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第14話 日曜デートのご褒美サプライズ


「うわぁ~~♪ ペンギンさん可愛いよぉ♡ ねえ見て見てにーちゃんっ! パタパタしてる~!」

「可愛い~~♡ あんなによちよち歩きなのに大人なんだぁ♪ 可愛いよーー、もう可愛すぎる~~」


 日曜日がやってきた。


 俺はかねてから考えていたデートプランを実行するため、様々な準備をしてきた。


 二人が好きな物、喜ぶ物、幼馴染みであるが女の子の事だからな。


 本当に正解かどうかなんて分からない。

 二人に目一杯楽しんでもらう為に、俺なりに精一杯の真心を込めてプランニングしたつもりだ。


 そんなデートの第1スポット。

 動物大好きな二人のためにチョイスした水族館だ。


 ペンギンの触れあい広場やイルカショーが日曜日には必ず開催され、可愛い物好きの二人にとっては嬉しい筈だ。



 今日の朝、デートの始まりは待ち合わせが良いとのリクエストをもらい、前日は実家に戻って数日ぶりの一人の夜を過ごした。


 デート中に疲れてしまう訳にもいかないので、3日ばかり二人とエッチはしていない。


 二人はエッチをしていたようだが、俺はお呼ばれされなかった。


 なんでそんな事を知っているのかと言えば、俺が寝泊まりしている部屋は、隣が希良里きらり有紗ありさの寝室だからだ。


 夜な夜な聞こえてくる女の子同士の睦み合いが壁越しに聞こえ、ムラムラを抑え込むのに必死だったのだ。


 何しろオナニーなんかするわけにはいかないからな。


 生殺しと禁欲で中々大変だったが、これも今日のためだと思って我慢した。


「にーちゃんっ! ご飯食べよーよ♪」

「おう。ちゃんとレストラン予約してあるぞ」


「ホントにっ!? にーちゃん準備イイネッ!」


 ペンギンやイルカに癒やされて超ご機嫌の二人を連れて予約していたレストランに赴く。


 …………

 ……


「え、予約されてない?」

「はー。樋口様は予約されてねーっすねぇ~」


 まさかの事態が起こった。

 水族館と隣接している人気イタリアンの日曜ランチを予約していたのに、予約されていないという。


「いやでも、ほら見てください。ちゃんと予約完了のメール受け取ってますよっ!」

「はぁ? ぇ、あれ? すーません、ちょっとまってください……あっ(ニヤニヤ)」


「ヒソヒソ(なんか感じ悪い店員さんだね)」

「ヒソヒソ(本当。あからさまにめんどくせーって顔してる)」

「ヒソヒソ(拡散してやろうかなぁ)」

「やめとけ。二人の名に傷が付く」



 本当にその通りだがネットで予約しているのでこっちの勘違いってことはない筈だ。


 場所や時間を間違えているわけでもなく、単純に何かのトラブルだろう。


「ヒソヒソ(っていうか、なんか目がヤラシー感じ)」

「ヒソヒソ(もしかして二人の視聴者じゃないのか?)」

「ヒソヒソ(あー、そうかも。でも明らかにおっぱいガン見しててキモい)」


「あー、すんませんねー。なんかシステムのトラブルみたいでぇ。予約されてないっすわー。今日はもー予約でいっぱいなんでー。また今度にしてくんねーっすかー?」


「ちょっとなによその態度ッ!! システムトラブルなんてそっちのミスでしょっ!」


 店員の態度に腹を立てた有紗ありさが大きな声で苦情を言い始める。


「んなこと言われましてもねー。空いてねーもんはどうしようもねーんすわ」


「そうだとしてもその態度はないんじゃないですかっ!! 責任者を呼んでくださいッ」


「(チッ……)しょーしょーお待ちくださーい」


 いま明らかに舌打ちしたぞこいつ。

 バイトらしき男はあからさまに面倒くさそうな態度で奥に引っ込んでいく。


「何よあの態度ッ! 感じ悪~っ」

「すまん二人とも。まさかこんな事になるとは」

「兄ちゃんのせいじゃないよ。気にしないで」

「そーだよっ。どう考えても向こうが悪いじゃんっ」


 二人が慰めるように両側からくっ付いてくれる。


 結局店長と名乗る中年が出てくるまでヘブンを味わった訳だが、こっからが最悪だった。


 中年と言ってもこちらも金髪にピアスに浅黒い肌という、およそ接客業をやる姿とは思えない男が出てくる。


 別に金髪でもピアスでも中年でも構わないと思う。

 だけどあからさまに有紗ありさ達と見て態度が変わった事だけは許容できない。


「あー、申し訳ないですー。おねーさん達可愛いんで二人分なら席空けられますよ~(ジロジロ)」


