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第5話

 第一幕:リシュアン侯爵家のその後



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牢獄に沈む侯爵


 王都レヴァンティアの外れ、厚い石壁に囲まれた王国中央刑務所。

 そこは、重罪人が投獄される場所であり、一度入れば二度と外の世界を見ることは叶わないと言われていた。


 その最深部――陽の光すら届かない暗い独房に、一人の男が座り込んでいた。


 かつては王国の有力貴族だった男、元リシュアン侯爵。


 彼は鉄格子の向こうをぼんやりと見つめながら、何度も自分の運命を呪っていた。


「……ありえん……こんなことが……!」


 リシュアン侯爵はかつて、野心に満ちた男だった。

 公爵家の地位を狙い、イザベルを陥れようと画策し、

 そのために、息子アーノルドを使い、マリア・ブロンズと共謀した。


 しかし、その計画はすべて破綻した。

 イザベルの冷静な対処によって、彼の策は次々と打ち砕かれ、

 最終的には、王宮の査問会によって"国家に対する反逆行為"と認定されたのだ。


「……イザベル……!」


 侯爵は爪を噛みながら、呟いた。


 すべては、あの女のせいだ。

 もし、彼女さえいなければ、自分は今も貴族社会の頂点にいたはずだった。


 だが、どれだけ彼が悔やんだところで、現実は変わらない。


 貴族としての地位を剥奪され、資産はすべて没収され、

 リシュアン家の名は**"愚かな一族"**として語り継がれることになった。


 彼のかつての取り巻きたちは、一斉に彼を見捨て、誰一人として助けようとはしなかった。


 リシュアン家は、完全に滅びたのだ。



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貴族社会の記憶


 王都の社交界では、リシュアン侯爵家の名前が嘲笑の対象となっていた。


「まったく、リシュアン侯爵ほど愚かな男も珍しいですね。」

「あのような無謀な計画を立て、公爵家に喧嘩を売るとは……。」

「結局、自滅しただけではありませんか。」


 誰もが、彼の失敗を笑い話にし、**"反面教師"**として語り継いだ。


 貴族社会では、地位や財産を持つ者が尊ばれるが、

 一度転落した者は、もはや誰からも相手にされない。


 リシュアン侯爵は、もはや歴史に残る"敗者"となったのだった。



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侯爵の最期


 そして、その数ヶ月後――


 リシュアン侯爵は、獄中でその生涯を終えた。


 もはや何も望みを持てず、

 復権の可能性すらない絶望の中で、彼は衰弱し、誰にも看取られることなく息を引き取った。


 葬儀が行われることもなく、

 彼の亡骸は、無名の墓地にひっそりと埋葬された。


 貴族社会では、誰も彼の死を惜しまなかった。


「当然の結末だな。」

「因果応報というものよ。」


 そう言われるだけの、哀れな最期だった。



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リシュアン家の完全なる消滅


 リシュアン侯爵の死によって、リシュアン家は完全に滅びた。


 その名は歴史の片隅に追いやられ、

 誰もそれを思い出すことはなくなった。


 かつて王国の有力貴族であったはずの家が、

 ほんの数ヶ月で完全に消え去ったのだ。


 王宮内の権力争いに敗れた者が、どのような運命を辿るのか――。


 それは、王都の貴族たちにとって、決して忘れられることのない"教訓"となった。



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イザベルの勝利


