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第4話  第4章

 第一幕:カリエンテ公爵の評価


王宮での変化


 リシュアン侯爵家の没落と、アーノルド・リシュアンの労役刑。

 マリア・ブロンズの貴族社会からの追放――。

 これらの一連の事件が収束したことで、王都レヴァンティアの貴族社会は大きく変わりつつあった。


 そして、その変化の中心にいたのは、カリエンテ公爵・イザベルだった。


「……カリエンテ公爵閣下の冷静な判断力には驚かされました。」

「ええ、リシュアン侯爵が仕掛けた策略を見抜き、逆に彼を破滅へと追い込んだ。 あの手腕は、貴族としても相当なものです。」

「彼女が公爵家を継いでまだ数年ですが、もはや他の貴族とは格が違いますね。」


 王宮内では、イザベルに対する評価が急激に高まっていた。


イザベルの冷静な手腕


 査問会でリシュアン侯爵の嘘を暴いたことで、彼女の名声は確固たるものとなった。

 王宮の廷臣たちや上級貴族たちは、彼女の的確な判断力と知略を高く評価し、

 彼女の影響力はかつてないほど強まっていた。


 さらに、彼女が表立って力を誇示することなく、あくまで理性的に振る舞ったことも、貴族たちの間で好印象を与えていた。


「力を誇示するだけの貴族は多いですが、カリエンテ公爵閣下は違う。」

「彼女は権力を振りかざすのではなく、正しく行使する。」

「まさに、王国にとって理想的な貴族の姿です。」


 こうした声が次々と上がり、彼女の影響力は王宮内で圧倒的なものとなっていった。


王宮宰相・ロベルトとの対話


 そんな中、イザベルは王宮宰相・ロベルト・グラシアンに呼ばれ、執務室を訪れた。


「お待ちしておりました、公爵閣下。」


 ロベルトは微笑みながら、イザベルを迎え入れる。


「宰相閣下、お呼びだと聞きましたが?」


「ええ、少し話しておきたいことがありまして。」


 彼は椅子に腰掛け、イザベルに向き直った。


「貴女の一連の行動により、王宮内での貴族たちの意識が変わりつつあります。」


「それは……良い方向に、ということでしょうか?」


「もちろんです。」


 ロベルトは頷き、微笑む。


「王宮には、己の利益だけを考える貴族が多い。

 しかし、貴女は異なる。"公爵家"としての責任を持ち、それを果たしている。」


 彼は続ける。


「王宮内では、**"カリエンテ公爵閣下こそ、真に王国を支える貴族である"**という声が広がりつつあるのです。」


 その言葉に、イザベルは静かに頷いた。


「……ありがとうございます。」


 ロベルトは軽く笑みを浮かべる。


「これからも王宮での影響力を高めるため、貴族たちとの関係を深めることをお勧めします。

 すでに、貴女を支持する貴族は増えつつあります。」


「……ええ、肝に銘じておきます。」


 イザベルは内心で、この事態を冷静に分析した。


 ――この状況は、悪くない。


 貴族社会では、"信用"と"立場"がすべてを決める。

 彼女がこれまで築き上げたものが、王宮内での確固たる地位へと変わりつつあるのを感じていた。


ライオット王子の動向


 そんな中、王宮の一角では、第二王子・ライオットが窓から外を眺めていた。


 彼の目の先には、王宮の庭園を歩くイザベルの姿があった。


「……カリエンテ公爵か。」


 彼は小さく呟いた。


 ライオット王子は、これまでイザベルを密かに観察していた。

 彼女の言動、考え方、行動――それらを冷静に見極めていた。


「なるほど、確かに彼女は……。」


 ライオットは静かに微笑んだ。


 イザベル・カリエンテは、王国にとって必要不可欠な存在になりつつある。


 そして、彼はすでに知っていた。

 彼女が、すでに自分の婚約者として内定していることを。


「そろそろ、正式に動く時が来たか……。」


 ライオットは立ち上がり、イザベルとの接触を決意した。


イザベルの新たな立場


 一方、イザベルは王宮の庭園を歩きながら、これからのことを考えていた。


 リシュアン侯爵家との対決は終わった。

 しかし、王宮内での立場が強まるにつれ、彼女はさらに多くのことを考えなければならなかった。


「……このままでは、単なる"公爵"として生きるだけでは済まされませんね。」


 貴族社会の中心に立つ者として、

 彼女の影響力はすでに無視できないものになっていた。


