「だーめ、私が貰ったんだから、私が返す」
「ちぇ、なんだよそれ。要らないんだったら迷惑料代わりに貰っといてやろうと思って……イテッ」
伸ばしたリョウちゃんの手を叩くと、私は今度彼が店に来たら連絡を入れて貰うように頼んだ。
鍵は丁寧にバッグに仕舞い、代わりにリョウちゃんに、自分の連絡先を渡す。
「彼が来たら、ここにお願い。すぐよ、絶対に出るからね」
「ちぇっ。でも、まあいいか。数年来の願望だった、さっちゃんのプライベートアドレスをゲット出来たんわけだし?」
冗談を飛ばすリョウちゃんに、私は再度念押しをして、その日はバーを後にした。
フーっと熱い息を吐き、黒い夜空を見上げると、想わずニンマリと笑みが漏れる。何故かって? そりゃあ、私にも、ちょっぴり下心があるからに決まってる。
酔った目には、とても素敵なマスクに声、スタイルに見えた彼。
スーツに靴、それに時計はすべて一流品、しかも車はベンツというリッチな
もしかしたらコレってさ。カミサマが可哀想な私に与えてくれた、新しい出会いのチャンスじゃない!?
出来れば彼とは今一度出会いたい。それもあんな醜態ではなく、バッチリキメたセクシースタイルで。
ああ、なんて
ふと見上げれば、夜空に煌めく流星群。天体までが、私の未来を祝福してくれているよう。
その日、まだ酔いから醒めきらぬ私は、子どものように持っていたバッグを振り回し、スキップしながら帰路についたのだった。