冷たい風が吹き抜ける街角。
小さな出店の前に、一人の女性がうずくまり、震えながら折れた手を押さえていた。踏み潰されたコロッケが無惨に地面に散らばり、周囲の人々は戸惑いながらも、関わり合いを避けるように足早に通り過ぎていく。
そこへ、一人の少女が通りかかった。
羽臣羽衣。
制服姿の彼女は、その異変にすぐさま気づき、駆け寄った。
「だ、大丈夫だなも!?
ど、どうしたんだなも!?」
羽衣はしゃがみ込み、苦しそうにうずくまる女性店員の手元を見た。手の甲は腫れ、異常な方向に曲がっている。
「こ、これ……折れてるも……」
羽衣の表情が曇る。
「す、すぐ応急処置するから、
ちょっとだけ我慢してなも!」
鞄の中からハンカチと包帯を取り出し、手際よく女性の手を固定する。震える彼女の肩を優しく叩きながら、羽衣は微笑んだ。
「大丈夫だなも、
ちゃんと病院行けば治るなも。
無理に動かさないようにするんだなも」
女性店員は痛みと恐怖で涙目になりながらも、羽衣の優しさに少し安心したのか、かすかに頷いた。
「……ありがとう、ございます……」
羽衣はにっこりと笑い、
次に地面の惨状を見た。
粉々に潰されたコロッケの残骸。
まるで意図的に踏み潰されたような。
……いや、それはわざと踏み潰さないと
ならないような潰れ方だった。
それを見て、
彼女の目が悲しそうに細められる。
「これ、売り物だったんだなも……?」
女性店員は唇を噛みしめ、小さく頷く。
「うぅ……せっかく作ったのに……」
「んー……」
羽衣は少し考え込み、ふと顔を上げた。
「じゃあ、はっち買うなも!」
「え……?」
「全部!」
羽衣はポケットから財布を取り出し、カウンターに向かうと、まだ売れ残っているコロッケのパックを指差した。
「これ、5パックくださいなも!」
「そ、そんなに……!?」
「美味しいんだも?
なら、友達といっぱい食べるなも!」
元気よく笑う羽衣を見て、
女性店員の目にまた涙が滲んだ。
「……本当に、ありがとうございます……!」
手の痛みで声が震えながらも、彼女は何度も頭を下げた。
羽衣は受け取ったコロッケのパックを抱えながら、元気よく「お大事にな!」と手を振り、歩き出す。その後ろ姿を、女性店員は感謝の涙を流しながら見送った。
街の喧騒の中、羽衣はコロッケのパックを抱え、ふと空を見上げた。
(……なんか、すごく嫌な気配がするんだなも)
彼女の胸の奥に、ぼんやりとした不安が広がっていた。
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
「お、はーちゃんおかえりィ」
「ただいまなもーっ」
「って、すごいなそのコロッケ!?
羽衣それどうしたの!?」
「いっぱい買ったなも!
六夢も長刀も食べるだなもー!」
「おぉ……おやつとしては多くねぇか?」
「夕飯入るかなコレ……」