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36「ジェットコースター」

「ねぇねぇ、

最初はさ、ジェットコースター行かない?」


と六夢が提案すれば、


「ええで!

ワシ、こういうん大得意なんよ!!」

長刀が鼻息荒く前のめり。


「夢羽ちゃんが怖がったら、

はっちが守るだなもぉ」


羽衣もいつになく頼もしい。

羽衣自身も背は小学生レベルに小さいので

まるで小さい子が小さい子の面倒を見てるようだ。

夢羽は一瞬不安げに六夢の袖を引っ張ったけど、六夢が笑って「大丈夫だよ、手つないで乗ろ」と言えば、こくんとうなずいた。



⬛︎ ⬛︎ ⬛︎


数分後、

四人を乗せたジェットコースターは空高くぐんぐん登っていき――


ギャアアアアアアアアアアア……!


風を切って落ちていく

轟音と悲鳴が遊園地中に響いた。



⬛︎ ⬛︎ ⬛︎


「……っっっ、あ”あ”あ”~~~~~……!」


降りた直後、

長刀はフラフラとよろめき、

ついには端っこで盛大に嘔吐。


「う゛おええええ……ワシもう無理じゃぁぁ……」


その横で、羽衣が絶叫。


「うぎゃーっ!!

ゲロゲロゲロッピーだなもーっ!!

近寄るなだなもぉぉお!!」

ぴょんと大きく飛び退き、

3メートル以上離れる。


六夢は咄嗟に長刀の背中をさすりながら、

(あーやっぱこうなると思った……)と内心ため息をついた。


が、ふと――


(やば、夢羽泣いてないかな!?)


慌てて振り返ると、

そこには、目をうるませて――嬉しそうに微笑む夢羽の姿。


「……も、もういっかい……のりたいなの……!」


「……えっ!?」


六夢は一瞬時が止まったように目を見開く。

てっきり泣いてるかと思ったのに、控えめな声とともに夢羽は、

小さくガッツポーズをしていた。


「う、嬉しかったの? 楽しかったの??」


「……うんっ

たのしい、なのっ」


さっきまで緊張で固まっていた少女の顔に、

ほんのり火照ったような赤みと笑顔。


それはたしかに、はじめて見る無邪気な表情だった。


六夢の顔がほころぶ。


「そっか……じゃあ、長刀が回復したらまた乗ろっか!」


「や、やめろ……! 二度と……ワシはもう……」

地面に座り込んだまま、長刀はか細く呻いた。


「だなも、

回復までアイス与えるしかないだなも……」


羽衣も遠くから心配してはいるものの、距離は頑なに守っている。



⬛︎ ⬛︎ ⬛︎


こうして、

ひとり酔い潰れ、

ひとり絶叫しながら回避、

ひとり姉ムーブ炸裂、

そして____ひとりご満悦な夢羽。


四人の遊園地めぐりは、

予想外のスタートを切ったのだった。

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