 そして――その影響力をどのように使うべきかが、これからの課題となる。


 しかし、彼女は迷わなかった。


「どんな道を選ぼうとも、私は私の信じるものを貫くだけです。」


 その瞬間、彼女の前に一人の男性が立ちはだかった。


「……カリエンテ公爵閣下。」


 低く落ち着いた声が響く。


 イザベルは足を止め、目の前の人物を見上げた。


「……第二王子、ライオット王子。」


 彼の瞳は鋭く、しかしどこか楽しげな色を帯びていた。


「やっと、直接お話しできる機会を得ました。」


 ライオットは微笑む。


「少し、お時間を頂けませんか?」


 イザベルは彼の意図を探りながらも、微笑んだ。


「ええ、喜んで。」


 こうして、二人の物語は、新たな局面を迎えようとしていた――

第二幕:第二王子ライオット


---


王宮庭園での出会い


 王宮の美しい庭園。

 鮮やかな花々が咲き誇り、噴水の音が穏やかに響く中、

 イザベル・カリエンテは第二王子ライオット・エルヴァンスと向かい合っていた。


「カリエンテ公爵閣下、こうして正式にお話しできるのは、初めてですね。」


 ライオットは柔らかな笑みを浮かべながら言った。

 彼の表情には余裕があり、王族特有の威圧感も感じさせない。


「ええ、王子と直接お話しする機会を頂けるとは光栄です。」


 イザベルは優雅に微笑みながら答える。


 しかし、彼女の内心は冷静だった。


 ――この場での会話は、単なる王族と貴族の挨拶ではない。


 ライオット王子がわざわざ自ら接触してきたということは、

 何か特別な意図があるに違いない。


「さて……」


 ライオットは、ゆっくりとベンチに腰を下ろし、

 イザベルに隣へ座るよう促す。


 彼女も、それに応じて優雅に座った。


「カリエンテ公爵、あなたのことは以前から注目していました。」


「……光栄ですわ。」


 イザベルは表情を変えずに答える。


「あなたの行動は、実に見事だった。

 リシュアン侯爵の策略を見破り、さらに、彼を貴族社会から完全に排除した。

 そして、それを強引な手段ではなく、理性的な方法で成し遂げた……。」


 ライオットは興味深そうにイザベルを見つめる。


「その冷静さと知略、貴族社会における立ち回りの巧妙さ……

 私は、あなたのことを高く評価しています。」


「過分なお言葉、恐れ入ります。」


 イザベルは淡々と答えながらも、

 この会話が単なる賛辞で終わるはずがないことを理解していた。


「ところで、公爵閣下。」


 ライオットは少し表情を引き締めると、

 静かに告げた。


「あなたが、すでに私の婚約者として内定していることをご存じですか?」


 その言葉に、イザベルの瞳がわずかに揺れた。



---


明かされる婚約の事実


「……私が、第二王子殿下の婚約者として内定している?」


 イザベルは、冷静を保ちつつも、わずかに驚きを隠せなかった。


「はい。正式な公表はまだですが、

 先王陛下が亡くなる前に、この婚約はすでに決まっていたのです。」


 ライオットは静かに語る。


「カリエンテ公爵家は、王国の重要な柱の一つ。

 そして、あなたは先代公爵亡き後、その地位を見事に受け継ぎました。」


「それは……確かに事実ですわ。」


 イザベルは扇を軽く閉じ、落ち着いた表情を保つ。


「しかし、王宮からは今まで正式な通達はありませんでした。」


「それも当然です。」


 ライオットは微笑む。


「先王が急逝されたことで、王宮内の政治は大きく揺れました。

 私と兄……第一王子エドワードとの間で、王位継承に関する問題も生じましたからね。」


 イザベルは、彼の言葉に深く頷く。


「確かに、王宮内では、王位継承を巡る派閥争いが続いていますわね。」


「ええ。しかし、最近になってようやく、王宮内の勢力図が安定しつつあります。」


 ライオットは軽く微笑んだ。


「そこで改めて、あなたとの婚約の話を進めることになりました。」



---


婚約に対するイザベルの考え


「……なるほど。」


 イザベルは慎重に言葉を選ぶ。


 ――王宮の後見のもと、自分がすでに第二王子の婚約者として内定していた。

 それは確かに、驚くべき事実ではある。


 しかし――


「王子殿下。」


 彼女は、まっすぐにライオットを見つめた。


「私は、公爵家の当主です。」


「ええ、もちろん。」


