目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第5話

最近の自分は変だと思いつつ、課題かだいを作るために、ラップトップとにらみ合っている。

かじかは頬杖ほおづえを付くと、机の上にある携帯電話を見た。


何かメッセージが来ているらしく、点滅している。

気が散るといけないから手には取ってはいないが、さっきから数分置きくらいに届いている。迷惑メールのたぐいだろうか?


またピコンっと音がして、かじかは仕方なく携帯電話に手を伸ばした。

『うん?』


メッセージは葉月はづきだ。

開くと今、丁度ちょうど送ってきたらしい、迷惑メールにまぎれている。


『何してる?』

葉月はづきらしいメッセージに噴出ふきだすと、かじかは指先で文字を打つ。


『課題やってる。』

『課題?進んでる?』

『進まない。ウサギにしようかネコにしようか悩んでる。』


『うーん、じゃあネコにしたら?』

『ネコか、そうしようかな。』

『出来たら見せて。俺まだ、かじかの作品みたことないし。』


『まじで?』

『うん、誰かに見せるために作るほうがモチベ上がるよ?』

『そっか・・・そうやって作ってるの?』


『うん、俺は被写体ひしゃたいがいるし・・・良い物作って見せたいって思うから。』

『わかった。頑張ってみる。』

『うん、頑張れ。』


やり取りが終わり、電話の向こう側で葉月はづきが笑っているような気がして、かじかは微笑ほほえむ。


最近本当にこういう感じになることが多い。

なんだかんだ一緒にいて、いろんな話をしている。

それでも時々、ドキっとすることが多くなって、どこか居心地いごこちが悪い気もしている。


かじかはラップトップに向かうとネコをえがく。

デザインは、モチーフは、考えることは山積やまづみだが、葉月はづきが頑張れと言ってくれたのだから頑張れそうだ。

以前作った画像のファイルを呼び出すと、一つ一つ確認を始めた。





『で、課題クリアしたんだろ?』

カメラをいじりながら葉月はづきが笑う。

かじかは両手を伸ばすとうなずいた。


『うん、今回はありがと。助かった。』

『そっか・・・で、俺はそれ何時いつ見られるの?』

『え?』

『見せてくれる約束じゃん?』

『そうだっけ。じゃあ。』


かじかは鞄から小さなパソコンを取り出すと、電源を入れた。

すぐに立ち上がりデータを呼び出すと再生さいせいした。

小さなネコと風景のアニメーションだ。


『おお、凄いじゃん。てか・・・上手だな。』

『そう?ありがとう。』

『うん、色合いとか最高。俺の好きな色だ。』


葉月はづき微笑ほほえむと、かじかがうなずく。

『そう、ネコにしたらって言ってくれたから。それに誰かのために作ると、モチベ上がるって言ってたでしょ?だから好きなのに寄せてみた。』


『そっか・・・。どうだった?』

『上がった。ってか・・・凄い楽しかった。』

『だろ?』


葉月はづきが嬉しそうに笑うと、かじかの胸がぎゅっと締め付けられた。

『うん・・・ありがと。』

『うん。俺もさ、今回は色々撮ってるけど、最高のができそう。』


『そうなの?』

『ああ、出来たら見せる。課題とは違うのでコンテスト用のやつ。応募するかはわかんないけど・・・。』

『応募しないの?』


『個人的に撮ってるからなあ・・・。』

『そっか。前のさ・・・賞取ったの素敵だった。』

『ああ、あれはさ、まぐれだと思う。いつもラッキーなんだって思ってる。だってさ、良い写真ばっかなんだぜ?丁度ちょうど目にまって選んでもらえた・・・そんな風に考えてるんだ。』


謙虚けんきょなんだね。もっと自信満じしんまんまん々かと思ってた。』

『まさか・・・いっつもドキドキしてるよ。今だって。』

『今?』

かじかが葉月はづきの顔を見ると、彼の顔が赤く染まっていた。




二人の距離が少しちぢんだ気がして、かじかは少し戸惑とまどっていた。

別に手をつないだりするわけじゃない。


ただ一緒にいて話をしているだけ。二人で楽しい時間を過ごしているだけ。

これからランチを一緒にするわけだが、以前と比べて、かじかにとっても特別になっている。


席についてから携帯電話に目を落としていると、傍に誰か立っている気配がした。

ふと視線を上げると綺麗な女の子が立っている。


『ええと?』

かじかが驚いて声をかけると、綺麗な顔のその子は眉をひそめた。


『ねえ、優雨ゆうと付き合ってんの?』

『え?』

かじかの言葉に彼女の目がつり上がる。

そばの椅子に座ると、かじかの顔をのぞきこんだ。


『付き合ってないなら、こうやって会うの止めてくんない?優雨ゆう、最近デートも断ってくる。私のほうが先に好きになったんだから。』

『・・・あ、友達だから。』

『友達だったら、なおさら止めて。』


『あの。』

かじかの手をつかんだ彼女の手は綺麗なネイルだ。

華奢きゃしゃで細い指輪が似合っている。


『本当に・・・お願い。好きじゃないなら止めて。』

綺麗な顔に大きな瞳が揺れている。かじかは困って、うつむくしか出来なかった。


『ごめんなさい・・・。』

彼女の手をはずして、鞄を持つと頭を下げた。

『・・・約束はできないけど・・・迷惑はかけないから。』


席を立ってカフェを出る。

足早に駆け出すとその場から逃げ出した。


綺麗な女の子。

葉月はづきの隣に並べば、絵になるだろう。

たまらなくなって逃げ出してきたけど、鞄の底のほうで携帯電話が鳴っている。多分、葉月はづきだろう。


さっきの彼女の泣きそうな瞳が忘れられずに、鞄を開けられなかった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?