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32「耐える教育」

「ただいまぁ」


玄関の戸を閉め、

六夢が廊下を抜けて奥へ向かうと


――ふと、応接間のほうから芽夢の気配がした。何気なく顔を向けた六夢の目に、異様な色が飛び込んでくる。


「――えっ」


頬にくっきりと浮かぶ大きな痣。

それを無理やり笑顔で隠そうとする芽夢。


「あ、ちい姉おかえり〜。……ちょっと転んじゃってさ。へへ、大丈夫、大丈夫。ファンデでどうにかなるから」


そう言って右頬を手で覆い隠す。

けれどその笑顔は、

痛々しいほどぎこちなかった。


六夢は数秒、

言葉を失ったまま彼女を見つめ


――そして、ゆっくりと顔を背けた。


無意識のように、

階段の上にある美夢の部屋を見上げていた。


「……また、か」


小さく吐き出した呟きは、

芽夢にも聞こえなかった。


ふわりと立ちこめる夕飯の匂いと、芽夢のわざとらしい明るさが、六夢の胸をきつく締めつけ

た。

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