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第3話 第三章

 第一幕:アーノルドの没落



---


爵位剥奪の報せ


 リシュアン侯爵家の没落は、王都レヴァンティア中に瞬く間に広まった。

 王宮に虚偽の証拠を提出し、カリエンテ公爵家を陥れようとした罪。

 そして、その策略が見破られたことで、リシュアン侯爵家は正式に爵位を剥奪され、貴族としての地位を完全に失った。


 その報せがもたらされた瞬間、貴族たちはリシュアン侯爵家との関係を一斉に断ち切った。


「リシュアン侯爵家が滅んだぞ。」

「アーノルド・リシュアンはどうなる?」

「爵位を失った時点で、もう彼はただの庶民だ。 いや、それ以下かもしれん。」


 これまで彼を持ち上げていた貴族令嬢たち、彼に媚びを売っていた貴族の取り巻きたちは、

 誰一人として彼の側に残ろうとはしなかった。


「まあ、当然よね。」

「あんなに恥を晒して、さらに王宮に嘘をついたのよ? もはや社交界で話題にする価値もないわ。」


 かつて彼に憧れ、彼の周りを取り巻いていた貴族令嬢たちの声が、冷ややかに響いた。

 もはや、アーノルド・リシュアンは社交界において存在しないも同然の男となっていた。



---


アーノルドの転落


 王宮から帰されたアーノルド・リシュアンは、無気力なまま侯爵邸の執務室へと戻った。

 そこに待ち受けていたのは、父であるガブリエル・リシュアン侯爵の怒りだった。


「貴様……なんてことをしてくれたんだ……!!」


 ガブリエルは机を叩き、アーノルドを睨みつける。

 その目は、かつてないほど冷酷だった。


「すべて貴様のせいだ……! 貴様が無様に舞踏会で醜態を晒さなければ、

 こんなことにはならなかった……!」


 ガブリエルの怒りは抑えきれないものだった。

 彼は爵位を失っただけではなく、リシュアン侯爵家として築き上げてきた財産の多くを没収されることになったのだ。


「……ち、違う……。」


 アーノルドは震える声で呟く。


「違う……違うんだ……! そもそもイザベルが俺を陥れたんだ!」


「まだそんなことを言っているのか、愚か者が……!」


 ガブリエルは冷たい視線を向け、呆れたように言った。


「貴様はもう貴族ではない。 それどころか、庶民として生きることすら許されん。」


「……え?」


 アーノルドは、信じられないものを見るように父を見上げた。


「何を……言っているんだ、父上……?」


「貴族から爵位を剥奪された者が、ただの庶民として生きられると思うな。」


 ガブリエルは、冷たく続けた。


「王宮からの命令だ。 お前は"農奴"として、王国の農場で働くことが決まった。」


 アーノルドの顔が真っ青になった。


「そんな……冗談だろう……?」


「ふん……。」


 ガブリエルは失笑した。


「王宮を欺こうとした罰だ。

 それほどの罪を犯しておいて、無傷で済むと思っていたのか?」


「……そ、そんな……そんなバカな……!!」


 アーノルドは必死に否定するが、

 すでに運命は決まっていた。



---


農奴としての未来


 数日後、王国の使者が正式な命令を携えてリシュアン侯爵邸へと訪れた。


「アーノルド・リシュアン。 王宮の命により、お前を農奴として処遇することが決定した。」


 その言葉を聞いた瞬間、アーノルドの膝が崩れ落ちた。


「う、嘘だ……! 貴族の俺が、こんなことになるなんて……!!」


 だが、使者の表情には微塵の同情もなかった。


「お前はもはや貴族ではない。 お前が陥れようとしたカリエンテ公爵閣下は、この国の誇り高き貴族である。

 それに比べ、お前の行いは貴族として許されざるものであり、

 故に、貴族としての権利を剥奪されたのだ。」


「いやだ……いやだ!!!」


 アーノルドは泣き叫んだが、もはやどうしようもなかった。

 王国の命令により、彼は貴族としての最後の財産をすべて没収され、

 王都を出て、辺境の農場へ送られることが決定したのだった。


 そこでは、彼のように罪を犯した者たちが"農奴"として働かされる。

 かつて優雅な貴族生活を送っていたアーノルドには、耐えられない運命だった。


「こんなの……俺の人生じゃない……!!」


 だが、もはや彼に抗う術はなかった。



---


貴族社会の反応


 アーノルドが庶民どころか、農奴として扱われると決まったことは、貴族社会にさらなる衝撃をもたらした。


