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第3話

『ねえ、かじかは葉月はづき君とよく一緒にいるけど、彼氏なの?』


帰り道のカフェで、お茶をしていたメイが、カップを持ってかじかをのぞき込む。

その目は興味津きょうみしんしん々とある。


『友達だよ。仲の良い、男の子の。』

『ふうん。』

うそは言ってない。実際じっさい仲が良いし、恋人みたいな距離に、なったことなんてない。


『好きなの?』

唐突とうとつなメイの質問に、かじかは噴出ふきだすとき込んだ。

『何でそんなあわてるのよ。』

『ゴホッ、違う。ゴホッ・・・メイが変なこと聞くから。』


『変?でも学校だと皆、葉月はづき君とかじかは、恋人だって思ってるみたいだよ。』

そう言われて、ますますき込むと、メイが水の入ったグラスを差し出した。


『ほら、落ち着いて。まあ、そんなに困っちゃうならそうじゃないんだろうね。かじか・・・元彼のこと、引きずってんの?』

グラスの水を一口飲んで、かじかは顔を上げた。


『元彼?全然。』

そういえば、言われるまで思い出すこともなかった。

送りおおかみ君。


『フフ、そっか。ねえ、かじか。』

『うん?』

葉月はづき君、優しい?』

メイはふわっと微笑ほほえんで見せる。


『・・・そうだね、優しいかな。』

『じゃあ、大事にすべきだよ。・・・友達でもね。』

『・・・そう、だね。』


軽快けいかい着信音ちゃくしんおんが、メイの鞄の中で鳴り、彼女の綺麗な指先が、携帯電話を取り上げた。


『あ、彼氏だ。なんかお休みになったみたい。』

メイの顔が少し嬉しそうに微笑ほほえんだので、かじかはうなづいた。


『行っておいで。せっかく連絡してくれたんでしょ?』

『うん。行ってくる。かじかも頑張ってね。』

メイは鞄を持つと足早にカフェを出て行った。


今、流行はやりの可愛らしいスカートの裾がふわふわ揺れている。

少し進んだところで振り返り、大きく手を振るメイ。

かじかが女でも、メイは可愛い。

かじかは頬杖ほおづえを付くと、残りのお茶を飲み干した。




『聞いてる?』

うわの空だったのか、目の前にのぞき込んでいた葉月はづきの顔に、一瞬いっしゅん驚いた。

今日は海の撮影。暖かい砂浜に座り込んでいたせいで、気持ちよくなっていたようだ。


『ごめん・・・何?』

葉月はづきは隣に腰かけると、小さく溜息ためいきを付く。

『・・・もういい。で、何か悩み事でもあんの?』


『うん?そんなことはないけど。』

『・・・お前、顔に出やすいからさ。俺でよければ聞くよ?』

『顔に出てた?』


かじかが片手で頬に触れると、葉月はづきはハハと笑う。


『うん。ま、言いたくないなら、いいけどさ。』

『ごめん。あ、で、どんなの撮れたの?』

視線を葉月はづきの手元にうつす。


『ああ、見る?かなり綺麗なの撮れた。』

葉月はづきはカメラを操作そうさして、撮ったものを見せてくれる。

美しい色合いが、小さな画面におさまっている。


『うわあ、凄い綺麗。才能あるなあ・・・。』

『まあね。賞も取れちゃうほどだから。』

『自分で言う?・・・でも凄いな・・・かっこいい。』


素直に出た言葉だったけど、一瞬いっしゅん葉月はづきが止まった気がして、顔を上げた。

視線が合うと彼の顔が赤くなった。


『うん?』

『あ・・・いや。なんか・・・めずらしく照れた。』

『言われれてるでしょ?』

れてるけど・・・なんかね。』

『そっか。』


目の前の、いつも自信満じしんまんまん々な葉月はづきが照れて、はにかんでいる。

それが面白くて、つい声に出して笑ってしまった。


『可愛いとこ、あんだね?』

かじかの言葉に、葉月はづきの顔がもっと赤くなる。


『どうしたの?』

葉月はづきは視線をらすと、眉をひそめて片手でひたいを押さえた。


『まじかよ・・・。』

『うん?』

『なんでもない。もう少し撮ってくる。』


カメラをかかえて、海のほうへ歩いていく葉月はづき

なんだか悪いことを言った気になったけど、彼の赤い顔を見れたのでいいかと、かじかはほくそ笑んだ。

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