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第2話


「おおっと、強そうなモンスター発見!」


「入り口近くでこのレベルのモンスターが出るなんて、さすがは難関ダンジョンだな!」


 モンスターと対面したユウとジョウは、さっそく剣を構えた。

 そして現れたモンスターを真っ二つに斬る。

 先程はヤバくなったら逃げ帰るつもりだと謙遜をしていたが、彼らはそこそこの実力があるのだ。


≪カッコイイ!!!!!≫

≪惚れ直した≫

≪瞬殺はヤバイ!!≫

≪この感じならボスモンスターも倒せるんじゃない!?≫


 彼らの勇姿に、コメント欄も大盛り上がりだ。

 気を良くしたユウとジョウは、どんどんダンジョン内を進んでいく。


「さすがにボスモンスターはどうかなー?」


「でもそこそこダンジョンの奥深くまでは行けそうだよな」


「まあねー」


 ユウとジョウがモンスターを倒してくれるため、カメラマンである佐藤はダンジョン内をサクサクと進むことが出来ている。

 昨日はどうなることかと思っていたが、これならカメラアシスタントがいなくても平気なのではないか。

 そんなことを考えていたときだった。


「……群れか」


「数が多いな」


 目の前にモンスターの群れが出現した。

 しかも現れたのは雑魚モンスターではなく、強めのモンスターの群れだ。


≪どうしたの? そのモンスター強いの?≫

≪たぶん強いやつ。なのに群れはヤバイ≫

≪逃げた方が良いんじゃない!?≫

≪二人の戦うところは見たいけど、怪我しそうなら逃げて!≫


 ユウとジョウはお互いに顔を見合わせると、カメラに向かってブイサインを出した。


「ヤバい状況なのは確かだけど、俺たちの活躍を見せるチャンスってのも確かなんだよな」


「ってことで、戦うから見ててくれよな!」


「カメラさん、ちゃんと撮影してねー!」


 二人の方針に頭を抱えたのは佐藤だ。

 群れの中で戦う二人を撮影することは容易ではない。

 障害物となるモンスターが多いのに、撮影の邪魔になるモンスターを倒してくれるカメラアシスタントがいないのだから。


「……でもやるしかない、ですよね」


 佐藤はカメラに入らないよう小声で呟くと、持って来ていた剣を鞘から抜いた。

 ここからは撮影を邪魔するモンスターを撃退しつつ、二人の姿をカメラでとらえなくてはならない。

 ダンジョン撮影クルーとしての腕の見せどころ…………今日は撮影クルーではなくカメラマンである佐藤一人だが。

 とにかく、腕の見せどころだ!


「やあああっ!!」


「とおおおっ!!」


 群れの中に突っ込んだユウとジョウがバッタバッタとモンスターを倒していく。

 その様子を佐藤が必死に撮影する。


 どんどんモンスターの数が減っていくが、もとの数が多すぎて焼け石に水だ。

 すぐにユウとジョウはモンスターに囲まれてしまった。


「囲まないでくださいよ!? 二人が映らないじゃないですか!」


 言葉が通じるわけもないと分かりつつも、佐藤はモンスターに悪態を吐いた。


≪何が起こってるの? よく見えなーい≫

≪せっかく二人が戦ってるのに≫

≪カメラさん、もっとユウとジョウに近付いて!≫

≪カッコイイ姿が見たいよー!≫


 こんなことを言われてしまっては、ダンジョン撮影会社の社員としての名が廃る。

 佐藤は左肩にビデオカメラを担ぎつつ、右手に持った剣で二人の前に立つモンスターを薙ぎ払う。


≪やったあ! ユウとジョウが見えた!≫

≪戦う姿もカッコイイ!!!≫

≪やっぱモンスターより二人の姿が見たいよねー!≫

≪って、またモンスター!?≫


 せっかく薙ぎ払ったのに、またしてもモンスターがカメラと二人の前に立ちはだかった。

 すぐにモンスターの背中で二人の姿が見えなくなる。


≪またなの!? もしかしてわざとやってる!?≫

≪配信に映りたい系モンスターってコト!?!?≫

≪私たちが見たいのはモンスターじゃなくてユウとジョウなのにー!≫

≪早く二人を見せて!!≫


 佐藤が片手にビデオカメラを、片手に剣を持って、モンスターを薙ぎ払っていることなど知る由もない視聴者が、無茶な要求をしてきた。

 佐藤は頭を抱えたかったが、両手が塞がっているため抱えることが出来なかった。


「危険手当てを多めに貰わないと割に合いませんよ、まったく」


 佐藤はまたモンスターを剣で薙ぎ払った。

 本当は致命傷を与えて倒した方がモンスターの数が減って楽なのだが、それでは配信者たちの撮れ高を減らしてしまう。

 配信を面白くするためにも、モンスターはユウとジョウに倒してもらわなければならない。

 佐藤はただのカメラマンのため配信内容まで考慮する必要は無いのだが、後々会社にクレームを入れられると面倒なことになるのだ。


≪カメラ揺れすぎ! カメラさんしっかりして!≫

≪……もしかしてカメラマンがモンスターを攻撃してるの?≫

≪確かにカメラが揺れた後、モンスターがカメラの前から消えてるな≫

≪私はユウとジョウのチャンネルしかダンジョン系見ないんだけど、撮影しながらモンスターを攻撃するのはダンジョン撮影では普通のことなの?≫

≪んなわけないwww≫

≪じゃあなんで今日はカメラさんがモンスター倒してるの?≫

≪経費削減とか? 知らんけど≫

≪やろうと思えば可能ってこと?≫

≪普通は無理。両手で戦っても苦戦するのがダンジョンだぞ≫

≪じゃあ今日のカメラマンは普通じゃないってことだよね!?≫

≪ちょっとちょっと、みんなもっとユウとジョウを見ようよ≫

≪だって気になっちゃって≫

≪わかるwww≫

≪このカメラマン、個人で配信やってないかな≫

≪これが出来るならやってそうだよな≫

≪あとでカメラマンさんのチャンネル教えて≫

≪だからユウとジョウを見てってば!!!≫


 コメントがものすごい勢いで流れていく。

 今まさにモンスターと戦っている三人は気付いていないが、視聴者もみるみるうちに増えている。

 いつもはアイドルのような見た目のユウとジョウのファンだけで構成されていた視聴者が、今は違う。

 彼らのファン以外の視聴者も、二人、いや「カメラマンの佐藤の撮影するダンジョン配信」を見ている。

 この配信は今、いわゆるバズっている状態なのだ。




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