 一方、カリエンテ公爵邸では――


 イザベルが執事のレナードから、リシュアン侯爵の死の報告を受けていた。


「……そうですか。」


 イザベルは静かに頷く。


「彼は、己の野心のためにすべてを失ったのですね。」


「はい。貴族社会でも、すでに彼の名を口にする者はほとんどおりません。」


 レナードは淡々と答える。


「リシュアン家は、完全に滅びました。」


「……ええ。」


 イザベルは、ゆっくりと紅茶を口に運んだ。


 彼女の表情には、勝者の余裕が漂っていた。


「これで、一つの時代が終わりましたね。」


 そう言いながら、彼女は微笑む。


「私たちにとって、これは"教訓"ですわ。」


「……教訓、ですか?」


「ええ。」


 イザベルは窓の外を見つめながら、静かに言った。


「権力とは、誤った使い方をすれば、己を滅ぼす"毒"となる。」


「しかし、それを正しく使えば――」


 彼女は、扇を軽く閉じながら、微笑んだ。


「国を導く"力"となるのです。」


 レナードは深く頷いた。


「閣下のお考え、しかと承りました。」


 イザベルは静かに席を立ち、

 王宮での新たな一日へと向かって歩き出した。


 彼女には、やるべきことがまだ山ほどあった。


 だが、確かに言えることが一つある。


 ――リシュアン侯爵の時代は、終わった。


 ――そして、これからは、イザベル・カリエンテが王国を導く時代が始まるのだ。



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(次回:最終章 第二幕「アーノルドとマリアの結末」へ続く)


リシュアン侯爵の没落と死によって、リシュアン家は完全に消滅した。

だが、それは"敗者"の物語の終わりに過ぎない。


次に訪れるのは――

アーノルドとマリアの"最期"だった


第二幕:アーノルドとマリアの結末



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アーノルドの絶望


 南部鉱山――そこは、王国で最も過酷な労働環境として知られる場所だった。

 灼熱の太陽が照りつけ、坑道の中は埃と熱気で息苦しい。

 罪人たちは、朝から晩まで休みなくツルハシを振るい続ける。


 その中に、一人の男がいた。


 かつて王都の貴族社会で傲慢に振る舞っていた男――アーノルド・リシュアンである。


「くそっ……こんなはずじゃなかった……!」


 汗と泥にまみれた彼は、力なくツルハシを握りしめながら、

 かつての自分の栄光を思い出していた。


 貴族として贅沢な生活を送り、

 王宮の舞踏会では多くの貴族令嬢に囲まれ、

 何不自由なく生きていたはずだった。


 しかし、イザベル・カリエンテに婚約破棄を突きつけた日から、すべてが崩れ去った。


「……全部、あの女のせいだ……!」


 アーノルドは歯を食いしばり、怒りに震えた。


 だが、現実は無情だった。


 ここでは、どれだけ過去を悔やんでも意味がない。

 労役を続けなければ、食事すら与えられず、生き延びることさえできないのだ。



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鉱山での悲劇


 数か月が過ぎた。


 アーノルドの体は次第に衰弱し、

 以前のような体力も気力も失われつつあった。


 「おい、新入り。」


 同じく鉱山で働く囚人の一人が、彼を冷たく見下ろした。


 「そろそろ限界なんじゃねえのか?」


 アーノルドは歯を食いしばり、

 ヨロヨロと立ち上がる。


 「……まだだ……俺は……まだ……!」


 だが、その瞬間だった。


 ――ゴゴゴゴ……!!


 突然、坑道の奥から不気味な地響きが響いた。


「……っ!? 落盤か!?」


 囚人たちが悲鳴を上げる。


 そして次の瞬間――


 ――ズズズンッ!!