「つまり、私の婚約は、公爵家全体の命運を左右するものとなります。」


「……それは、私も理解しています。」


 ライオットは穏やかに微笑む。


「だからこそ、私はあなたの意見を尊重したい。」


「……私の意見?」


「ええ。」


 ライオットは、彼女に向かって真剣な眼差しを向けた。


「あなたがこの婚約をどう思うのか。

 そして、この婚約を受け入れるかどうか。」


「……それは、私に決定権があるということですか?」


「少なくとも、強制するつもりはありません。」


 ライオットは静かに言った。


「私は、あなたと対等な立場で話したい。」


「……対等。」


 イザベルは、その言葉を繰り返した。


 ――王族である彼が、自分に対して"対等"という言葉を使った。

 それは、決して軽い意味ではない。


 そして、彼の言葉からは、

 自分を単なる婚約者ではなく、一人の人間として見ていることが感じ取れた。


「王子殿下……。」


 イザベルは、ゆっくりと微笑む。


「少し……この件について、考えるお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


「ええ、もちろん。」


 ライオットは、満足そうに頷いた。


「私は、あなたの決断を待ちます。」


 そして、彼は静かに立ち上がった。


「……では、また近いうちに。」


「ええ、お話しできて光栄でしたわ。」


 ライオットは軽く微笑みながら、庭園を後にする。


 イザベルは、その背中を見送りながら、そっと扇を開いた。


 ――この婚約が、自分にとって何を意味するのか。


 王国の未来、

 カリエンテ公爵家の命運、

 そして……自分自身の生き方。


 彼女は、そのすべてを見据えながら、静かに考えを巡らせた。



第三幕:婚約の公表




王宮に響く報せ


 王都レヴァンティアの中心にそびえる王宮。

 その広大な宮殿内にある謁見の間では、王国の貴族たちが一堂に会していた。


 この日、王宮で重要な発表が行われることが告知されており、

 貴族たちは、その内容について噂し合っていた。


「何が発表されるのかしら?」

「まさか、王位継承に関する決定では?」

「いや、それよりも、第二王子ライオット殿下に関する話ではないかと……。」


 そんな中、ついに扉が開き、国王エルヴァンス三世が入室した。


 その隣には、第一王子エドワードと、

 そして――第二王子ライオットの姿があった。


 さらに、その横には、堂々とした姿で立つカリエンテ公爵・イザベルの姿があった。


 貴族たちは、その光景を目にして、一斉にざわめき始める。


「……カリエンテ公爵が?」

「第二王子と並んでいるということは……?」

「まさか……婚約発表か?」


 そして――


「静粛に!」


 王宮の廷臣が声を上げ、場内のざわめきを鎮める。


 国王はゆっくりと前に進み、重々しく口を開いた。


「本日、王宮より正式な発表がある。」


 その言葉に、貴族たちは息を飲んだ。


「我が王国の第二王子、ライオット・エルヴァンスと、カリエンテ公爵・イザベルの婚約を、正式にここに発表する。」


 瞬間、場内は驚愕の声で満ちた。



---


衝撃と動揺


「な、なんですって!?」

「第二王子殿下と、カリエンテ公爵が婚約!?」

「それも、王宮主導での正式発表……!」


 貴族たちは、信じられないというように動揺しながらも、

 同時に、この発表が持つ意味を理解し始めていた。


 ――この婚約は、単なる王族と貴族の結びつきではない。


 それはすなわち、カリエンテ公爵家が王家に正式に迎え入れられることを意味する。

 さらに言えば、イザベル自身が王宮内での影響力をさらに強めることになるのだ。


 そして、ライオット王子の陣営にとっても、この婚約は大きな意味を持つ。

 カリエンテ公爵家を味方につけることで、彼の王位継承への地盤は、確実に強固なものとなる。


「……なるほど。」


 貴族の一人が、静かに呟く。


「ライオット王子殿下は、王位を狙っておられるのか。」


 この発表が意味するものは、貴族たちにとっても計り知れないほど大きな影響を持っていた。



---


イザベルの心境


 王宮の中央、イザベルは堂々と立っていた。

 彼女の表情には、動揺も不安もない。


 ――この婚約は、私にとって最善の選択なのか?


