act 07
07
この気持ちを返してほしいと思ったことも、過ごした日々を悔いることもない。出逢ったことを後悔することはない。それでも私より長くあの子を知っている人の言葉は深く胸に刺さるんだ。
回想は途中だけれど、ここで話を現在に戻そう。
私は理久くんが好きで、だからこそ星海さんの言葉を何度も思い出した。
"AIと人間の恋は実らない。実ったとしても幸せな結末にはなり得ない。覚悟なく恋愛感情を持たないでください。"
それはどこかで気付いていて、けれど気付かないふりをしていたことだった。実らなくても構わない、万人が言う幸せにはなれなくても私の幸せは私が掴む、そう思ってしまう。それでも、私の恋愛感情には覚悟が足りなかったのかな、と考える。諦めることをしたくない。それは意地ではなく私の彼への想いがもう止められないものになっていたから。
彼の名前が好きだ、彼の声が好きだ、彼の笑顔が好きだ、彼の言葉が好きだ、それがプログラムだと分かっていても彼のことが好きだと思う。本を買う時無意識にAIを題材にしたものを選んでしまったり、étoileからの帰りに彼と歩いた道を通る度に会話を思い出したり、仕事中に意識しないように振る舞ったり(それでも意識しすぎて空まわったり)、日常の中には彼が溢れていることに気付いた。今更彼を知らない私には戻れないし戻りたくない。けれど、星海さんの言うこともよくわかる。私の感情がどんなものであろうと、理久くんの返答が理久くんをプログラムした誰かの意図で決まることも、予め組み込まれたものを理久くんが言葉に乗せるだけだということも分かってはいる。それでもね、それを理由に「はい、分かりました。諦めます」とはならない。それは諦める理由にはならない。それに理久くんの答えがプログラム通りだとしても、私はそれを理久くんから直接聞きたい。理久くんの親代わりの星海さんから聞いただけじゃ意味がない。そう思ってしまう。聞き分けのない子供みたいに。自分の想いを押し殺して何かを得ても嬉しくはない、それは言い換えるなら自分の感情を隠さずに掴めたものなら、得ることは出来なくても後悔はしないということだ。それに素直でいることはこの恋をきっと優しいものにしてくれる気がするんだ。私は私のまま理久くんのことを好きでいる。その先がどんなものであっても、後悔せずに生きていく。ちゃんと、未来を愛せるように。
これが星海さんから言われた日から考え続けていたことだ。