「ちょっと待てやコラァァァァ!!!!!」
「うわ、第一声がクソ雑魚陰キャの悲鳴で草ァ」
朝8時。
目覚ましも鳴る前、俺のスマホがけたたましく震えた。画面には通知の山。全ては一件の【コラボ配信告知】のせいだった。
『【LiveDungeon公式】配信者コラボ決定!』
▶︎返金系底辺配信者・南雲サトル × 戦姫系トップ配信者・白雪レイナ
▶︎テーマ:「返金か美貌か、生き残るのはどっち!?」
「いや!聞いてねぇし!?いつ俺が了承したんだよ!!?」
「私が代わりに押しときました♡」
「やっぱお前かよレンさん!!」
「だって面白そうだったので」
「ノリが大学の文化祭レベルなんだよ!!俺は命かかってんだぞ!!」
◇ ◇ ◇
白雪レイナ――配信者ランキング不動のトップ。
容姿:完璧。スタイル:完璧。ファンサ:神対応。配信内容:バトルしながら雑談、料理、時々猫耳コスプレ(※ただし高難易度ダンジョン内)。
登録者数は1500万人。スパチャは月億超え。
にもかかわらず、何故か俺に敵意むき出しである。
そしてコラボ当日――
待ち合わせ場所に現れたレイナは、想像以上に現実味がなかった。
「お待たせ〜♡って、うわ、ほんとにあんた来たの?」
「いやそっちが呼んだんだろ!?俺だって逃げられるなら逃げたわ!」
白雪レイナ。髪は銀。目は紫。戦闘用のミニドレスに、腰のホルスターにはデジタルマジック銃。
人間離れした美貌に、配信特化型の戦闘装備。
「やっぱ本物だった……存在していいのかこんな絵面……」
「そっちこそ、画面越しより死にそうで笑っちゃうわ。今日もスパチャ回収のためにギリギリまで血ィ吐いて♡」
「吐きたくねぇわ!!てかなんでそんな敵意あるの!?」
レイナは指をくるりと回してカメラON。
「みんな〜♡今日のコラボ相手は、スパチャ返金詐欺で有名な南雲くんでーす♡」
「言い方悪意しかない!!!」
【来たな清楚姫!】
【返金詐欺マンとコラボw】
【これはスパチャ投げるしか】
【推しが命のやりとりしとる】
◇ ◇ ◇
ダンジョンは“死霊のラビリンス”。
ランクA。別名「観客が拍手しながら祈るレベル」の配信向き地獄MAP。
入り口で武器チェックをする間、レイナがボソリ。
「……あんたさ、知ってる?」
「なにが」
「この業界、本気で“死者”出たことあるって」
「……は?」
レイナは目を伏せる。
「三年前、まだLiveDungeonがテスト運営だった頃。ウチの同期で、たった一人だけ“ギリ生存芸”に手を出したやつがいた」
「……」
「結局そいつ、リアルでモンスターに食われた。で、翌日にはスパチャ返金されて、そのチャンネルはランキングからも除外されて、誰も話題にしなくなった」
「……」
「そんな業界で、あんたみたいな奴が“バズって”るの、普通にムカつくわけよ」
「……!」
彼女の瞳に、ほんの一瞬だけ、冷たい怒りが宿った。
◇ ◇ ◇
とはいえ、この女……戦闘中はノリノリである。
「レイナ様いっきま〜す♡《氷結魔弾・クレメンタイン》っ!」
一瞬でダンジョンのゾンビ三体を凍らせ、そのまま高笑い。
「ハイ♡今のキメ顔タイムでスパチャお願いね〜♡」
【かわいすぎる】
【はい神回】
【レイナ様の氷結マジ尊い】
「おまえ、切り替え早ッッッ!!」
一方の俺は、背後から幽霊に肩をつかまれながら、震える手で武器を構える。
「こ、こっちは生きるのに必死なんだけど!?」
【いい顔してる】
【やっぱ南雲だわ】
【死相出てて草】
「視聴者もノってくるな!?頼むから一人くらい心配して!?」
◇ ◇ ◇
そして問題のシーンは突然やってきた。
通路の先に現れたのは、レイドボス級の死神型モンスター。
黒のマント、鎌、そして威圧感。
「……え、ちょ、今日ってそういう配信じゃないよね!?」
「わかんない♡たぶん運営のサプライズ♡」
「軽ッ!?死ぬかも知れないんだぞ!?」
「安心して、あんたが盾になるから♡」
「おいィィィ!!」
◇ ◇ ◇
カメラが回り、スパチャが飛び、コメントが炎上し、
俺は死神の一撃を回避しながら絶叫する。
「うおおおぉおおお!!生きたくねぇぇええええ!!!」
「ちょっと言葉の意味バグってない!?」
【ギリ生存芸は文化】
【レイナ様のツッコミ助かる】
【今日の配信で人生変わった(?)】
やがて、なんとかギリで死神を撃退。
俺は床にへたり込み、ゼェゼェと呼吸を整え――レイナを見る。
彼女は……ほんの少しだけ、笑っていた。
「……ギリギリで、面白かったじゃん。あんたのこと、少しだけ見直したわ」
「いや、これ……まだ俺、生きてるんですけど!?というか死にかけてるんですけど!?」
【最高のコラボだった】
【またやってくれ】
【次はリアルでデート配信お願いします】
【南雲が報われる未来が見えない】
◇ ◇ ◇
配信終了後、レイナが一言。
「次もコラボ、呼んでやってもいいよ」
「誰が呼ぶかァァァアア!!」