恋をすることなんて夢だと思っていた。誰かを好きになって、誰かに好きになってもらう、それは途方もない夢なのだと。そんな私が恋をした。叶う筈のない恋を。
01
「瑠菜~。誕生日おめでとう~!ケーキ食べに行こ!」
親友の乃亜が私に向かって駆け寄ってくる。今日は私の誕生日なのに乃亜の方が嬉しそう。甘いものが大好きな乃亜はケーキを食べにいけることが嬉しいのだろう。
「乃亜、ありがとう。フルーツタルトが食べたいな~。それでもいい?」
「勿論!いつものお店だよね?紅茶も頼んじゃおっと。早く早く。」
テンションの高い乃亜は私の手を握って走り出す。日頃からジムにトレーニングに水泳にヨガと身体を動かすことが大好きな乃亜は考えるより先に動いてしまう。反対に私は暇さえあれば図書館か家で読書をして過ごしているから運動不足が祟ってすぐには走り出せない。動く前に考えてしまう私と乃亜は正反対だけれど、だからこそ話が合う。違う考え方を吸収し合っていつの間にか親友になっていた。
待ち合わせ場所の駅から少し歩いたところにあるカフェ
「今日は私の奢りね。好きなだけ食べて。しばらく甘いものいらなくなるくらい食べちゃお。」
乃亜が笑顔で私に言う。
「本当?ありがとう。季節のフルーツタルトと無花果のタルト、それからアールグレイのセットにしようかな」
お店に入って顔馴染みの店員さんに案内されていつもの席へ。注文を済ませて何とはなしに店内を見回す。見慣れない顔があった。
「ねえ乃亜。あんな子いたっけ?」
乃亜に聞く。
「んー?あの男の子?確かに見たことないかも。聞いてみよっか。すいませーん」
店員さんを呼ぶ乃亜。行動が早いな。
店員さんに「どうされました?」と聞かれる。
「あそこにいる男の子って新しい店員さんですか?」
そう尋ねる乃亜に一度店内を見回し「ああ、理久くんですね。新しいバイト仲間です。先週からだったかな。」
そう教えてくれた。それを聞いてもう一度その子を見る。すると視線に気付いたのかこちらを見たその子と目が合った。会釈をされたので慌てて返す。綺麗な子だな、と思った。
「瑠菜どしたの?」
届いたケーキを写真に撮りながら乃亜に聞かれた。
「ううん。年が近そうだな~って思っただけだよ。それよりケーキ美味しそう。食べよっか。」
そう答えてフォークを手に取る。
「そうだね。改めて20歳の誕生日おめでとう瑠菜。これからもよろしくね!」
満面の笑顔で祝ってくれる乃亜にお礼を言ってケーキを頬張る。美味しいな。幸せ。
その日はそれから他愛ない話をして、帰路についたけれど、あの新しいバイトの男の子を思い出してなんだか不思議な気持ちになった。