」
低い声が響いた。
入り口のドアが開いていて、
そこには長刀と六夢が立っていた。
長刀はじろりとつかさを見下ろし、
六夢はニッコリと笑いながらも、
その目だけは笑っていなかった。
「掃除を押しつけて、
ワレはサボるのが上のやり方ってわけかァ?」
「……あんたたちには関係ないじゃん」
女子が反論しようとするが、
次の瞬間、六夢がにっこり言った。
「ねぇ……私、
けっこーすごくムカついてんだけど?
____この拳をその天狗鼻に
ぶち込みたいんだけど……誰からご希望かなん?」
女子とその取り巻きの顔から、
すっと血の気が引いた。
長刀は黙ったまま背後のモップを手に取り、
バキッと軽く真っ二つに折る。
「きゃっ……!!」
「な、何アレ!?やばいヤバイッ」
女子と取り巻きは悲鳴を上げ、
逃げるように教室を出て行った。
ドアががらりと閉まり、静けさが戻る。
ポカンとしていた羽衣は――ふいに涙が出そうになるのをこらえながら、
二人に駆け寄った。
「ありがとなもぉ!!」
そのまま、長刀と六夢にぎゅっと抱きついた。
六夢は羽衣の髪を撫でながら笑い、
長刀は「よォ言った!」とがははと大笑い。
「もう大丈夫。
あんたには、私たちがいる」
「何があっても、守るけぇの」
その言葉に、羽衣は満面の笑顔で頷いた。
「仲良し3人組」――
この日、それは本物になった。
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
「……てか長刀、あんたその
モップどうすんの?」
「怒られるなも流石に……」
「十斧、お前職員室な」
「……へい」
※きちんと説教されました。