 王宮での影響力は確実に強まる。

 公爵家としての立場も、より安定する。

 しかし、同時に……王家の一員となるということは、自由を失うことでもある。


 ライオット王子は、確かに聡明であり、王族としての器もある。

 彼が王位を継ぐ可能性は十分にあり、

 その場合、自分は"王妃"として生きることになるのだ。


(……私は、本当にそれを望んでいるのかしら?)


 そんな思考が一瞬脳裏をよぎったが、彼女はすぐに気を引き締めた。


(いいえ、私はすでに決めた。

 この婚約が、カリエンテ公爵家にとって最も有利な選択であるならば……

 私はそれを受け入れるまで。)


 イザベルは、静かにライオット王子の方を見た。


 彼は微笑みながら、イザベルを見つめ返す。


(この人が、未来の伴侶となるのか……。)


 彼女は静かに息を吸い、決意を固めた。



---


ライオット王子の宣言


 そして、再び王宮に響く声。


「では、ライオット王子殿下。」


 国王が促すと、ライオット王子は一歩前に進んだ。


 彼は堂々と貴族たちを見渡し、ゆっくりと口を開く。


「本日、ここに、カリエンテ公爵・イザベルとの婚約を発表できることを、誇りに思う。」


 彼の声は落ち着いており、しかし、しっかりとした意志が込められていた。


「私は、イザベルを対等な伴侶として迎え入れるつもりだ。」


 その言葉に、一部の貴族たちは驚いたように顔を見合わせた。


「対等な……?」


 貴族社会において、王族と貴族が"対等"であるという発言は異例だった。


「彼女は公爵家の当主であり、優れた知略を持つ貴族だ。」


 ライオットは続ける。


「王家の一員としてだけではなく、この国の未来を共に築く存在として、私は彼女と共に歩むことを望む。」


 その言葉に、貴族たちは改めてイザベルを見た。


 彼女は、動揺することなく、堂々とした態度を崩していない。


 その姿を見て、貴族たちは――


(……この婚約は、単なる形式的なものではない。)


(ライオット王子は、本当にイザベルを対等な存在として見ている……?)


(もしかして、彼女が王妃になれば……王国の政治は、大きく変わるかもしれない。)