「ふふ……リシュアン侯爵家も、ついに終わったわね。」

「アーノルド様、あんなに自信満々だったのにね……。」

「まあ、当然の結果でしょう。」


 彼を取り巻いていた貴族令嬢たちの態度は、完全に冷え切っていた。


「そもそも、私たちは彼がリシュアン侯爵家の嫡男だから相手をしていたのよ。」

「爵位を失ったどころか、農奴ですって? もはや話題にする価値もないわね。」


 これまで彼を称えていた貴族たちは、彼を完全に切り捨てた。

 そして、誰も彼のことを気にかける者はいなくなった。



---


イザベルの視点


 一方、カリエンテ公爵邸では、イザベルが静かに紅茶を飲んでいた。


「ふふ……アーノルド・リシュアンが農奴に?」


 彼女の笑みには、もはや嘲笑すら浮かんでいない。


「当然の結末ですわね。」


 彼女は、執事のレナードに微笑みかける。


「ですが、彼だけでは終わりません。

 次は、マリア・ブロンズ伯爵令嬢の番ですわね。」


 イザベルは窓の外を見つめながら、静かに告げた。



--

第三章 第二幕:マリアの追放



---


社交界からの排斥


 アーノルド・リシュアンが爵位を剥奪され、王都を去った翌日。

 王都レヴァンティアの貴族社会では、もう一つの変化が起こっていた。


 それは、マリア・ブロンズ伯爵令嬢の完全なる孤立だった。


「ねえ、知ってる? マリア・ブロンズが社交界から追放されたんですって。」

「ええ、当然よ。 あれだけの嘘をついて、公爵家を陥れようとしたのだから。」

「そもそも、あの女は自分を持ち上げるために他人を貶めていたのよ。 社交界で生きていけるわけがないわ。」


 舞踏会での事件以来、マリアを支持していた貴族令嬢たちは、彼女から一斉に距離を置き始めた。

 かつては「マリア様」と敬われ、貴族令嬢たちの中心にいた彼女だったが、

 今となっては誰も彼女を擁護しようとはしなかった。


「ねえ、もうマリアに手紙を送るのはやめた方がいいかしら?」

「当然よ! あの女と関わっていると、私たちまで疑われるかもしれないもの。」

「まったく、あんな女と親しくしていたなんて、恥ずかしいわ。」


 彼女に寄り添っていたはずの貴族令嬢たちは、

 今では彼女の存在そのものを"なかったこと"にしようとしていた。



---


伯爵家での冷遇


 一方、その頃。

 ブロンズ伯爵邸では、マリアが母親であるエリザベート・ブロンズ伯爵夫人と対峙していた。


「……母上! どうして私の味方をしてくださらないのですか!」


 マリアは泣き叫んだ。

 彼女はまだ信じられなかった。

 どうして、誰も助けてくれないのかと。


 しかし、エリザベート伯爵夫人の目には、一片の同情もなかった。


「マリア、お前は何をしたのか理解しているの?」


「私は……ただ、アーノルド様を支えたかっただけです……!」


「それが、公爵家を陥れるための嘘をつくことだったの?」


「そ、それは……!」


 マリアは言葉を詰まらせた。


「王宮に嘘をつくということが、どれほどの罪なのか分かっているの?」


「でも、私は……!」


「お前のせいで、ブロンズ伯爵家は社交界での信用を失った。」


 その言葉に、マリアは凍りついた。


「……え?」


「リシュアン侯爵家はすでに没落した。 だが、それに加担したブロンズ伯爵家も、完全に信用を失ったのよ。」


 エリザベート伯爵夫人は深いため息をついた。


「カリエンテ公爵家に喧嘩を売ることが、どれほどの影響を及ぼすか、お前は考えたことがあったの?」


 カリエンテ公爵家は、王国の上級貴族の中でも特に影響力を持つ家柄だった。

 イザベルが公爵位を継いでからは、さらにその力を増していた。


 そんな家に敵対したブロンズ伯爵家は、すでに社交界では完全に孤立していた。


「……そ、そんな……。」


 マリアは愕然とした。


「私のせいで……?」


「ええ、そうよ。」


 母親は冷たく言い放った。


「だから、私はお前をブロンズ伯爵家の一員として認めることはできない。」


「ま、待ってください! それはつまり……!」


「お前を正式に伯爵家から追放する。」


 マリアは言葉を失った。



---


すべてを失う日


 その夜、マリアは伯爵家を追放された。


 これまで贅沢な暮らしを送っていた彼女は、一夜にして家も身分も失い、王都の街へと放り出された。


「そんな……こんなの……嘘よ……!!」


