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第46話 姉ちゃんの真意は?


 翌日。


 金髪にーちゃんを絞めた俺達はその足でセクハラ教官を訴えに運営本部に向かった。


「なるほど。お話は分かりました。該当の教官には厳重注意をしておきます」

「そんなんじゃ生ぬるいッ! あいつ去年も問題起こしてたじゃないか」


「しかし、証拠もないのに糾弾すれば責任問題にもなりかねません。こちらでも監視しておきます。彼には女性を担当させないようにカリキュラムを組み替えましょう」


「とりあえずはそれでしのげるか。だけど、それじゃ問題の先延ばしにしかならないよな」


「とりあえず女の子に関わることがなくなればいいのかな」


「いや、教習所にいる以上まったく関わらないっていうのは難しいだろうな。まあ、この合宿が終われば二度と会うこともないだろうし、2週間我慢してやり過ごすしかないかもな」


「すみません……お力になれず」


 証拠も無しに人を断罪することはできないから、とりあえずはここら辺が限界かもな。


 俺達はそれ以上は何ともならんと思い、今日のカリキュラムに向かうのだった。


 ◇◇◇◇◇


「えー、つまり……っ、車の構造というはぁ……」


 教官がツラツラと並べる授業内容をノートを取りながら集中して話を聞く。


「ふわぁ……眠っ……」


 姉ちゃんの大あくびに、俺も釣られそうになる。

 空き時間には模擬試験でテストの練習もしなければならない。


「勉強は苦手だぁ……ふわぁ」


 とりあえず寝てしまいそうな姉ちゃんの為にノートはしっかり取っておくか。


 小春こはるもきっと取ってくれているとは思うが、それで俺がサボったら姉ちゃんに何を言われるか分かったものではない。


 姉ちゃんは身体のデカい俺と小春こはるに挟まれて隠れてるように身を小さくしている。


 相変わらず真面目なんだか不真面目なんだか全く分からないぜ。


 これで高校生活学年首位を一度も外した事がないってんだからおかしな話だ。


 姉ちゃんならこんなことしなくても満点取れるかもしれないが、自分の為にもやらないよりはいい。


 退屈な授業をなんとか乗り切り、午後の実技研修の時間となった。








 お昼休みに食堂でご飯を食べた後に自習室に入って試験の練習を重ねる。


 何段階かの試験を繰り返しクリアしなければならないので1日も手抜きができないが、車の運転はとても楽しい。


 教官も良い人ばかりで今のところ不自由はない。



 ◇◇◇◇◇


 それから数日。俺達は何事もなく順調にカリキュラムをこなしていった。


 だがそれも長くは続かない。

 トラブルは七日目に起きた。


「ああ、違う違うッ。何度言えば分かるんだウスノロめ」


 教官用の助手席ブレーキが強く踏み込まれ、教官からの罵声が飛ぶ。


 そう、俺の指導に当たっているのがくだんのセクハラ教官なのである。


 どうやら上に媚びるのが上手いらしいこの男は、女性に対して非常に高圧的な態度を取っているらしい。


 それは男に対しても同じであり、俺が高校生の小僧だからとあからさまにこちらを見下してきた。


「すみません。こうでしょうか」


 俺は辛抱強く彼の罵声に耐え続けた。問題なのはこいつの場合、数分で言っている事が逆転することが何度もある。


 詰まるところ、教官として無能もいいところなのだ。


 この人の担当である今日に限っては自分が成長している気がしない。


 卑屈や嫌悪といったマイナス感情を凝縮したような醜男ぶおとこであり、あからさまに俺を敵視している。


 こんなヤツがどうして教官なんかしているのだろうか。


 とにかく下手に逆らうことはせず、ひたすらにイエスマンに徹して時間が過ぎるのを待った。



「ご指導ありがとうございました……」

「ふん。木偶の坊が……」


 教官野郎は俺を見上げながら唾を吐きかけんばかりの顔で睨み付けながら去って行った。



 …………

 ……


「ふう……」


「順平。今日は例のアイツだったのか?」


 全てのカリキュラムが終わり、俺は二人と一緒にホテルに戻ってきた。


 俺達はホテルにあるカフェラウンジでパフェを食べる姉ちゃんを微笑ましく見守る。


「姉ちゃん。いやぁ、参ったぜ。姉ちゃんがブチ切れるのもよく分かるわありゃ」


「よく我慢したな」

「俺は姉ちゃんに鍛えられて傍若無人な人間には慣れているからなぁ」


「なんだよそりゃ……。いや、順平の方がアタシよりよっぽど大人だな……」


「でも効果測定受かったんだろ? 残り1週間頑張ろうぜ」


「ああ、そうだな……。小春こはるはどうだった」


「うーん。今日はグループ実習だったんだけど、あの金髪の人と一緒になっちゃって……って二人ともっ! なにもされてないから! 無言で立ちあがないでっ!」


 危なく殺意がわき上がるところであったが、小春こはるは軟派な男の態度にも一切怯むことなく卑猥な視線をはねのけたらしい。


「大丈夫だったのか?」

「うん。なんていうか、前より全然男の人が怖くないの。苦手は相変わらずなんだけど、……うーん。えへへ♡ ちょっと恥ずかしいんだけど」


「恥ずかしいけど?」


「私には順平ちゃんがいるって、前よりずっと強く思えて、なんか男の人が怖くなくなっちゃった」


小春こはる……」

「順平ちゃん……」


 俺の顔が熱くなるのが分かる。見つめ合う二人の視線が絡み合った。


「あーああーっ! お熱いこったね二人とも。まったく、小春こはるの順平ちゃんラブはカンストオーバーもいいところだよ全く」


「なあ姉ちゃん……俺と小春こはるが結ばれたのは、姉ちゃんのおかげだって聞いてる。そろそろ聞かせてくれないか? 本当のところをさ……」


「……分かった。部屋で話そうぜ」


 姉ちゃんの顔は頬を染め、熱い視線が俺へと注がれる。


 俺は何か予感めいたものを感じながら、小春こはる達と共にホテルの部屋へと戻った。




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