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34「ねえ、むむおねえちゃん」

その夜。

課題を終えてまったりとした時間、

六夢の部屋のドアがそっと開いた。


「夢羽?眠れないの?」


パジャマ姿の夢羽が、

もじもじと指先をいじりながら中に入ってくる。


「う、うん……

その、ちょっとだけ話したくて……」


六夢は椅子から立ち上がり、ベッドに腰掛けて夢羽の隣をぽんぽんと叩いた。


「話ってなにかな? 怖い夢でも見た?」


「ううん……えっとね……」

夢羽は言いづらそうに、ぽつりと呟く。


「新しくできたデパートの

……屋上遊園地……行ってみたいなの……」


「……!」


六夢の顔が一気に明るくなる。


「え、行こう行こう!

じゃあ、明日から

春休みだから……日曜日ね!」


夢羽の目が少し潤み、

ぱあっと笑顔になる。


「ほんとに……?」


「ほんと。

ちゃんとお母さんたちにも言っておくね!」


そう言って立ち上がろうとした瞬間____。


「――待って!!」


夢羽の小さな手が、六夢の袖をきゅっと掴む。


「……みむおねえちゃんにだけは

……言わないで……ほしいなの……」


その声は震えていた。

そして夢羽の表情は、明らかに怯えていた。


さっきまでの笑顔が嘘のように、

顔色がサッと青くなっている。


「……夢羽……」


六夢は驚きつつも、

しゃがんで夢羽の目線に合わせた。


「うん。言わないよ。大丈夫」


そう言いながら、

夢羽の頭をやさしく撫でる。


夢羽は少しの間ぎゅっと口を結んでいたが、やがてほっと胸を撫で下ろすように息を吐き、六夢に身を寄せた。


「ありがとう、むむおねえちゃん……」


「いいの。日曜日、思いっきり楽しもうね」


その夜――

六夢は夢羽の手を取りながら、静かに心の中で誓った。


____あの子が笑える時間を、

私がちゃんと守ってあげなくちゃ。




後日、両親と臨夢には事情を話し、遊園地の約束を了承してもらう。

しかし____。




美夢にだけは、

夢羽の希望通り、話さなかった。

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