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第10話

そう言い終えると、急に睡魔が襲ってきた。お酒の遅効きだろう、頭の中は眠気でいっぱい。


光哉が車の中で一晩寝かせておくかと思いきや、翌朝目が覚めるとまた寝室のベッドの上だった。


これは彼が私を抱えて部屋に戻した二度目だ。この流れはあまり良くない。


頭がガンガンする。シャワーを浴びて着替えたら少し楽になったが、今度はお腹が空いた。


光哉は家にいないだろうと思い、下着もつけずに薄手のシルクのパジャマを羽織って、階下に食べ物を探しに行った。


階段を半分ほど下りたところで、リビングのソファに二、三人が座っているのが見え、全員が一斉にこちらを見上げた。


光哉もその中にいて、トランプを手にしていた。私の格好を見た瞬間、彼の顔が一気に真っ青になった。


「うわっ!失礼しました!」


竹内誠が咄嗟に隣にいた男の頭を押さえつけた。


私は慌てて階上に戻って着替え、心の中で光哉を千回ほど罵った。


こいつ最近どうかしてるんじゃないか?

なぜいつも家にいるんだ?


着替えて階下に降りると、三人はもうトランプはしておらず、おしゃべりをしていた。光哉のその友人たちは、私も顔は知っているが、親しくはない。


竹内誠、山田健人、そしてもう一人は四ノ宮拓也だ。


みな家柄の良いお坊ちゃまで、拓也だけは少し違って、家業を継がずに医者の道を選んだ。


彼らの心の中では、私が光哉の妻だと認められたことは一度もない。


前世では、彼らは光哉が萌香を追いかけるのを手伝っていた。拓也を除いて。


三人は私が階段を降り、キッチンに入るのも見ていたが、誰も口をきかなかった。


私は彼らを無視して、シンプルなうどんを作った。


「行くぞ」


光哉が立ち上がった。竹内と山田は頷いて後を追った。


外からすぐにエンジン音が響いた。私はスープをすする音を立てながら、聞こえないふりをした。

朝食を終え、さっと化粧をして病院へ向かった。





今日は主に健康診断、ついでに渡辺悠斗の様子を見るためだ。


診察券を取って、流れに沿って検査を受けた。重点は乳腺だった。

幸い、大きな問題はなく、単なる乳腺症だった。


検査結果をきちんとしまい、渡辺の見舞いに向かおうとした。


「四ノ宮先生、お疲れ様です。お昼、ご一緒にいかがですか?」


病棟に着いたばかりで、小柄な看護師の甘えた声が聞こえた。


少し離れたところに、拓也が白い診察着を着て立っていた。すらりとした体形で清潔感のある雰囲気、禁欲的な顔立ちは、彼のいる社交界の中では異彩を放っていた。


あの界隈のお坊ちゃんたちはみな飲んで遊んでばかりだが、彼だけは医療に身を捧げ、普段はせいぜい光哉たちと酒を飲んだりゲームをしたりする程度で、ゴシップはほぼ皆無だ。


それでも後に萌香にメロメロになったんじゃないか?私は彼を避けて、渡辺の病室へと向かった。思えば萌香がまたいた。


「萌香、俺、怪我したのは足で、手は大丈夫だから、自分で食べられるよ」


渡辺は萌香がくれたリンゴを食べながら、もごもごと言った。


萌香の笑い声は鈴を転がすようで、甘く柔らかい。


「どうしたの?私が優しくすると気に入らない?」


「気に入る、気に入る!俺の萌香が一番だ!」


渡辺は満面の笑みを浮かべ、ベッドの傍らにいる美しい少女を一心に見つめた。


私はわざと咳払いをして、ラブラブな二人の時間を遮った。


渡辺は驚いた


「美雪さん?どうしてまた来たんですか?」


萌香は慌てて立ち上がり、席を譲った。


「美雪さん、どうぞおかけください」


萌香の色白の卵型顔は、近くで見るとさらに美しかった。

ふと、さっき立ち去った拓也のことを思い出し、私は咄嗟に彼女の手首をつかむと、そのまま病室から引っ張り出した。


「美雪さん?どうしたんですか?」


萌香は驚いて、私に引っ張られて廊下を早足で歩いた。


拓也はどうしてあんなに早く行ってしまったんだ?少しがっかりした。

前世では、光哉が先に萌香に出会い、その後拓也が光哉を通じて彼女を知った。


もし拓也が先に萌香と出会うように仕向けたら? 何か変わるだろうか? 彼も一目惚れするだろうか?


私はため息をつき、萌香に淡く笑いかけた。


「大丈夫よ。ついでに君に紹介したい医者がいて、抜糸の時に診てもらおうかと思ってね。腕は確かよ」


「美雪さん、お気遣いありがとうございます。悠斗君の怪我は大したことないんです」


萌香は申し訳なさそうに笑った。


「彼は大の大人だし、こんな怪我は怖くないんです。以前バスケをしてた時もよく擦り傷を作ってたし、もう慣れてますから」


私は頷き、心の中で次に機会を見計らって萌香を拓也の前に連れて行くことを考えた。


萌香がいたので、渡辺とゆっくり話すこともできず、数分だけ滞在して帰った。


帰り道に、また薬局に寄って、新たな滋養強壮の漢方薬を買い求めた。


「藤田さん、家政婦の手配はできた?」


車に乗ると、私は藤田さんに電話をかけた。


「奥様、ちょうどこれから彼女たちをご自宅にお連れするところです」


「わかった」


30分後、片桐家の邸宅に戻った。藤田の方が早く、家政婦たちはもうそれぞれの持ち場に就いていた。


藤田さんの手配はなかなかのものだった。


私が戻ってきたのを見て、藤田さんは家政婦たちに私の身分を紹介した。


家政婦たちは丁寧に軽くお辞儀する。


「奥様、ごきげんよう」


私は軽く頷き、一番清潔そうに見えた家政婦に漢方薬を手渡した。


「煎じて持ってきて」そう言うと、中に入って休んだ。


しばらくして、その家政婦が煎じた薬を持ってきた。


「奥様、お薬ができました」


私はテーブルの上の真っ黒な薬を眺め、その風情の残る家政婦の顔を見て、穏やかに尋ねる。


「お名前は?」


「奥様、麻倉と申します」


家政婦の麻倉は急いで答えた。


「ああ、ありがとう、麻倉さん」


私は無理に笑顔を作って手を振った。


「お仕事に戻っていいわよ」


家政婦の麻倉は頷いて去って行った。私の視線は彼女の後ろ姿に注がれた――顔立ちも体つきも、萌香と似ていた。


突然、世界は本当に不思議なものだと思った。倒れかけたドミノのようだと。


私は藤田にメールを送り、家政婦たちの資料を送るよう指示し、特に家政婦の麻倉の情報を重点的に見た。


緊急連絡先は配偶者。


緊急連絡先の欄に書かれた名前を見て、私は口元をほころばせた。


麻倉はる、麻倉崇人。


この名前は私はよく知っていた。前世、萌香を調べた時は大した収穫はなかったが、彼女の両親の名前ははっきりと覚えていた。


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