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38「目元の既視感」

くるくると、メリーゴーランドが回る。


木馬の背で楽しそうにはしゃぐ夢羽と羽衣。

「わあ、はやいなの!」

「だなも〜っ、風がきもちいいだなも!」


夢羽の笑い声は、

風に乗ってベンチまで届いた。


六夢は少し離れたベンチに腰掛け、

ペットボトルのお茶を飲みながら、

その光景を優しく見つめる。


隣には長刀が座っている。

彼もまた、飽きもせず、

くるくると回る木馬を目で追っていた。


六夢はふと、夢羽の笑った時の顔を思い返す。

特に



____あの目元。


あの子の笑ったときの目……

どこかで見たような。

――。


「……誰だっけ、あの感じ……」


六夢は、口の中でぼそっと呟いた。


そのとき。


「よし、見とれ、六夢!」


突然、長刀が立ち上がると、

両手を挙げてメリーゴーランドの

夢羽と羽衣に向かって、

変なポーズを取りながら踊り出した。


「いえーい!

回っとるのう、くるくる祭りじゃあ!!」


「ちょっ、なにやってんの長刀!!」


「笑わせに行くけぇ!!」


夢羽と羽衣が驚いて、でもすぐにケラケラと笑い出す。


「なぎなたおにいちゃん、変なの!」


「だなも〜!

へんなのおどってるだなも〜!」


六夢は、

夢羽の笑顔に宿るなにか既視感の正体をつかみかけていた思考を一度、手放した。


「……まぁ、いっか。今は、楽しい時間だしね」


そう言って、自分もベンチを蹴って立ち上がる。

そして――


「どけどけ〜! 六夢様も混ざるぞ〜!!」


長刀の横に並んで、

変なポーズで踊りながら、

夢羽と羽衣に手を振る。

皆が笑って、

はしゃいで、

明るい声が空に響いた。


たとえ、心のどこかに引っかかる違和感があったとしても――

今は、夢羽の笑顔がすべてだった。

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