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第8話

病院を出て、藤田に片桐家の邸宅へ戻るよう指示した。


漢方薬の包みがそこに置いてある。実家へ持って帰って毎日煎じ、母の手料理と一緒にいただけば、太らないわけがない。


漢方薬の包みは居間にそのまま残っていた。

昨晩、光哉が帰宅したかどうか、立花日菜子とどう話したか、私は何も知らない。


「どうして昨日、車から降りなかった?」


階段の上から光哉の声が降りてきた。


見下ろすように私を見つめ、その目は不満げだった。どうしてまたいるの?普段は三ヶ月に一度顔を出すかどうかだというのに。


光哉は真っ黒な部屋着を着ていた。シンプルなデザインだが、その顔とスタイルで十分に目を引く。


「あなたの女たちには、私は一切関わらないわ。今回も同じよ」


「そうか?じゃあ、あいつらが次々と仕事を失い、スキャンダルまみれになるのは、みんな偶然だって言うのか?」


光哉は無表情で私を見つめた。


なるほど、彼は私のやったことを知っていたんだ。ただ、見逃していただけ。彼にとってあの女たちは、遊びでしかなかったのだ。

後に現れる萌香とは違って。彼女に一度会って話したいと言っただけで、光哉は私を引き裂こうとしたものだった。


私は否定しなかった。

「あなたが彼女たちに与えたお金や仕事だって、半分は私のものよ。別の形で少し取り戻しただけ。当然のことでしょう」


「じゃあ、立花日菜子からはどうして直接取り立てないんだ?俺が彼女にマンションをやった。その半分はお前のものだぞ」


光哉は階段を降りてきて、私の目の前に立った。


190cm近い身長が圧迫感を放つ。

光哉、何かおかしいんじゃない?


私は眉を寄せた。


長くて一年もすれば彼は離婚を切り出す。その時は使いきれないほどの金をくれる。マンション一軒なんて、私が気にすると思う?


「もういいのよ。彼女は最初の一人じゃないし、最後でもない。相手にしきれないわ」


そう言い残すと、私は急いで立ち去った。


藤田に中へ取りに行かせればよかった。

表門を出て、初めて背後の冷たい視線が消えたのを感じた。

漢方薬の包みを後部座席に放り込み、藤田に発車を命じた。





実家に着くと、薬の包みを家政婦に渡した。


母は料理をしていた。これは彼女の趣味の一つだ。


父の車も戻っていて、玄関に入るなり、目を剥いてスマホを私に差し出した。


「見てみろよ、これが一体何事だ!」


私は携帯を見てみると、【人気若手女優・立花日菜子、片桐財閥社長とホテル同入後も交際を否定】


交際じゃないわ、不倫よ。


スマホを返しながら言った。

「パパ、デタラメよ。光哉はビジネスマンなんだから、その場限りの芝居は避けられないの」


「まだ彼の肩を持つのか!」

父は激怒した。


彼の肩なんて持ってないわ。父が病気にならないか心配なだけよ。


「それなら今すぐ行って、光哉を叱ってやる!」


私は袖をまくり上げた。


「手伝うわ、親子で一緒にかかって、こてんぱんにしてやる!」


父は真っ青な顔をしていたが、私の言葉に笑い出した。


「そんなバカなこと言うんじゃない!」


私は父の腕を抱きしめた。


「パパ、怒らないで。片桐財閥が白江県にもたらした経済効果を考えれば、心が晴れやかになるでしょう?」


「そういえば……この前、光哉がいくつかの学校に新しいトラックを寄付してくれたな。社会を考えてくれてる証拠だ」


父は光哉の良さを思い出したようだ。


「そうでしょ」


私は相槌を打った。


そう話していると、母が「ご飯よ」と呼んだ。私の大好物がテーブルに並んでいる。

世の中に母ほど偉大な存在はない。


昼食は温かいひと時だったが、父は仕事に戻らなければならなかった。


午後は私と母だけになった。

母の麻雀仲間が数人来て、四人で麻雀をしながらおしゃべりした。


私はソファに寝転がり、光哉と立花日菜子のニュースを開いた。


立花日菜子は、光哉とはただの友人で、光哉が新作ドラマに投資し彼女をヒロインに起用するため、打ち合わせでよく会うだけだと説明していた。どうやら光哉はまた少し貢いだらしい。彼はそういうことにはいつも気前がいい。


いつの間にかソファで眠ってしまい、千里からの電話で目が覚めた。

言うまでもなく、またバーに誘いだ。


「美雪、早く来て!イケメンがいるよ!」


電話の向こうで千里が叫んだ。


「どれくらいイケメン?」


「とにかく、天地黄変するくらいのイケメン、もう、驚愕の美しさだよ!早く来て、果奈も来てるし、優佳は最近小さなイベントがあって来れないの。」


千里は大げさに言う。


私が光哉と離婚すると知ってから、彼女たちは順番に私を誘ってくれた。食事、カラオケ、ショッピング……私が暇を持て余さないように。


彼女たちが思っているのは、私は平静を装っているけど心の中では辛いはずだ、気を紛らわしてほしい、ということ。


確かに、そういう時間は必要だった。そうしないと、前世のことばかり考えてしまうから。


「着替えてすぐ行くわ」私は電話を切り、送られてきた住所を確認した。


30分後、私はすっかり元気になって家を出た。夜の街はまだ始まったばかりだ。


千里は白江県のバーを隅から隅まで知っていて、どこに美味しい酒とイケメンがいるかよくわかっている。

確かに、今回連れてきたイケメンたちはなかなかのレベルで、まるで若手俳優のようだった。


「オエッ!」飲みすぎて、吐き気をこらえきれなかった。


本当にダメだわ。目の前のイケメンたちを見ながら、心の中ではこっそり彼らを光哉と比べてしまう。全く交流せず、ひたすら酒を飲んでいた。


やっぱり光哉の方がイケメンだわ。見た目も雰囲気も、どちらも彼の方が上だ。


「ごめん、トイレ」


私は立ち上がった。隣にいたイケメンがすぐに支えようとした。


断らず、私はその気遣いを甘受した。


トイレで天が地をひっくり返すほど吐き、口をすすぎ顔を洗って出てくると、イケメンはまだ待っていた。


「LINE、交換してもいいですか?」


「LINEを交換して何するの?」


「連絡を取りたいです」


彼はストレートに言った。


「もし寂しくなったら、いつでも連絡してね~♡」


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