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23「後日談・羽臣家、パーティー」

夜。

夕日が落ちきった頃、

羽衣は静かに動物園の裏口の門をくぐった。


羽臣動物園はおみどうぶつえん

____羽衣の「」。

外から見れば古びた小さな個人経営の動物園だが、

彼女にとっては何よりも帰りたい場所だった。


「ただいまなもー!」


靴を脱ぎ、

がらんとしたバックヤードに声をかける。


すると、


「おおっ、羽衣!」


倉庫の裏からひょっこりと顔を出したのは、父・羽唯はねただ

エプロンに藁くずをたくさんつけ、

顔は少し汗ばんでいる。

だがその笑顔は、

いつもと変わらず優しかった。


「学校はどうだね?なんかあったかい?」


羽衣は一瞬、

最近のあの事件蟲飼蚈の一件を思い出しかけたが――

ニコッと笑って、こう言った。


「はっち、友達ができたなも!」


羽唯の表情がぱっと明るくなる。


「なんだって!?

ほんとか!? よかったなあ羽衣~~っ!!」


大きな体を折りたたむようにして、

ぎゅっと娘を抱きしめる。


「誰!?どんな子だ!? 何人!? 名前は!? 好きな食べ物は!? 動物は好きか!? ちょっとその子たち連れてこい!

一緒にゾウの鼻水とか見せてやろう!」


「ちょ、ちょっとお父ちゃん、落ち着くなも!?怖がられちゃうなもーっ」


ふたりで笑い合っていると____

奥の作業小屋から、

無口な男がひょこっと顔を出した。


彼の名は羽造(はねぞう)、通称「ゾウさん」。


ごつい上にゾウの被り物に作業着姿だが、

動物の世話を完璧にこなし、

羽衣にもよくボディランゲージで

「ごはん」「あったかい」などと

伝えてくれる優しい人だ。


「ゾウさん羽衣に友達ができたと!」


羽唯が叫ぶと、

ゾウさんはピタリと動きを止めて……

ゆっくり、ぐっ……と親指を立てた。


それだけなのに、

羽衣の胸の奥がじんわりと温かくなる。


「今日は祝うぞ!なに作ろう、焼き芋? チーズケーキ!? いや肉じゃが!

羽衣は肉じゃがが好きだったよな!」


「うん!はっちお父ちゃんの料理大好きなも!」


はしゃぎながら、

作業場の電気が次々と点いていく。

飼育エリアでは動物たちも、

羽衣の帰宅に気づいたのか声を上げている。


「おかえりなさい」


そう言ってくれていた。


____羽衣は、小さく呟いた。


「____ただいまだなも!」


心からそう思えたのは、

もしかしたら今日がはじめてかもしれなかった。

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