 彼女は涙を流しながら、王都の街を彷徨った。

 だが、どこへ行っても、彼女を受け入れる場所はなかった。


 宿屋の扉を叩いても、門番に追い払われる。

 かつての友人の屋敷を訪れても、誰も彼女を迎え入れようとはしなかった。


「マリア・ブロンズ? ……そんな人は知りませんね。」


 彼女を持ち上げていたはずの貴族たちは、皆、彼女の存在を"なかったこと"にしようとしていた。


 彼女の名は、貴族社会から完全に抹消されたのだった。



---


イザベルの視点


 一方、カリエンテ公爵邸では、イザベルがその報告を聞いていた。


「マリア・ブロンズが伯爵家を追放されました。」


 執事のレナードが淡々と告げる。


「彼女は現在、王都を彷徨っています。 もはや、彼女を庇う者は一人もいません。」


「そうですか。」


 イザベルは静かに紅茶を飲みながら、微笑んだ。


「当然の結果ですわね。」


 彼女は扇を閉じ、レナードに向き直った。


「アーノルドも没落し、マリアも社交界から追放された。

 これで、今回の事件は一応の決着がつきましたわね。」


「ええ。」


「ですが、二人ともまだ"救い"を求めるでしょうね。」


 イザベルは窓の外を見つめ、呟いた。


「さて……二人が再会したら、どうなるのかしら?」



-第三章 第二幕:マリアの追放



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社交界からの排斥


 アーノルド・リシュアンが爵位を剥奪され、王都を去った翌日。

 王都レヴァンティアの貴族社会では、もう一つの変化が起こっていた。


 それは、マリア・ブロンズ伯爵令嬢の完全なる孤立だった。


「ねえ、知ってる? マリア・ブロンズが社交界から追放されたんですって。」

「ええ、当然よ。 あれだけの嘘をついて、公爵家を陥れようとしたのだから。」

「そもそも、あの女は自分を持ち上げるために他人を貶めていたのよ。 社交界で生きていけるわけがないわ。」


 舞踏会での事件以来、マリアを支持していた貴族令嬢たちは、彼女から一斉に距離を置き始めた。

 かつては「マリア様」と敬われ、貴族令嬢たちの中心にいた彼女だったが、

 今となっては誰も彼女を擁護しようとはしなかった。


「ねえ、もうマリアに手紙を送るのはやめた方がいいかしら?」

「当然よ! あの女と関わっていると、私たちまで疑われるかもしれないもの。」

「まったく、あんな女と親しくしていたなんて、恥ずかしいわ。」


 彼女に寄り添っていたはずの貴族令嬢たちは、

 今では彼女の存在そのものを"なかったこと"にしようとしていた。



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伯爵家での冷遇


 一方、その頃。

 ブロンズ伯爵邸では、マリアが母親であるエリザベート・ブロンズ伯爵夫人と対峙していた。


「……母上! どうして私の味方をしてくださらないのですか!」


 マリアは泣き叫んだ。

 彼女はまだ信じられなかった。

 どうして、誰も助けてくれないのかと。


 しかし、エリザベート伯爵夫人の目には、一片の同情もなかった。


「マリア、お前は何をしたのか理解しているの?」


「私は……ただ、アーノルド様を支えたかっただけです……!」


「それが、公爵家を陥れるための嘘をつくことだったの?」


「そ、それは……!」


 マリアは言葉を詰まらせた。


「王宮に嘘をつくということが、どれほどの罪なのか分かっているの?」


「でも、私は……!」


「お前のせいで、ブロンズ伯爵家は社交界での信用を失った。」


 その言葉に、マリアは凍りついた。


「……え?」


「リシュアン侯爵家はすでに没落した。 だが、それに加担したブロンズ伯爵家も、完全に信用を失ったのよ。」


 エリザベート伯爵夫人は深いため息をついた。


「カリエンテ公爵家に喧嘩を売ることが、どれほどの影響を及ぼすか、お前は考えたことがあったの?」


 カリエンテ公爵家は、王国の上級貴族の中でも特に影響力を持つ家柄だった。

 イザベルが公爵位を継いでからは、さらにその力を増していた。


 そんな家に敵対したブロンズ伯爵家は、すでに社交界では完全に孤立していた。


「……そ、そんな……。」


 マリアは愕然とした。


「私のせいで……?」


「ええ、そうよ。」


 母親は冷たく言い放った。