 そんな思考が、彼らの脳裏をよぎった。



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婚約発表の余波


 こうして、イザベル・カリエンテとライオット王子の婚約は、正式に公表された。


 貴族たちの間では、すぐさま様々な議論が交わされた。


「カリエンテ公爵が王妃になるならば、王国の政治はより安定するかもしれない……。」

「しかし、彼女の影響力が強まりすぎるのでは?」

「むしろ、それはライオット王子が王位を狙っているという証拠だろう。」


 王宮内は、一瞬にして新たな政局へと突入した。


 そして、その中心には――イザベル・カリエンテが立っていた。


 第四幕:イザベルの決意



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婚約発表後の王宮


 カリエンテ公爵・イザベルと第二王子ライオットの婚約発表は、王宮内に大きな衝撃を与えた。

 これまで公爵家の当主として王宮内の貴族たちと対等に渡り合ってきた彼女が、

 ついに王族の一員として迎えられることになる――この事実は、王宮内の勢力図を大きく変えようとしていた。


「まさか、カリエンテ公爵が王妃候補になるとは……。」

「それも、ライオット殿下自ら"対等な伴侶"と明言するなんて……。」

「王宮の政治は、大きく動くことになるな。」


 婚約発表の翌日、王宮内の廷臣たちや貴族たちは、この新たな関係にどう対応すべきかを巡り、

 密かに議論を重ねていた。


 王妃候補としてのイザベルが、王宮でどのような役割を果たすのか。

 そして、この婚約が王国の未来にどのような影響を与えるのか。


 貴族たちは、彼女の今後の動向を注視していた。



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ライオット王子との対話


 一方、イザベルは王宮の一室で、ライオット王子と向かい合っていた。


 昨夜の婚約発表以来、正式な対話の場が設けられたのだ。


「……こうして正式に婚約が公になりましたわね。」


 イザベルは落ち着いた声で言った。


「ええ。」


 ライオットも、静かに頷く。


「イザベル、私はこの婚約がただの形式的なものではなく、

 本当に共に歩むためのものであってほしいと考えています。」


 彼の言葉に、イザベルは扇を閉じながら微笑んだ。


「王子殿下、私もこの婚約を軽く考えているわけではありません。」


 そして、彼女は真剣な表情で続ける。


「私は公爵家の当主として、これまで貴族社会で生きてきました。

 王家の一員となるということは、私のこれまでの生き方とは大きく異なるものになります。」


 ライオットは頷く。


「ええ。私も、それを理解しているつもりです。」


「しかし……」


 イザベルは視線を逸らさず、静かに続けた。


「私は、公爵として、この王国の未来に貢献したいと考えています。

 たとえ王家の一員となろうとも、私はただの飾りの妃にはなりません。」


 彼女の言葉には、揺るぎない決意が込められていた。


 ライオットはしばらく彼女を見つめ、そして微笑んだ。


「……やはり、君はそう言うと思っていた。」


「……?」


「私は、君のそういうところに惹かれたんだ。」


 彼は軽く笑いながら続ける。


「君は自分の信念を持ち、それを貫く強さがある。

 だからこそ、私は"対等な伴侶"として君を迎えたいと思ったんだ。」


 イザベルは少し驚いた表情を浮かべた。


「……王子殿下。」


「これから先、王宮での政治はさらに複雑になっていくだろう。」


 ライオットは真剣な表情に戻り、静かに言う。


「私の婚約者として、そして公爵として、

 君の知恵と力を貸してくれないか?」


 イザベルは数秒間沈黙し、やがて微笑んだ。


「……喜んで。」



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王宮での新たな戦い


 婚約発表から数日後、王宮では早速新たな動きが見られた。


 ライオット王子とイザベルの婚約により、

 第一王子エドワード派とライオット派の勢力争いが、ますます激化し始めていた。


「ライオット殿下がカリエンテ公爵を味方につけたことで、彼の立場は大きく強化された……。」

「エドワード殿下も、何かしらの対抗策を打つに違いない。」

「これは、王宮内の勢力図を大きく揺るがす事態だ……。」


 第一王子エドワードは、王宮内で長年の支持を集めていたが、

 ライオットの婚約により、その均衡が崩れつつあった。


「エドワード王子は、どう動くつもりなのか……?」


 貴族たちは、今後の王宮内の動きを慎重に見守っていた。



---


イザベルの新たな決意


 一方、カリエンテ公爵邸に戻ったイザベルは、執事のレナードと向かい合っていた。


「レナード、王宮の動向をしっかりと把握しておいてください。」


「承知いたしました、公爵閣下。」


「そして、これからは……王宮での動きにも、より積極的に関わっていくことになります。」


 イザベルは、窓の外を見つめながら静かに言った。


「この婚約は、単なる個人的なものではありません。」


「ええ。」


「私は公爵として、そして王妃候補として――」


 彼女は扇を軽く開き、微笑んだ。


「王国の未来を、この手で守るつもりです。」


 その言葉に、レナードは深く頷いた。


「閣下のご決意、しかとお受けいたしました。」


 イザベルは、静かに扇を閉じる。


 彼女はもう迷わない。


 王家の一員となることは、公爵としての人生を終えることではない。

 むしろ、彼女がこの国をより良いものにするための、新たな舞台に立つということ。


 そして――

 この国の未来のために、彼女は戦い続けると決めた。



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王宮の夜明け


 その夜、王宮の窓から見える夜空には、

 美しい満月が輝いていた。


 イザベルは窓辺に立ち、その光を見上げる。


 婚約発表という大きな節目を迎えた今、

 彼女の前には、これまでとはまったく異なる未来が待ち受けている。


 ――だが、私は負けない。


 王宮での戦いは、これからが本番だ。

 そして、彼女は決して一人ではない。


 ライオット王子、

 そして、彼女を支える人々がいる。


 だからこそ、彼女は進む。


 王妃候補として、そしてカリエンテ公爵として――。


 イザベルの新たな戦いが、ここから始まる。



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