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33「春休みに向けて」

午後の授業、空は少し霞んだ春の光。

教室の空気も、どこかそわそわと浮ついていた。


「……さて、童共よ。

明日から、いよいよ春休みに入るぞ」


教壇に立つ依燐(えりん)先生が、

静かに、それでも凛とした声で言うと、

教室のあちこちから「やったー!」と小さな歓声が上がる。


「ふふ、よーし! 春休みだ春休み!」

六夢は椅子の上でぴょこぴょこと小さく跳ねるように喜んでいた。


「……フン、

授業まだ終わってねーのに、浮かれおって」


依燐先生が目だけで射抜くと、

生徒たちはすぐに背筋を正す。

____が。


「……Zzz……」

その中で、一人だけ机に突っ伏したままの長刀。


「長刀……貴様、聞いておったか?」

「……んぁ、

お、おお、聞いとるよ先生……春……休み……」


「ふむ。ならば、

明日からの課題がどれほどあるか申してみよ」


「……か、かだいっ!?!?!?」


目を白黒させる長刀に、

教室がどっと笑いに包まれる。


「静かにせい。課題は、

国語のワーク三章分、英語の読解、

数学のドリル、

理科の小レポート、

歴史の年表まとめじゃ」


「う、うわぁ……」

「……ひ、ひぃ……」


教室のテンションが一気に地を這うように低下する中、

羽衣が静かに手を挙げる。


「せんせっ

理科のレポートは自由研究形式でよいだなも?」


「うむ、良い質問じゃ羽衣。観察記録でも考察でも構わぬ。

のう、そちたち。

……春休みであろうが、鍛錬は怠るなよ」


依燐先生が言い終えると、

また生徒たちから小さな悲鳴。

でもその中で、六夢だけは、ぽわんとした顔で浮かれていた。


(春休み……夢羽といっぱい遊べるなぁ……!)


宿題の山のことなど、

完全に脳の片隅に押しやって。

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