「それでは、今日のゲストは〜?」
【\白雪レイナちゃーん!!/】
【キタ━━(゚∀゚)━━!!】
【サトル、死ぬぞマジで】
コメント欄が桜吹雪のように華やかに、そして恐ろしく沸いた。
それもそのはず。
今サトルが並んで立っているのは――
「えへへっ、初めましてぇ〜。白雪レイナですぅ♡みんな、よ・ろ・し・く・ね?」
白くゆるく巻かれたセミロング。愛らしいウサ耳カチューシャ。そして、永遠の17歳を名乗る清楚系エルフ配信者。
それが白雪レイナである。
だがこの女、ただの清楚ではない。
配信業界では密かにこう呼ばれていた――
『殺意の清楚』
事実、レイナとコラボした配信者は次々に引退している。心が折れて。
地雷女にもほどがある。
「え、今日のダンジョン、“ドゥーム蟻の巣穴”じゃなかったっけ……?あれ、ランクBじゃ……?」
「大丈夫ですよぉ♡ 私、蟻さん大好きなんでぇ♡」
画面越しに笑顔を振りまきながら、彼女は当たり前のように、フラグを建てる。
いや違う、建てるっていうか、ビル建築してる。
準備が整ったところで、サトルは配信モードをオンにする。
スパチャ通知が鬼のように飛んできた。
【1000G:サトル、今日は覚悟しろ】
【500G:レイナ様、サトルをどうか躾けてください♡】
【100G:初見です。ここがサトルが壊れる配信ですか?】
視聴者の期待は明らかに「死ね」の一点に集約していた。
心が泣く。
「じゃあ、サトルくん♡私が先頭いくね〜♪」
「……あ、ありがとう」
内心(え、レイナさんが盾役?)と動揺したが、すぐにその意味を知る。
「きゃっ♡蟻さんに囲まれちゃった〜♡……あっ、サトルくん、助けてくれないと、私死んじゃうかもぉ〜?」
わざとだ。
完全にわざと囲まれにいってる。
「ちょ、ちょっと!?こっちだって回復準備まだ──わ、マジで来るな来るな!?わぁああ!?ぐあっ!?」
地獄絵図が展開された。
配信画面の視聴者数はうなぎのぼり。
【キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!】
【これが、地獄の清楚劇場……!】
【さすレイナ】
【サトルの断末魔草】
レイナは笑っている。
白雪レイナ――可愛い顔して、完全に“視聴率の鬼”だった。
休憩ポイント。
サトルは血まみれのポーションを飲みながら、思い切って聞いてみた。
「……レイナさんって、昔はこんな配信スタイルじゃなかったですよね?」
「ふぇ? ああ〜……うん、昔はね」
唐突に笑みが緩む。
「昔は、もうちょっと真面目にやってたかも。“攻略解説系”とか、“ソロ縛り”とか。でもね?」
その瞳の奥に、一瞬だけ深い影が宿った。
「“正しさ”って、視聴数にならないの。誰も、頑張ってるだけの人なんて見たくない。血とか、涙とか、そういうのが混ざってないと、興奮しないんだってさ」
言い終わると、レイナはまたニッコリ笑った。
「というわけで、私は今のスタイルで生きることにしたんだよぉ♡」
その声の裏に、何かを押し殺した音がしたような気がした。
ダンジョン後半戦。
突然、視聴者数が爆増する。
【!? レイナアンチ参戦中!】
【また来た粘着型コメ荒らし!】
【「白雪は偽善者」って名前で100スパチャ連投してる奴やべぇwww】
「……またかぁ。最近しつこいんだよねぇ、あの子」
レイナの笑みが、ほんの一瞬だけ消えた。
すると、彼女は振り返って――カメラにウィンクしながら言った。
「ねぇ、みんなぁ♡ ちょっと“荒らしの巣”に、突撃しよっかぁ♡」
その瞬間、サトルの背筋が凍った。
そして、画面のコメント欄も叫んでいた。
【おい、今の言い方……怖すぎたぞ】
【レイナ様の“反撃配信”くるか!?】
【やっぱこの人、清楚じゃねぇぇぇ!!】