「ただいまぁ」
玄関の戸を閉め、
六夢が廊下を抜けて奥へ向かうと
――ふと、応接間のほうから芽夢の気配がした。何気なく顔を向けた六夢の目に、異様な色が飛び込んでくる。
「――えっ」
頬にくっきりと浮かぶ大きな痣。
それを無理やり笑顔で隠そうとする芽夢。
「あ、ちい姉おかえり〜。……ちょっと転んじゃってさ。へへ、大丈夫、大丈夫。ファンデでどうにかなるから」
そう言って右頬を手で覆い隠す。
けれどその笑顔は、
痛々しいほどぎこちなかった。
六夢は数秒、
言葉を失ったまま彼女を見つめ
――そして、ゆっくりと顔を背けた。
無意識のように、
階段の上にある美夢の部屋を見上げていた。
「……また、か」
小さく吐き出した呟きは、
芽夢にも聞こえなかった。
ふわりと立ちこめる夕飯の匂いと、芽夢のわざとらしい明るさが、六夢の胸をきつく締めつけ
た。