 坑道の天井が崩れ、大量の岩石が降り注いだ。


「うわあああああっ!!」


 囚人たちは必死に逃げるが、

 アーノルドの足はもつれ、転倒した。


 視界いっぱいに広がる落ちてくる岩の塊。


 そして、次の瞬間――すべてが暗転した。



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アーノルドの最期


 坑道の崩落が収まった頃、

 監督官たちが急いで生存者の救助を始めた。


 だが――


「……駄目だ、こいつはもう……。」


 彼らが見つけたのは、岩の下敷きになったアーノルドの亡骸だった。


 彼の顔は、驚きと恐怖のまま固まり、

 最後の瞬間まで自分の運命を受け入れられなかったことが伺えた。


 「まあ……貴族様にしては、よく頑張った方か?」


 誰も彼を悼むことはなかった。


 こうして、かつて王都で権勢を誇った男は、

 無名の囚人として命を落とした。



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マリアの転落


 一方、王都の貧民街。


 かつて"社交界の華"と称されたマリア・ブロンズは、

 今では誰にも相手にされない、ただの落ちぶれた女となっていた。


「……寒い……お腹が空いた……。」


 着ている服は擦り切れ、髪は乱れ、

 頬はこけて、かつての美貌はすっかり失われていた。


 誰かに助けを求めようにも、

 貴族たちはすでに彼女の存在すら忘れていた。


「……どうして……こんなことに……。」


 マリアは、王都の広場に座り込んだまま、呆然と空を見上げた。


 彼女の頭の中には、過去の記憶が渦巻いていた。


 ――貴族令嬢としての誇り。

 ――社交界での輝かしい日々。

 ――アーノルドと共にイザベルを陥れようとしたこと。


 すべては、あの日の"婚約破棄"から狂い始めた。


「……アーノルド……どこにいるの……?」


 彼女は震える声で呟くが、

 当然、返事があるはずもない。



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病に倒れるマリア


 その日、冷たい雨が降り始めた。


 マリアは、震えながら路地裏へと避難しようとするが、

 足元がふらつき、体が崩れ落ちた。


「……っ……!!」


 喉の奥から、ひどい咳が込み上げる。


 病だ。


 寒さと栄養不足で、彼女の体は限界を迎えつつあった。


 「……助け……て……。」


 震える手を伸ばすが、

 通り過ぎる人々は彼女を一瞥するだけで、誰一人として手を貸そうとはしなかった。


 彼女がかつて見下していた庶民たちも、

 今では彼女を軽蔑するような目で見ていた。


「……マリア・ブロンズ? まだ生きていたのか?」

「ふん……因果応報だな。」


 そんな冷たい言葉が聞こえた。


 マリアは、とうとう本当に"誰にも相手にされない存在"になってしまった。



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マリアの最期


 翌朝、王都の片隅にある貧民街の一角で、

 一人の浮浪者が息を引き取っているのが発見された。


 それが、かつての伯爵令嬢・マリア・ブロンズであることを知る者はほとんどいなかった。


 彼女の死は、誰にも悼まれることなく、

 ただ静かに忘れ去られた。


 貴族社会の華だった令嬢が、こうして無名の死を迎えることになるとは――。


 彼女が望んでいた未来とは、

 まったく違うものだっただろう。



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完全なる敗者


 アーノルド・リシュアンは鉱山で事故死し、

 マリア・ブロンズは貧困の中で病に倒れた。


 二人とも、かつては王都で栄華を誇った貴族だった。


 しかし、その傲慢さと欲望のせいで、

 彼らの結末は、誰よりも悲惨なものとなった。


 イザベル・カリエンテに挑んだ者たちの末路は、これ以上ないほど残酷なものだった。



-最終章 第四幕:物語の終幕



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王宮の平穏


 王都レヴァンティアの空は、澄み渡る青空だった。

 かつて、貴族たちが権力争いに明け暮れ、

 陰謀が渦巻いていた王宮も、今では静けさを取り戻していた。


 その中心にいるのは――

 カリエンテ公爵・イザベル。


 彼女が築いた新たな体制のもと、王国は平和と繁栄を迎えていた。


 無駄な権力争いが減り、王族と貴族の関係も安定した。

 貴族たちは、かつてのように私利私欲に走るのではなく、

 それぞれが王国を支える役割を果たしていた。


 王国は、新たな黄金時代を迎えつつあった。



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イザベルの役割