「だから、私はお前をブロンズ伯爵家の一員として認めることはできない。」


「ま、待ってください! それはつまり……!」


「お前を正式に伯爵家から追放する。」


 マリアは言葉を失った。



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すべてを失う日


 その夜、マリアは伯爵家を追放された。


 これまで贅沢な暮らしを送っていた彼女は、一夜にして家も身分も失い、王都の街へと放り出された。


「そんな……こんなの……嘘よ……!!」


 彼女は涙を流しながら、王都の街を彷徨った。

 だが、どこへ行っても、彼女を受け入れる場所はなかった。


 宿屋の扉を叩いても、門番に追い払われる。

 かつての友人の屋敷を訪れても、誰も彼女を迎え入れようとはしなかった。


「マリア・ブロンズ? ……そんな人は知りませんね。」


 彼女を持ち上げていたはずの貴族たちは、皆、彼女の存在を"なかったこと"にしようとしていた。


 彼女の名は、貴族社会から完全に抹消されたのだった。



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イザベルの視点


 一方、カリエンテ公爵邸では、イザベルがその報告を聞いていた。


「マリア・ブロンズが伯爵家を追放されました。」


 執事のレナードが淡々と告げる。


「彼女は現在、王都を彷徨っています。 もはや、彼女を庇う者は一人もいません。」


「そうですか。」


 イザベルは静かに紅茶を飲みながら、微笑んだ。


「当然の結果ですわね。」


 彼女は扇を閉じ、レナードに向き直った。


「アーノルドも没落し、マリアも社交界から追放された。

 これで、今回の事件は一応の決着がつきましたわね。」


「ええ。」


「ですが、二人ともまだ"救い"を求めるでしょうね。」


 イザベルは窓の外を見つめ、呟いた。


「さて……二人が再会したら、どうなるのかしら?」



第三章 第三幕:二人の再会



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王都の片隅で


 マリア・ブロンズは、王都レヴァンティアの貧民街を彷徨っていた。

 かつて貴族令嬢として華やかな社交界にいた彼女だったが、今や行く宛もなく、すべてを失った身だった。


 伯爵家から追放されて数日、彼女はまともな食事も取れず、疲れ果てていた。

 着ているドレスは埃と泥にまみれ、髪は乱れ、かつての美貌も見る影もない。


「……どうして……こんなことに……。」


 彼女は壁にもたれかかり、か細い声で呟いた。


 寒空の下、誰も彼女に手を差し伸べる者はいない。

 貴族としての地位を失った彼女に、今さら関わろうとする者などいるはずがなかった。


「……誰か……助けて……。」


 その時だった。


「……マリア?」


 その声を聞いて、マリアは驚いて顔を上げた。

 そこに立っていたのは――アーノルド・リシュアンだった。



---


再会


 アーノルドは、以前のような貴族らしさをまったく失っていた。

 髪はぼさぼさで、衣服は粗末なものに変わり、何よりその目には光がなかった。


「……アーノルド様……?」


 マリアは震える声で呼びかけた。


 アーノルドは、かつての自信に満ちた貴族の雰囲気をまったく感じさせなかった。

 彼の顔はやつれ、疲れ果てていた。


「お前……こんなところで何をしている?」


「私……私、家を追い出されて……行くところがなくて……。」


 マリアは必死に言葉を紡ぐ。

 貴族だった頃は一度も見せたことのない、本当の哀れな姿だった。


 しかし、アーノルドはその様子を見ても、同情の色を見せることはなかった。


「……俺も同じだよ。」


 彼は苦笑し、ため息をつく。


「俺は爵位を剥奪され、農奴として働かされることが決まった。

 もう王都にいる時間も長くはない。」


「そ、そんな……。」


 マリアの顔が青ざめた。


「じゃあ……私たち、もう貴族じゃないの……?」


「当たり前だろう。」


 アーノルドは冷たい声で言った。


「俺たちはもう何者でもないんだ。」



---


責任の押し付け合い


 しばしの沈黙が流れた。

 やがて、マリアの表情が怒りに変わる。


「……全部、あなたのせいよ!!」


 突然、彼女は叫んだ。


「あなたが婚約破棄なんてするから……!

