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第6話

それから二ヶ月ほど、かじかは葉月はづきを避けていた。

その間も携帯電話にはメッセージが届いている。

返事はしているものの、なにかと理由をつけて会うことだけは避けていた。


学校でもなんとか顔を合わさないようにしていたものの、とうとうつかまってしまった。

『かじか!』

呼び止められて手をつかまれる。

久しぶりの葉月はづきは少し疲れているのか顔が青かった。


『ごめん・・・。』

振りほどこうと手を動かしたが、葉月はづきがぐっと握り締める。

『ちゃんと話しよう。喧嘩けんかしてるわけじゃないんだからさ。』

『・・・そう、だけど・・・。』


ぐっと振りほどこうとした手を上げると、葉月はづきは首を横に振る。

『かじか・・・頼むから。』

『・・・わ、わかった。』

そう言い終える前に、葉月はづきの後ろからあの子がやってくる。


綺麗でまぶしい女の子。

彼女はかじかをとらえると、目を吊り上げてやってきた。


優雨ゆう!!今日一緒にカフェ行こうよ。』

葉月はづきの視界に入ると、彼女の顔が柔らかく優しく微笑ほほえむ。

それを見て葉月はづきが眉をひそめた。


『悪いけど、俺、今かじかと話してる。』

『うん、じゃあ終わるまで待ってる。いいでしょ?』

『・・・よくねえよ。まじでさ・・・。』


葉月はづきの声が少し強くなったので、かじかはつかまれたままの葉月はづきの手を動かした。

『行っておいでよ。また後で電話して。話ならそれでもできるよ。』

『な、かじか!』


かじかは彼女の顔を見て頭を下げると、葉月はづきの手を優しく外した。

『ごめん。本当に・・・邪魔じゃましないから。ごめんね。』


葉月はづきの顔すら見れずに、きびすを返す。

情けなくて泣き出しそうなのをぐっとこらえて、足早に逃げ出した。




真夜中、携帯電話にメッセージ。

葉月はづきからだ。


『ごめん。』

から始まった言葉は、かじかと彼女のやり取りを全て、知っているようだった。


『あいつから全部聞いた。ごめんな・・・俺、何も知らなくて。』

かじかはそっとメッセージを打つ。

指先が震えていた。


『大丈夫、ごめんね。彼女がいたのに邪魔してたのは私だった。』

『違うよ。彼女じゃない・・・あいつ何言ったのか知らないけど、まじで付き合ってないから。』


『うん、でも友達なら邪魔できないよ。』

『邪魔って?』

『あの子、君のこと好きだって。だから友達としては応援しなくちゃ。』


メッセージを打ち終えて数分、パタリと反応が来なくなった。

かじかが携帯電話を置くと、呼び出し音が鳴り響いた。


おそるおそる出ると葉月はづき不機嫌ふきげんそうな声が聞こえた。


『友達?』

『・・・うん。』

『なあ、まじで言ってる?俺、そんな風に思われてた?』

『え?』


『こんなこと電話で言うことじゃない。でもメッセよりちゃんと言わなくちゃいけない。なあ、かじか・・・俺のこと嫌いか?』


葉月はづきの声が少しふるえている。


『き、きらいじゃない・・・。』

『なら・・・さ、明日、朝ちゃんと会おう。ちゃんと話そう。』


どこか泣き出しそうな声に、かじかの心臓がぎゅっとつぶされた。


『わ、わかった。ねえ・・・。』

『何?』

『ご、ごめんね?』

『・・・うん、いい。大丈夫・・・でもさ、本当に。』


『うん?』

『頼むから・・・けないで。』


電話が切れて、光の消えたそれをぎゅっと胸に抱きしめた。

今更いまさらこんな風に思い知るなんて・・・。

私、葉月はづきが好きだ。

それでも、あの日見た、彼女の揺れる瞳が忘れられなくて、ただ目を閉じた。




早朝、目が覚めて約束の時間前に家を出る。

少し肌寒はださむい風の中、マフラーを鼻まで上げて歩き出すと、目的地へ向かった。


葉月はづきと会って何を話すんだろう?

これからも友達でいよう、そう言うべきなんだろうけど。

冷えた手をポケットに突っ込んで、視線を上げる。

少し離れた場所に見慣みなれた姿が見えた。


葉月はづき相変あいかわらず素敵で、ぼんやりと空をながめている。

かじかがゆっくり近づくと、それに気付いてホッとしたように微笑ほほんだ。


『良かった。来てくれて。』

少し低い声で優しく響く。

葉月はづきは眉を下げると、かじかを見た。

『寒いけどさ・・・散歩しながら話しよ。』

『うん。』


二人並んでゆっくりと歩き出す。

隣を歩く葉月はづきは久しぶりで、ドキドキした。


『あいつにさ・・・告白されたんだ。』

『え?ああ・・・そうなんだ。』

ズキっと痛む心臓に、ドキドキがプラスする。


『でも断った。好きな奴いるって。』

『そう・・・なんだ。』


歩いているだけで精一杯で、自分が答えている言葉がよくわかってなかった。

かじかは足を止めた葉月はづきに気付いて振り返る。


『わかってる?俺が言ってること。』

『え?あ、ごめん。なに?』


葉月はづきの目を見て、かじかの顔が熱くなる。

一気に心臓の音が大きくなった。耳にまで響いてくる。

『・・・。』

何か言いかけて葉月はづきが口を閉ざす。

ゆっくりとかじかの傍に立つと頬に触れた。


大きな手が優しく動く。

熱いのは頬?それとも手?


『・・・かじか。』

かじかが顔を上げると、葉月はづきの顔が近づいてひたいが触れた。


『・・・傍にいてよ。俺の。』

するっと葉月はづきの両手が、かじかを抱き寄せる。

葉月はづきの胸に抱き寄せられて、甘い香りがした。

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