その夜。
課題を終えてまったりとした時間、
六夢の部屋のドアがそっと開いた。
「夢羽?眠れないの?」
パジャマ姿の夢羽が、
もじもじと指先をいじりながら中に入ってくる。
「う、うん……
その、ちょっとだけ話したくて……」
六夢は椅子から立ち上がり、ベッドに腰掛けて夢羽の隣をぽんぽんと叩いた。
「話ってなにかな? 怖い夢でも見た?」
「ううん……えっとね……」
夢羽は言いづらそうに、ぽつりと呟く。
「新しくできたデパートの
……屋上遊園地……行ってみたいなの……」
「……!」
六夢の顔が一気に明るくなる。
「え、行こう行こう!
じゃあ、明日から
春休みだから……日曜日ね!」
夢羽の目が少し潤み、
ぱあっと笑顔になる。
「ほんとに……?」
「ほんと。
ちゃんとお母さんたちにも言っておくね!」
そう言って立ち上がろうとした瞬間____。
「――待って!!」
夢羽の小さな手が、六夢の袖をきゅっと掴む。
「……みむおねえちゃんにだけは
……言わないで……ほしいなの……」
その声は震えていた。
そして夢羽の表情は、明らかに怯えていた。
さっきまでの笑顔が嘘のように、
顔色がサッと青くなっている。
「……夢羽……」
六夢は驚きつつも、
しゃがんで夢羽の目線に合わせた。
「うん。言わないよ。大丈夫」
そう言いながら、
夢羽の頭をやさしく撫でる。
夢羽は少しの間ぎゅっと口を結んでいたが、やがてほっと胸を撫で下ろすように息を吐き、六夢に身を寄せた。
「ありがとう、むむおねえちゃん……」
「いいの。日曜日、思いっきり楽しもうね」
その夜――
六夢は夢羽の手を取りながら、静かに心の中で誓った。
____あの子が笑える時間を、
私がちゃんと守ってあげなくちゃ。
後日、両親と臨夢には事情を話し、遊園地の約束を了承してもらう。
しかし____。
美夢にだけは、
夢羽の希望通り、話さなかった。