「はあっ!?」

「なんですかそれは。お詫びの仕方としては最悪の部類ですね」

「っていうかお詫びになってないしっ! そんな態度だとあっという間に拡散されちゃいますよっ」


 二人は大変ご立腹である。


「もういいや。こんなお店で食べたくないよッ」

「そうだよ。最悪だよもう。でも動画のネタになるね」


「すまんな二人とも。行こうか」

「うん。もう行こっ」


 呆れ返った俺達は店を後にすることにした。が、動画という単語を聞いた瞬間店員が明らかに青ざめて狼狽え始める。


「あ、あのお客さんもしかして………、キラキラアリスのお二人では?」


「それがなんですかー? もう帰るんで」


 キラキラアリスというのは二人がやってる動画チャンネルのコンビ名だ。


「ちょ、待ってくださいッ、すぐに席用意するんでっ!!」


「いいえ結構です。こんな状態で食べても楽しくないんで」


 有紗ありさ希良里きらりも既にけんもほろろである。


 ちなみに、カリスマインフルエンサーである二人の怒りを買ったこの店は瞬く間に悪評が広まって数ヶ月後に潰れることになる。


 だが二人は動画にするとは言ったが店の名前は出していない。


 この一部始終をファンの人が目撃しており、明らかに店員の方に非があるのでタグ付けされてあっという間に拡散されたのが原因だった。


 ◇◇◇◇◇


「すまんな二人とも。まさかあんなことになるとは。本当にゴメン」


「にーちゃん、あんなの気にしないでッ! にーちゃんのせいじゃないからっ!」

「そうだよ。兄ちゃんには責任ないからそんなに落ち込まないでっ」


 二人に慰められながらデートの続き。

 手軽にフードコートで軽食をとることにした。


 二人の好きな和風とんこつラーメンのテナントでラーメン五目ご飯セットを購入した。


 ワンコインから少し足が出るくらいの値段でセットが食べられるので学生には有り難いラーメン界のファーストフードだ。


「美味しい~~~♡」

「うん、やっぱりフードコートに入ったらこれだよね~。子どもの頃からずっと好きなヤツが1番だよ」


 ほとんどフードコートのテナントにしか見かけないこのお手軽ラーメンは俺達が子どもの頃からの大好物だ。


希良里きらりはお金持ちなのにここのラーメン好きだったよねー」

「私が子どもの頃は二人ともそんなに出世してなかったから」


 二人の幸せそうにラーメンをすする姿に癒やされながら、昔話に花を咲かせる。


 希良里きらりのご両親は世界を飛び回る経営者。


 だが今は会社を大きくする大事な時期ということで、二人とも1年のほとんどを海外で過ごしている。


「兄ちゃんと有紗ありさちゃんがいるから全然寂しくないからね。二人とも頑張ってるのは知ってるから」


 ちなみに家族仲はめちゃくちゃ良い。こういう話にありがちな冷たい家庭というのは町田家には全く当てはまらないのだ。


「よし、気を取り直してデートの続きと行こうか。午後からは遊園地だ」


「「やったー♪」」


 ◇◇◇◇◇


 はしゃぐ二人を連れて遊園地へとやってきた。


「やってきました遊園地~~♪」


 三人一緒ということで分かれて乗らなくて済む乗り物が数多いこともリサーチ済みだ。


 俺の使命は二人を楽しませること。

 しかもデートなのだ。


 恐らくだが、二人は「有紗ありさ希良里きらり+俺」という構図で楽しみたいのだと思われる。


 三人でデートする以上、二人だけ行かせて俺が残る、あるいは分かれるというのはNGだろう。


 だからできるだけ三人一緒に楽しめるアトラクションが沢山あることをリサーチ済みのこの遊園地を選んだのだ。


 二人は有名人だし普通に歩いているだけでもナンパに遭う危険性は高い。


 先ほどからチラチラとこちらを見てくる人はいるけど、多分俺がいるから近寄ってくる人はいない。


「にーちゃんボディガードとしては最強だよね~」

「うん、普通に歩いてると結構声かけられるから」

「ファンの人達なら有り難いけど、ナンパは本当に勘弁だよね」


「うん。私一人だと断るのも大変だし。有紗ありさちゃんいてくれないと怖くて。その点兄ちゃんがいてくれると本当に助かる」


「それはボディガード冥利に尽きるな。さて、まずは大定番のジェットコースターからだっ」


「「はーい♪」」


 ◇◇◇◇◇


「きゃああああああ♪」

「楽しい~~~♪」


 遊園地デートは順調だった。3列の席があるジェットコースターという珍しい席で三人並んで両手を挙げたり――


