児童養護施設「
臨夢はいつものように、何も言わずに白子の入れてくれた紅茶を口にした。彼の手元に置かれたカップから、ほのかに立ちのぼる湯気。白子はその様子を見つめながら、柔らかな声で言った。
「今日のは、ほんの少しラベンダーを加えてみたの。臨夢くん、嫌じゃない?」
臨夢は軽く首を横に振り、わずかに目を細めた。言葉はなくても、その反応だけで十分だった。白子はふわりと笑って、隣にあるティーポットをもう一度満たす。
「……子どもたちが、あなたのことを兄ちゃんって呼んでたわ。無口で優しい兄ちゃん、だって」
臨夢はその言葉に、目を伏せたまま肩をすくめる。照れているのか、否定するつもりもないらしい。
白子は少しだけ、そんな彼の横顔を見つめた。
「あなたって……不思議な人。何か重たいものを背負ってる気がするのに、それを子どもたちには感じさせない。きっと、すごく優しいんだと思うの」
臨夢は答えない。
けれど、カップをそっと置いて、白子の手の上に自分の手を重ねた。指先が少し冷たい。彼は視線を合わせようとしない。ただ静かに、そこにいる。
「……ムリはしないでね。話したくなったら、いつでも話して。
言葉がなくても、
私はちゃんと、あなたを見てるから」
臨夢の眉が、かすかに揺れる。彼の中で、何かが微かに動いた気がした。
ふと、白子が笑う。
午後の陽が、二人の影を長く伸ばす。静けさに包まれたその時間は、どこか永遠に続きそうで、けれどどこか儚い。
臨夢の心の奥底に潜む真実が、いつか白子を傷つけてしまうのではないかという恐れ。それでも今は……。
____この穏やかな時間を、大切に抱きしめていた。