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第4話 「コラボのお時間です♡清楚系ダンジョン狂いと地獄の二人三脚」

「それでは、今日のゲストは〜?」


【\白雪レイナちゃーん!!/】

【キタ━━(゚∀゚)━━!!】

【サトル、死ぬぞマジで】


 コメント欄が桜吹雪のように華やかに、そして恐ろしく沸いた。

 それもそのはず。

 今サトルが並んで立っているのは――


「えへへっ、初めましてぇ〜。白雪レイナですぅ♡みんな、よ・ろ・し・く・ね?」


 白くゆるく巻かれたセミロング。愛らしいウサ耳カチューシャ。そして、永遠の17歳を名乗る清楚系エルフ配信者。

 それが白雪レイナである。


 だがこの女、ただの清楚ではない。

 配信業界では密かにこう呼ばれていた――


『殺意の清楚』


 事実、レイナとコラボした配信者は次々に引退している。心が折れて。

 地雷女にもほどがある。


「え、今日のダンジョン、“ドゥーム蟻の巣穴”じゃなかったっけ……?あれ、ランクBじゃ……?」

「大丈夫ですよぉ♡ 私、蟻さん大好きなんでぇ♡」


 画面越しに笑顔を振りまきながら、彼女は当たり前のように、フラグを建てる。


 いや違う、建てるっていうか、ビル建築してる。


 準備が整ったところで、サトルは配信モードをオンにする。

 スパチャ通知が鬼のように飛んできた。


【1000G:サトル、今日は覚悟しろ】

【500G:レイナ様、サトルをどうか躾けてください♡】

【100G:初見です。ここがサトルが壊れる配信ですか?】


 視聴者の期待は明らかに「死ね」の一点に集約していた。

 心が泣く。


「じゃあ、サトルくん♡私が先頭いくね〜♪」

「……あ、ありがとう」


 内心(え、レイナさんが盾役?)と動揺したが、すぐにその意味を知る。


「きゃっ♡蟻さんに囲まれちゃった〜♡……あっ、サトルくん、助けてくれないと、私死んじゃうかもぉ〜?」


 わざとだ。

 完全にわざと囲まれにいってる。


「ちょ、ちょっと!?こっちだって回復準備まだ──わ、マジで来るな来るな!?わぁああ!?ぐあっ!?」


 地獄絵図が展開された。

 配信画面の視聴者数はうなぎのぼり。


【キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!】

【これが、地獄の清楚劇場……!】

【さすレイナ】

【サトルの断末魔草】


 レイナは笑っている。

 白雪レイナ――可愛い顔して、完全に“視聴率の鬼”だった。


 休憩ポイント。

 サトルは血まみれのポーションを飲みながら、思い切って聞いてみた。


「……レイナさんって、昔はこんな配信スタイルじゃなかったですよね?」

「ふぇ? ああ〜……うん、昔はね」


 唐突に笑みが緩む。


「昔は、もうちょっと真面目にやってたかも。“攻略解説系”とか、“ソロ縛り”とか。でもね?」


 その瞳の奥に、一瞬だけ深い影が宿った。


「“正しさ”って、視聴数にならないの。誰も、頑張ってるだけの人なんて見たくない。血とか、涙とか、そういうのが混ざってないと、興奮しないんだってさ」


 言い終わると、レイナはまたニッコリ笑った。


「というわけで、私は今のスタイルで生きることにしたんだよぉ♡」


 その声の裏に、何かを押し殺した音がしたような気がした。


 ダンジョン後半戦。

 突然、視聴者数が爆増する。


【!? レイナアンチ参戦中!】

【また来た粘着型コメ荒らし!】

【「白雪は偽善者」って名前で100スパチャ連投してる奴やべぇwww】


「……またかぁ。最近しつこいんだよねぇ、あの子」


 レイナの笑みが、ほんの一瞬だけ消えた。


 すると、彼女は振り返って――カメラにウィンクしながら言った。


「ねぇ、みんなぁ♡ ちょっと“荒らしの巣”に、突撃しよっかぁ♡」


 その瞬間、サトルの背筋が凍った。

 そして、画面のコメント欄も叫んでいた。


【おい、今の言い方……怖すぎたぞ】

【レイナ様の“反撃配信”くるか!?】

【やっぱこの人、清楚じゃねぇぇぇ!!】

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