 あなたが公爵家を敵に回すなんて馬鹿なことをしたから、私までこんな目に遭ったのよ!!」


 アーノルドの表情が険しくなる。


「はあ? 何を言っている?」


「そもそも、あなたがあの舞踏会で余計なことをしなければ、

 私たちはまだ貴族として生きていられたのよ!」


 マリアの怒りは、すべてアーノルドに向けられた。


「あなたのせいで、私の人生は滅茶苦茶になったのよ!!」


「……ふざけるな。」


 アーノルドの声が低くなる。


「すべての元凶は、お前だろう。」


「な、なに……?」


「お前が"イザベルを陥れればいい"なんてくだらないことを言い出したから、

 俺はそれに乗ったんだ。 だが、それが完全に裏目に出た。

 そもそも、お前が"証人がいる"とか言ったせいで、俺は恥をかいたんだぞ!!」


 マリアの顔が引きつる。


「ち、違うわ! あなたが無能だから負けたのよ!!」


「ほう……?」


 アーノルドは険しい表情を浮かべる。


「じゃあ、お前の策が完璧だったとでも言うのか?」


「そ、そうよ!」


「なら、どうしてお前も追放された?」


「それは……!」


「結局、お前の策は穴だらけだったんだよ。」


 アーノルドは鼻で笑い、冷たく言い放った。


「お前が俺をそそのかし、俺がそれに乗った。 それが失敗しただけの話だ。」


「ち、違う……私は悪くない……!」


 マリアは必死に否定しようとするが、もはや言い訳など通用しない。



---


決裂


 しばらく沈黙が続いた。


 やがて、アーノルドがふっと笑い、肩をすくめた。


「……まあ、どうでもいい。」


「え?」


「俺はもう王都を出る。」


 アーノルドは淡々と言い放つ。


「これから農奴として生きることになるが、

 少なくとも、お前のように路頭に迷うことはない。」


 マリアの表情が強張る。


「……あなた、私を見捨てるの?」


「当然だろう。」


 アーノルドは冷たい目で彼女を見下ろす。


「お前のせいで俺はここまで堕ちたんだ。

 そんなお前に、これ以上関わる理由なんてない。」


「ま、待って! 私も連れて行って!!」


 マリアはアーノルドに縋りつこうとするが、彼は一歩引いた。


「ふざけるな。」


 彼は嘲笑するように言った。


「お前みたいな疫病神を、一緒に連れて行くと思うか?」


 その言葉に、マリアは崩れ落ちた。


「そ、そんな……。」


 アーノルドは一瞥すると、そのまま背を向けた。


「じゃあな、マリア。」


 彼はそのまま歩き去った。


 マリアは震えながら、その姿を見送ることしかできなかった。



---


完全なる孤独


 アーノルドに見捨てられたマリアは、王都の街角で呆然と座り込んでいた。


「……どうして……どうして、こうなったの……?」


 彼女は涙を流しながら、震える声で呟いた。


 かつて、彼女は貴族令嬢として、誰もが憧れる存在だった。

 それが、今では誰からも見向きもされず、たった一人でこの王都に取り残されることになったのだ。


 彼女の転落は、これで終わりではない。



-第三章 第三幕:二人の再会


王都の片隅で


 マリア・ブロンズは、王都レヴァンティアの貧民街を彷徨っていた。

 かつて貴族令嬢として華やかな社交界にいた彼女だったが、今や行く宛もなく、すべてを失った身だった。


 伯爵家から追放されて数日、彼女はまともな食事も取れず、疲れ果てていた。

 着ているドレスは埃と泥にまみれ、髪は乱れ、かつての美貌も見る影もない。


「……どうして……こんなことに……。」


 彼女は壁にもたれかかり、か細い声で呟いた。


 寒空の下、誰も彼女に手を差し伸べる者はいない。

 貴族としての地位を失った彼女に、今さら関わろうとする者などいるはずがなかった。


「……誰か……助けて……。」


 その時だった。


「……マリア?」


 その声を聞いて、マリアは驚いて顔を上げた。

 そこに立っていたのは――アーノルド・リシュアンだった。


再会


 アーノルドは、以前のような貴族らしさをまったく失っていた。

 髪はぼさぼさで、衣服は粗末なものに変わり、何よりその目には光がなかった。


「……アーノルド様……?」


 マリアは震える声で呼びかけた。


