夜。
夕日が落ちきった頃、
羽衣は静かに動物園の裏口の門をくぐった。
____羽衣の「
外から見れば古びた小さな個人経営の動物園だが、
彼女にとっては何よりも帰りたい場所だった。
「ただいまなもー!」
靴を脱ぎ、
がらんとしたバックヤードに声をかける。
すると、
「おおっ、羽衣!」
倉庫の裏からひょっこりと顔を出したのは、父・
エプロンに藁くずをたくさんつけ、
顔は少し汗ばんでいる。
だがその笑顔は、
いつもと変わらず優しかった。
「学校はどうだね?なんかあったかい?」
羽衣は一瞬、
ニコッと笑って、こう言った。
「はっち、友達ができたなも!」
羽唯の表情がぱっと明るくなる。
「なんだって!?
ほんとか!? よかったなあ羽衣~~っ!!」
大きな体を折りたたむようにして、
ぎゅっと娘を抱きしめる。
「誰!?どんな子だ!? 何人!? 名前は!? 好きな食べ物は!? 動物は好きか!? ちょっとその子たち連れてこい!
一緒にゾウの鼻水とか見せてやろう!」
「ちょ、ちょっとお父ちゃん、落ち着くなも!?怖がられちゃうなもーっ」
ふたりで笑い合っていると____
奥の作業小屋から、
無口な男がひょこっと顔を出した。
彼の名は羽造(はねぞう)、通称「ゾウさん」。
ごつい上にゾウの被り物に作業着姿だが、
動物の世話を完璧にこなし、
羽衣にもよくボディランゲージで
「ごはん」「あったかい」などと
伝えてくれる優しい人だ。
「ゾウさん羽衣に友達ができたと!」
羽唯が叫ぶと、
ゾウさんはピタリと動きを止めて……
ゆっくり、ぐっ……と親指を立てた。
それだけなのに、
羽衣の胸の奥がじんわりと温かくなる。
「今日は祝うぞ!なに作ろう、焼き芋? チーズケーキ!? いや肉じゃが!
羽衣は肉じゃがが好きだったよな!」
「うん!はっちお父ちゃんの料理大好きなも!」
はしゃぎながら、
作業場の電気が次々と点いていく。
飼育エリアでは動物たちも、
羽衣の帰宅に気づいたのか声を上げている。
「おかえりなさい」
そう言ってくれていた。
____羽衣は、小さく呟いた。
「____ただいまだなも!」
心からそう思えたのは、
もしかしたら今日がはじめてかもしれなかった。