「――ッ!!
いやあぁあぁあああぁああああ゛!!!!!」
鋭い叫び声が、応接間に響いた。
妻の悲鳴だった。
絨毯の上に崩れた当主の身体からは、
もう一切の気配がなかった。
美夢はその上に立ち、
微笑みを絶やすことなく、
鉈を何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も振り下ろしていた
ぐちゃり。
ぐちゃり。
ぐちゃり。
ざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざく
ぬるり、とした音。湿った空気。ずっと続くその動作は、もはや儀式のようでさえあった。
「……美夢……貴方なにを……やって……!」
震える声で母が叫ぶ。
だが、美夢は答えない。
刃が止まった、そのとき――
きぃ……という微かな扉の音。
ふと、開いたその先に、
幼い影が立っていた。
夢羽だった。
パジャマ姿のまま、
目を瞬かせて立ち尽くしている。
先ほどの叫び声に目を覚まし、
様子を見に来てしまったのだ。
「おかあさん……どうしたの……?」
「____夢羽、逃げなさい!!」
母が咄嗟に叫ぶ。
だが、夢羽の瞳は恐怖に縛られ、
足が一歩も動かない。
何が起きているのかを理解するには、
あまりに現実離れしていた。
「逃げ」
もう一度、
母が声を張り上げようとした瞬間だった。
ズン、と。
何かが深く沈むような音とともに、
母の体が揺れる。
美夢の鉈が、
無言のまま彼女の胸元に打ち込まれていた。
「……うるさいのよ、お母様。」
その声は、
まるで食器棚の埃を払うような軽さだった。
次の瞬間、母の体が音もなく倒れ
――夢羽の前から、大人の庇護が失われた。
「おか……おかあ、さん。」
小さく震えながら、
夢羽がようやく一歩、後退る。
逃げなければ。
幼い脳が本能的に信号を激しく送る。
しかし踵を返そうとする身体から
生えたその腕を、美夢がすっとつかんだ。
白い手が、小さな右腕を捕らえる。
「我慢してたのに
……全部、邪魔しやがるのねェ」
柔らかく、優雅に笑いながら。
そして
メキッ
――強く、強く引かれた。
ぶちっ
何かが外れる音が、静かに響いた。
「い、い゛やああああああああっ」
夢羽の叫びが夜を裂く。
痛みと恐怖で顔が歪む。
視界がぐらぐら揺れて、
何が何だかわからない。
ぐしゃ、と足音。
倒れ込んだ夢羽の頭を、
美夢がぐいと掴む。
その右目に、何かが触れる感触。
そして――視界が、一気に真っ暗になった。
「良い子は逃げちゃダメよぉ」
美夢の声が、遠く、霞んで聞こえる。
小さな身体を這わせて逃げようとする夢羽。
だが、美夢の足が、それを押し留める。
「……未熟はお前よ、バカが。」
淡々と告げられる言葉。
応接間の明かりが、
まるで冗談のように暖かく灯っていた。
その下で、幼い少女は、目を潤ませ、
唇を震わせながら、美夢を見上げていた。
瞳の奥に映るのは、
狂気に支配された