 アーノルドは、かつての自信に満ちた貴族の雰囲気をまったく感じさせなかった。

 彼の顔はやつれ、疲れ果てていた。


「お前……こんなところで何をしている?」


「私……私、家を追い出されて……行くところがなくて……。」


 マリアは必死に言葉を紡ぐ。

 貴族だった頃は一度も見せたことのない、本当の哀れな姿だった。


 しかし、アーノルドはその様子を見ても、同情の色を見せることはなかった。


「……俺も同じだよ。」


 彼は苦笑し、ため息をつく。


「俺は爵位を剥奪され、農奴として働かされることが決まった。

 もう王都にいる時間も長くはない。」


「そ、そんな……。」


 マリアの顔が青ざめた。


「じゃあ……私たち、もう貴族じゃないの……?」


「当たり前だろう。」


 アーノルドは冷たい声で言った。


「俺たちはもう何者でもないんだ。」


責任の押し付け合い


 しばしの沈黙が流れた。

 やがて、マリアの表情が怒りに変わる。


「……全部、あなたのせいよ!!」


 突然、彼女は叫んだ。


「あなたが婚約破棄なんてするから……!

 あなたが公爵家を敵に回すなんて馬鹿なことをしたから、私までこんな目に遭ったのよ!!」


 アーノルドの表情が険しくなる。


「はあ? 何を言っている?」


「そもそも、あなたがあの舞踏会で余計なことをしなければ、

 私たちはまだ貴族として生きていられたのよ!」


 マリアの怒りは、すべてアーノルドに向けられた。


「あなたのせいで、私の人生は滅茶苦茶になったのよ!!」


「……ふざけるな。」


 アーノルドの声が低くなる。


「すべての元凶は、お前だろう。」


「な、なに……?」


「お前が"イザベルを陥れればいい"なんてくだらないことを言い出したから、

 俺はそれに乗ったんだ。 だが、それが完全に裏目に出た。

 そもそも、お前が"証人がいる"とか言ったせいで、俺は恥をかいたんだぞ!!」


 マリアの顔が引きつる。


「ち、違うわ! あなたが無能だから負けたのよ!!」


「ほう……?」


 アーノルドは険しい表情を浮かべる。


「じゃあ、お前の策が完璧だったとでも言うのか?」


「そ、そうよ!」


「なら、どうしてお前も追放された?」


「それは……!」


「結局、お前の策は穴だらけだったんだよ。」


 アーノルドは鼻で笑い、冷たく言い放った。


「お前が俺をそそのかし、俺がそれに乗った。 それが失敗しただけの話だ。」


「ち、違う……私は悪くない……!」


 マリアは必死に否定しようとするが、もはや言い訳など通用しない。


決裂


 しばらく沈黙が続いた。


 やがて、アーノルドがふっと笑い、肩をすくめた。


「……まあ、どうでもいい。」


「え?」


「俺はもう王都を出る。」


 アーノルドは淡々と言い放つ。


「これから農奴として生きることになるが、

 少なくとも、お前のように路頭に迷うことはない。」


 マリアの表情が強張る。


「……あなた、私を見捨てるの?」


「当然だろう。」


 アーノルドは冷たい目で彼女を見下ろす。


「お前のせいで俺はここまで堕ちたんだ。

 そんなお前に、これ以上関わる理由なんてない。」


「ま、待って! 私も連れて行って!!」


 マリアはアーノルドに縋りつこうとするが、彼は一歩引いた。


「ふざけるな。」


 彼は嘲笑するように言った。


「お前みたいな疫病神を、一緒に連れて行くと思うか?」


 その言葉に、マリアは崩れ落ちた。


「そ、そんな……。」


 アーノルドは一瞥すると、そのまま背を向けた。


「じゃあな、マリア。」


 彼はそのまま歩き去った。


 マリアは震えながら、その姿を見送ることしかできなかった。


完全なる孤独


 アーノルドに見捨てられたマリアは、王都の街角で呆然と座り込んでいた。


「……どうして……どうして、こうなったの……?」


 彼女は涙を流しながら、震える声で呟いた。


 かつて、彼女は貴族令嬢として、誰もが憧れる存在だった。

 それが、今では誰からも見向きもされず、たった一人でこの王都に取り残されることになったのだ。


 彼女の転落は、これで終わりではない。

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