──時間が経った。
夢羽の命は、なんとか繋ぎ止められた。
「……右目と両腕がもうダメだった」
「だから
……長男坊から、
あの残骸から使える部位を寄越して貰ってから、くっつけたぜ。」
四十万が静かに言う。
六夢は手術台の上の夢羽を見た。
左腕は父親のもの。
右腕、右目は母親のもの。
継ぎ接ぎの身体。
それでも、夢羽はまだ生きている。
「……これで、いいんだよね……?」
自分に言い聞かせるように呟いた六夢の隣で、芽夢が嗚咽を漏らした。
臨夢も、弦夢も、ただ黙って夢羽を見ていた。
六夢は、夢羽の手を握る。
冷たく、まだ動かないその手を。
「……絶対、助けるから……」
闇医者の部屋には、夜の静寂が広がっていた。
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
暗い部屋に、かすかな息遣いが響いた。
薄く開いた瞼の下、緑色の瞳が揺れる。
「……う……」
掠れた声が漏れた。
夢羽が、目を覚ました。
「夢羽!!」
六夢が真っ先に駆け寄る。
臨夢、弦夢、芽夢も緊張した面持ちで見守っていた。
四十万は壁にもたれ、腕を組んで様子を伺っている。
夢羽の目が、ぼんやりと六夢を映した。
だが──
「……
その一言で、六夢の全身から血の気が引いた。
「……な、何言ってんだよ……?
私だよ!
六夢お姉ちゃんだよ!ねぇ、夢羽!
お姉ちゃん!」
「……む、む……?」
夢羽の顔に困惑が浮かぶ。
焦点の合わない瞳。
怯えたように、左手
──今は亡き父の腕を見つめ、右目を抑えた。
「……なに、これ?いたいの。
なんで、ちがう……どこ?」
「……っ!!」
六夢は言葉を詰まらせる。
その横で、芽夢が震えながら縋るように夢羽の手を取った。
「ねぇ、芽夢だよ!!
芽夢たちと一緒に住んでたでしょ!?
覚えてるよね!?ねぇ!!」
「……めむ……?」
ぽつりと呟く夢羽の顔に、
何の確信もない。
その場にいた全員の心に、冷たい絶望が広がった。
⬛︎ ⬛︎ ⬛︎
「……記憶障害だ」
四十万が静かに言った。
六夢は震える手で夢羽の肩を掴む。
「……冗談でしょ……?」
「……時間が経てば戻るかもしれねぇが、
今のところは何も保証できねぇ。
無理もねぇ、こんなボロ雑巾にされるわ
親目の前であんな挽肉にされたんだ。
正気でいようってのが無理な話だ。」
四十万が煙草を咥え、
胸糞悪そうな顔をしながらつぶやく。
「……そんなの……嫌だよ……。
約束、したのに……。
海、一緒に……いこうね……って……。
また、遊園地だって……また、一緒に……
なのになんでこんなことになってんの!?
どうしてお父さんもお母さんも死んで
夢羽がこんな思いしなきゃいけないのよ!?
なんにも悪くないのに!何もしてないのに!
……クソッ!畜生が……畜生ぉおおおおおッ゛」
六夢の瞳から、大粒の涙がこぼれた。
何のために助けた?
何のために、ここまでして……?
「助けたのに……
守るって言ったのに……」
夢羽は自分の顔を触りながら、
怯えたように呟く。
「…だい、じょお……ぶ……?」
その言葉に、芽夢が泣き崩れた。
「やだ……やだよぉ……!!……夢羽が、夢羽じゃなくなっちゃったぁ……!!」
弦夢は拳を握りしめ、歯を食いしばっていた。
臨夢は無言で俯いたまま、何も言わなかった。
六夢は、ただ、夢羽を抱きしめた。
震える肩を抱き寄せながら、絞り出すように呟いた。
「…………ごめんね。
……ごめんね……ごめんなさい
……ごめん。」
それは、
ただ虚しいだけの謝罪だった。
──六夢は、一気に大切なものを
一度に奪われ、失った。