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第2話

翌日のランチでおとずれたカフェ。

何故か目の前には、葉月優雨はづきゆうがカレーを食べている。

どうしてこうなったのかは、かじかにもよく分かっていないが、二度目ましての二人が合席あいせきしている。


めるよ?』

スプーンを口に運びながら、葉月はづきがかじかを見る。

『ああ、うん。』

とりあえず目の前のカレーに手をつけて、口を動かす。


昨日の夜ははっきりとわからなかったけど、目の前の葉月優雨はづきゆうという男の顔を、まじまじと見る。

女の子たちがキャアキャア言うのは間違いないルックスに、どこか無愛想ぶあいそうな話し方。

いままでこんな雰囲気ふんいきの男の子はそばにいなかったから、不思議な感じだ。


『何?じろじろ見て。』

『え?ああ・・・ごめん。昨日はよくわかんなかったから・・・確認してる。』

かじかがたんたん々と言ったので葉月はづきが笑う。


『何それ。睦原むつはらさん、面白い。』

『そう?っていうか・・・葉月はづき君ってすっごい見られてるね?』


さっきから周りの視線が彼にそそがれている。

傍にいるかじかに向けられる視線は冷たいが。


『うん?ああ、ごめん。俺、ファンがいるみたいで。』

『・・・へえ。』

かじかの反応に葉月はづき噴出ふきだす。


面白おもしろ・・・今までいなかったタイプだ。ふうん。』

『なに?』

カレーをすくったスプーンが止まる。


葉月はづきの目が悪戯いたずらっぽく笑った。

睦原むつはら・・・かじかだっけ?かじかって呼んでいい?』

『・・・え?』

『俺のことは優雨ゆうって呼んで。今から俺ら友達な。』


葉月はづきはそう言うと、楽しそうに頬杖ほおづえをついた。

丁度ちょうど、ランチのデザートのアイスが二つ運ばれてくる。

『ほら、早く食べないと溶けちゃうよ。』

『ああ・・・。』

かじかは眉をひそめると急いでカレーを食べた。



『友達って?』

葉月はづきと出会ってから、二ヶ月がとうとしている。

ランチをともにして、友達と宣言せんげんした葉月はづきはあれから時間があれば、かじかと過ごしている。


『うん?』

『だから、友達ってこんな感じなの?私、男の子の友達いなかったから。』

『ああ、俺も女の子の友達はいないな。そういや。』


今日は休日ということもあり、葉月から誘われて紅葉もみじを見に来ている。

カメラマンらしく、彼はちょくちょく何かを見つけては、カメラをのぞき込む。


『こういうのって・・・一人のほうがいいんじゃないの?集中できるの?』

『うん?』

『だから・・・撮影の邪魔じゃまにならないの?私は。』


かじかが足を止めると、葉月はづきはカメラをのぞいたまま即答そくとうした。


『ならない。かじかは、な。』

『それってどういう?』

『どういうって・・・かじかは邪魔じゃましないじゃん。俺が好きにしてても怒らないし、大体だいたい文句もんく言うもんなんだ。せっかく一緒にいるのにってさ。』

『そうだろうね。』


カメラをろして葉月はづきはかじかを見る。

『そう、分かってるのにそれをしないから。』

『・・・しないわけじゃ・・・。』

『怒ってんの?』


かじかは首を横に振る。こんなことに怒る意味なんてない。

『ほら。そういうとこ。』

葉月はづきは優しく笑う。かじかの胸がドッと鳴った。


居心地いごこちがいい。こういうの初めて、俺。』


友達ってこういうもの?


かじかの心を読んだのか葉月はづき悪戯いたずらっぽく笑った。

『そう・・・じゃなくてもいいよ?』




撮影のたびに、葉月はづきはかじかを誘う。

遅くなるときは必ず送ってくれる。

けして送りおおかみにはならない葉月はづきは、かじかにとって良い友達・・・なんだろうか?


二人で会う時間が多くなっていてもいやな気はしない。

でも、葉月はづきといると感情が複雑ふくざつになってくる。

前の彼氏と比べたら圧倒的あっとうてきで、思い出すことすら無駄な時間だ。


そんなことを葉月はづきこぼしたら、彼は笑っていた。

『そんな奴、さっさと忘れちゃえよ。』

海にカメラを向けて、葉月はづきは言う。


『俺がいるんだし、忘れちゃえよ。新しい恋見つけたほうがいいよ。』

『簡単に言うなあ・・・。』

かじかがぼやくと葉月はづきが笑う。


『当たり前じゃん。忘れたほうがいいからな。』

『・・・それって友達として言ってんの?』

かじかが投げた言葉が、波に消えた。


葉月はづきはただカメラをのぞいている。

何度目かの波が打ち寄せて、葉月はづきの足元をらしては消えた。

何かささやくような声が聞こえた気がして、かじかは視線を上げたが、葉月はづきは相変わらず、カメラをかまえたままだ。

違うのはときどき々こちらを向いているだけで。


『撮ってんの?』

『いいや、撮ってない。撮ってもいいなら撮るけど。』

『あー、それは無理。写真は好きじゃない。』


『ん?かじかは映像専攻えいぞうせんこうだっけ?』

『・・・まあね。作るのは好きだけどさ、なんかね。』

『うん?自分に自信ないの?』


いきなり図星をつかれて、かじかは苦笑くしょうした。

『うっわ。そう、美人でもないし、ほら背が高いからさ・・・。』


かじかは175センチ近くある。

普通の女の子と比べると、背が飛びぬけている。

おかげでヒールも選んだことがないし、流行はやりの可愛い服も着た事がない。


『そう?』

葉月はづきはかじかの傍に立つと、片手で頭に触れた。

『俺はかじかよりもでかいから、気にすることないんじゃないの?』


頭一つ分、背の高い葉月はづき。話しているとき、少し目線が高いのは少し新鮮しんせんだ。

『それに美人じゃないなんて、誰が言ったんだよ?お前は自分を知らないだけだよ。』


誰もが振り向く男に言われてもと、かじかが苦笑すると、葉月はづきはかじかのおでこをつついた。


『何でそんな顔すんの?本当・・・そういうのはよくないぜ。』

『・・・うん。心にめておく。』


かじかの心無い返事に、葉月はづきは小さく溜息ためいきを付くと、かじかの前髪を指先でねた。

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