心に芽吹いたこの気持ちに恋と名前をつけていいかも分からないほど、私はこの心に自信がなかったけれど。たとえ君が何者でも好きでいたいと思えるくらい恋をしたかった。
02
乃亜がいない日もカフェにはよく通っていた。いっそバイトでもしようかなと思うくらい。...なんとなく思っただけだけれど、いい考えかもしれない。今日行った時に店長さんに相談してみようかな。
そう思いながらétoil《エトワール》に到着。ドアを明けて中に入る。店内を見ていたら顔馴染みの店員さんが気付いて駆け寄ってきた。
「いらっしゃいませ。今日はお一人ですか?」
素敵な笑顔。営業スマイルだと分かっていても素敵だと思う。
「こんにちは。えっと、今日は、ここで働かせて頂けないかなと思いまして。店長さんがいたらお話したいんですが。勿論履歴書必要だと思うのでお話したら日を改めます。」
そう言うとその店員さんは少し考えてまた笑顔で頷いて「少しお待ちくださいね」と店長さんを呼びに行った。
程なくして店長さんがやってくる。私を見て笑いかけてくれた。店長さんにも覚えられる程通っているのだからこれは嬉しい。
「いらっしゃいませ。綾瀬さんから話は聞きました。軽く面接したいんだけど今お時間大丈夫ですか?」
そう言って奥に歩き始めた店長さんに軽く慌てる。
「え、今からですか!?履歴書持ってないですよ!?」
「いいんですよ。いつも来てもらっててこの店では貴女は誰にでも丁寧に接してくれていますからね。軽く面接したら採用するつもりです。」
その言葉に驚く。それはここに来ていたのも店員さんへの対応も好意的に見られていた気恥ずかしさと面接だけで採用してくれるという店長さんに対する驚きだった。
奥へと向かう店長さんの後を付いていくと前から歩いてきた男の子に気付いた。
「お、理久。お疲れ様。今度ウチで働くことになる、あー、名前聞いてませんでした。」
急に振られた私は少し慌てて
「天海瑠菜です。こんにちは」
名前を言って会釈する。
「この前来てくれた方ですよね。こんにちは。
そう返してくれた彼は淡く笑っていて。やっぱり綺麗だと場違いなことを思った。私と来実さんの自己紹介を見ていた店長さんが思い出したように言う。
「後で詳しく話すけど教えておきますね。理久はAIなんです。テストタイプとでも言うのかな。理久を開発した企業が接客を学ばせるためにウチで働かせていて。とは言え人そっくりだから初見でAIだとは分からないかな。僕も雇われだからあんまり詳しくは聞かされてないんですがこの店で働く人には説明することにしているんです。」
そう一息に言われたその言葉たちはすぐに飲み込めるものではなかったけれど、半信半疑で来実さんを見た時に彼が浮かべていた笑顔が余りにも儚くて綺麗だと思うと同時に、心に芽吹いたまだ何かも分からない感情が萎んでいくような気がした。《》