「に、にーちゃん、手、離さないでね……」

「大丈夫だ有紗ありさ。しっかり掴まってろ」

「兄ちゃん頼もしい♡」


 二人に挟まれてお化け屋敷を堪能したりした。

 俺はホラーには耐性があるが、二人は全く無い。

 怖がる女の子二人に挟まれて両腕にヘブンを堪能するという俺に役得しかないアトラクションだ。


 その後も様々なアトラクションを堪能し、夕方までたっぷりと三人で楽しんだ。


「さて、そろそろデートの仕上げと行こうか」


「「仕上げ?」」


 ◇◇◇◇◇


「ふわぁ♡ 綺麗~♪」

「ステキ……♡ 兄ちゃん、ここ凄くステキだよ」


「満足してもらえて良かったよ」


 俺達は夕日の見える海辺に来ていた。

 ここは地元の人間しか知らない穴場スポットで、俺達以外は誰もいない隠れた名所である。


 なんでこんなところを知っているかと言えば、遠出のランニングをしたりするときに偶々見つけたからだな。


「普通に見るだけでもいいけど、よいしょ」

「わわっ、に、にーちゃんっ」

「ひゃん♪」


 俺は二人を抱え上げて肩に座らせる。デカい俺より高い視点で見るここの夕日は絶品なのだ。


「「綺麗~~♪」」


 二人は声を揃えて感動している。デートの最後にここを選んで正解だったな。


「ほら、こうすると視界に何も入らなくなるだろ? 二人で世界を独占してるみたいじゃないか?」


「本当だ……にーちゃん詩人だね♪」

「凄く素敵……感動しちゃった……」


「これくらいで良いならいつでも付き合うよ。俺がいないとこの景色は堪能できないからな。デートの盛り上げも竿役の役目、なんてな」


「あはは。違うよにーちゃん」

「え?」


「二人だけじゃないよ。にーちゃんも一緒に」

「そうだよ。三人で独占する景色だよ♡」


「ははは。そうか、それは嬉しいな。デートのエスコートは合格で良いのかな?」


「「もちろんっ♡ 大満足♡」」


 シンクロする喜びの声を上げる二人の称賛に嬉しくなる。


 竿役、とはいかなくても、大切な二人が喜んでくれるためなら無償の奉仕でだってこのくらいのことはするつもりだ。


「にーちゃん、ありがとね」

「今日は本当に楽しかったよ」


「そうか。本当によかった」


「にーちゃんそんなにごほーび欲しかったの♡」

「そんなの関係無いさ。見返りがなくたって、このくらいの事はいつだってやってやるよ。俺は二人の兄ちゃんだからな」


「兄ちゃん……ねえ、兄ちゃん、降ろして」

「ん? もう夕日はいいのか?」

「うん。それより大事なこと」

「私も」


「分かった」


 二人の要望に応えて肩から降ろす。膝を折って二人を降ろし、立ち上がろうとしたところで二人に止められる。


「「ちゅ♡」」


「お……」


「「にーちゃん、大好き♡」」


 両頬にもらった甘いキスの感触が皮膚を熱くする。

 俺はきっと今までにないくらい喜んでいる顔をしたはずだ。


 恥ずかしくて立ち上がろうとしても二人はまだ許してくれない。


「にーちゃん。今度はお姫様抱っこして♡」

「私も♡」


「二人同時にか? よし、いくぞっ、せーのっ、ほっ!」


 肩に乗せるよりも腕の力だけで二人分の人間を抱えるのでかなり大変だ。


「にーちゃん重くない?」

「いいやまったく。二人とも軽すぎるくらいだ」


 嘘ではない。女の子の体重二人分くらいでへばるほどヤワな鍛え方はしていないのだ。


 大変ではあるがまったく苦にならない。


「えへへ、にーちゃんにはとびっきりのごほーびあげるって約束だからね」

「うん。兄ちゃんに喜んでもらえたら嬉しいな」


「楽しみだな」


 きっと両側からもう1回ほっぺにチューでもしてくれるのだろう。


 だが、二人から予想外のご褒美がもたらされる。


 顔を寄せた有紗ありさ希良里きらりは目の前に迫り、二人一緒に唇を重ねてくれる。



「「んちゅ♡」」


「んっ……ぷはっ」


「にーちゃん。私ね、にーちゃんにずっと言いたかったことがあるの」

「私も。兄ちゃんに、伝えたい事、あるんだ」


「言いたかったこと?」


 二人は俺の目を真っ直ぐ見て、驚くべき言葉を口にした。


「「私達を、にーちゃんの恋人にしてくださいっ♡」」


 あまりにも予想外すぎる言葉に、俺は絶句してしまうしかなかった。


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