 イザベルは、王宮の執務室で書類に目を通していた。


 貴族たちの管理、財政の調整、軍の運営、法整備……

 彼女の仕事は多岐にわたるが、すべてにおいて的確な判断を下していた。


 そこに、側近のレナードが静かに入ってきた。


「公爵閣下、本日の議会の予定をお持ちしました。」


「ありがとう、レナード。」


 イザベルは、優雅に微笑みながら書類を受け取る。


 「……王国の改革も、ようやく軌道に乗り始めましたね。」


 レナードは、しみじみとした口調で言った。


 イザベルは頷きながら、

 窓の外に広がる王宮の庭を見つめる。


 「ええ。長かったですが……ようやく、私が理想とする王国の形が見えてきました。」


 王宮内の政治は安定し、

 民衆の生活も向上し、

 貴族社会も秩序を取り戻しつつあった。


 かつて彼女に敵対した者たちは、すべて滅び去った。

 リシュアン侯爵家は歴史の闇に消え、

 アーノルドとマリアもすでにこの世にはいない。


 もはや、彼女の道を阻む者は誰もいない。



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ライオット王子との再会


 その夜、王宮の中庭にて。


 イザベルは、月光の下で静かに紅茶を楽しんでいた。


 そこに、ライオット王子が姿を現した。


「こんな時間に、一人で何を考えている?」


 彼は微笑みながら、彼女の隣の椅子に座った。


「特に何も……ただ、少し物思いにふけっていただけですわ。」


 イザベルは、静かにカップを置く。


「あなたの計画は、すべて成功したと言ってもいいだろう。」


 ライオットは、彼女の顔をじっと見つめる。


「王宮は安定し、貴族社会も正常化した。

 イザベル、君は完全なる勝者だ。」


 彼の言葉に、イザベルは小さく笑った。


「勝者……ですか。」


「当然だろう?」


 ライオットは、やや意地悪そうに微笑む。


「リシュアン侯爵は滅び、アーノルドもマリアも消えた。

 そして君は、公爵として王国の中心に立っている。

 これが"勝利"でなくて何だ?」


 イザベルは、少しだけ考え込んだ。


 確かに、すべてが思い通りになった。

 だが、彼女の中には、ほんのわずかだが"満たされない何か"があった。


 それは何なのか――

 彼女自身にも、はっきりとは分からなかった。


 しかし――


「……いいえ、まだ完全ではありませんわ。」


 イザベルは、静かに微笑む。


「私は、まだ歩みを止めるつもりはありません。」


 ライオットは驚いたように彼女を見つめる。


「……君は、本当に尽きることのない野心を持っているな。」


「野心ではありません。」


 イザベルは、彼を見つめ返した。


「これは、私の責務です。」


 彼女は、静かに扇を閉じる。


「私は、公爵としてこの国を導くことを選びました。

 だからこそ、この国をもっと良くしていく義務がある。」


 彼女の言葉には、揺るぎない信念が込められていた。


 ライオットは、しばらく沈黙した後、

 ふっと微笑んだ。


「……君は、本当にすごいな。」


 彼は、満足そうに言う。


「これから先も、君の力を貸してくれるか?」


「ええ、もちろんですわ。」


 イザベルは微笑みながら、紅茶を口に運ぶ。


 彼女の戦いは、まだ終わらない。



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未来への展望


 数日後――


 王宮では、新たな会議が開かれていた。


 そこでは、王国のさらなる発展のための議論が行われていた。


 イザベルは、その会議の中心に座り、

 冷静かつ的確な意見を述べていく。


 貴族たちは、彼女の発言に耳を傾け、

 次々と改革案が承認されていった。


「これで、王国はさらに強くなりますね。」


 レナードが、静かに言う。


 イザベルは微笑みながら頷いた。


「ええ。」


 彼女は、ゆっくりと立ち上がり、窓の外を見つめる。


 ――かつての自分は、"貴族令嬢"と呼ばれていた。

 だが今の彼女は、"王国の支配者"として君臨している。


 これは、私の勝利。


 そして――


 ここからが、本当の始まり。



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完全なる勝者


 イザベル・カリエンテは、貴族社会での戦いに勝利し、

 王国の未来を支える中心人物となった。


 彼女の手腕によって、王国はかつてないほどの安定と繁栄を迎えた 最終章。


 かつて彼女を見下し、利用しようとした者たちは、

 すでにこの世界には存在しない。


 イザベルは、静かに微笑んだ。


「これは、私の勝利ですわね。」


 彼女の言葉と共に、

 王国の新たな時代の幕が開かれた。



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