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第12話

「どうした? 落ち着いて」と私が驚いて言うと、


「千里と光哉が取っ組み合い寸前よ!場所送ったから早く!」


優佳はそう言うと電話を切った。


私は頭の中が疑問でいっぱいだった。


千里が光哉と揉めるなんて? あの短気な光哉でも、まさか女性に手を出すことはないだろう?

深く考える間もなく、私は服を適当に着込んで飛び出した。


バーに駆けつけると、二人は既に個室へと収まっていた。もしあのままだったら、二人の立場上、また炎上騒ぎになっていただろう。

私を見つけると、優佳は慌てて私を千里の隣に座らせた。


千里はまだ興奮していて、光哉を睨みつけている。


光哉側の空気はさらに重く、隣にいる竹内の顔は戦々恐々としていた。彼は光哉と私を交互に見ている。


「奥様、誤解です!あの女の子たちは僕が呼んだので、光哉は…」


竹内まことは光哉より年下で、初めて私を「奥様」と呼んだ。


「ふん!あの女、胸があんたの顔に擦り寄ってミルクでもあげてるんじゃないの!関係ないわけないでしょ!」


千里はまことを指さして怒鳴った。


竹内まことは泣きそうだった。鬼嫁との初めての対決に戸惑っている。

光哉の冷たく鋭い視線が千里を掠め、私に向けられた。私の反応を待っているようだ。


私は気づかないふりをし、ただ千里をなだめた。


「千里、考えすぎだよ。きっと竹内が呼んだんだ。光哉の好みじゃないし、巨乳はタイプじゃないから」


まるで浮気されたのが千里であるかのように、個室は一瞬静まり返った。


「美雪、本気?」


千里と優佳は顔を見合わせ、呆けたように私を見た。


二人は私が離婚するのは知っていたが、ここまで冷静だとは思っていなかった。


千里ですら今夜は罵声をあげたのに、私は光哉を長年愛してきたのに、心はすっかり冷めている。


「もちろん。さあ、行こう、次は私がおごる」


私は片手で千里を、もう片手で優佳を引っ張って立ち上がり、二度と光哉を見なかった。


「光哉さん、奥様たちは…」


竹内まことは呆然として促した。


「奥様だと?あいつが?」


冷たく怒りを含んだ光哉の声が、扉が閉まる瞬間、はっきりと私の耳に飛び込んできた。


心が針で刺されたように少し痛んだが、我慢できた。

私なんかにはふさわしくない、その呼び名は麻倉もえかあたりに取っておけばいい。


空席を見つけ、三人で飲み始めた。


優佳は今日商演を終えて帰ってきたばかりで、千里が酒に誘ったところ、たまたま光哉と数人の女性を見かけて、酔った勢いで私の代わりに詰め寄ったらしい。


もし彼女が女性でなかったら、今日は本当に手を出されていたかもしれない。


千里は何度も尋ねた。


「美雪、本当に光哉を完全に諦めたの?」


私はうなずいた。それだけは確かだった。


「よし!その気魄、見上げたものだよ、十年の感情をスッパリ断つなんて!」


千里は杯を挙げて一気に飲んだ。


「男前だね!」


優佳も私に杯を差し出した。


ちょうど盛り上がっていたところへ、優佳の彼氏から電話がかかってきた。彼女の恋愛が一番順調で、彼氏は同い年で、両親にも会い、結婚間近だった。この恐妻家はすぐに帰ると言った。


「皆、うちの彼氏がご飯待ってるから、先に失礼!」


「おい、優佳もイチャイチャしに行くのか?」


「もう、変態!」


優佳は笑いながら罵って消えた。


優佳が帰り、私は支払いを済ませて千里と別々に帰宅した。





片桐家の邸宅に戻り、酒の匂いを嗅いでシャワーを浴びようと思った。


浴室に入った途端、混ざり合ったボディソープの匂いを含んだ熱気が顔を包んだ。


湯気の中から人影が現れた。上半身裸で、腰に黒いバスタオルを巻き、高く均整の取れた体つきがくっきりと見える。

私は幽霊でも見たかのように光哉を見つめ、視線は思わず彼の全身を舐めるように動いた。


情けない話だが、結婚五年目で、彼がここまで裸になるのを初めて見た。


「ここ、私の浴室だけど」


数秒沈黙してから、私は言った。


主寝室の浴室だ。普段彼は客室か書斎で寝ている。


「何か文句が?」


光哉は髪を拭きながら、平然とした口調で言った。


「別に。スタイルがいいんだから、私の得だし」


それは本心だった。

光哉は金がなくても、この外見だけで女性を虜にできる。


光哉はじっと私を見つめ、突然近づいた。

私は仕方なく下がった。


湯気が次第に薄れ、彼の胸筋の質感さえはっきり見えた。引き締まり方がちょうど良く、鎖骨のラインはくっきりとしていて、思わず触りたくなる。

だが我慢しなければ。


「シャワー浴びるから、出てってくれる?」


私は道を譲った。


次の瞬間、片手が私の後頭部を支え、力に導かれて私はつま先立ちになった。

光哉は瞬きもせず、うつむいて私の唇を奪った。


さわやかなミントの香りが口の中に広がった。


驚きすぎて、私は固まった。


私の無反応を見て、彼はキスを深めた。

彼のキスの腕前は言うまでもなく、私は初心者で、彼の主導に任せきりだった。


男性の体温は常に高く、私が息苦しさを感じたことも重なって、すぐに汗が噴き出した。


浴室の中に甘い空気が漂い始め、彼を押しのけようとすると、彼は逆に私の手首を掴んで頭上に押し上げ、この姿勢はさらに密着した。

従ってしまおうか?前世の願いを、今生で果たしても損はない。


光哉は麻倉もえかと出会う前も控えめな男じゃないし、妻と寝るのは筋が通っている。


そう心に決めると、私は目を閉じて合わせようと試み、あってはならない感情がむらむらと湧き上がった。

まさに自制心が崩れそうになった時、光哉は突然動きを止めた。


彼は私を解放し、目に浮かんだ情熱は潮が引くようにすっかり消え去った。


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