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第45話 可愛い姉ちゃん


 合宿所に到着した俺達。初日から波乱の予感がするトラブルが起こりつつ、免許合宿は始まりを迎えた。


 バスの中では絡んできた金髪ボーイがずっと怯えてるし、姉ちゃんは不機嫌だしで散々だったな。


花恋かれんちゃん、機嫌直して。ほら、手繋ご♪」

「……うん」


 小春こはるが隣に座ってあやすと途端にしおらしくなってあっという間に機嫌が直った。


 どうやら姉ちゃんの扱いに大分慣れている、というか……。

 なんだろう、姉ちゃんが小春こはるに飼い慣らされているようにも見える。


 ちょっと妬けてしまう俺の視線に気が付いた小春こはるの申し訳なさそうな苦笑を見ていると、こういうことがよくあったのだろうことが分かる。


 実は姉ちゃんは去年の同じ時期に一度免許を取得しようと教習所に通っていたのだが、教習所の人とトラブルを起こして途中退場になっている。


 その真相は今回のようにナンパな男から女性を救い出すためだったらしいが、姉ちゃんが言い訳をしなかったので汚名をすすぐことなく自ら去った。


 背丈がギリギリ足りなくて本来なら免許は取得できない姉ちゃんであるが(運転免許は身長が140㎝以上でないと取得できない)、教習所の人と相談して許可が下りたのに、暴力事件なんかでふいにしては勿体無い。


 姉ちゃんはちょっと我慢が足りないのだ。


 チャラついたヤツが嫌いっていうのも大きい。さっきの金髪みたいな「可愛い女発見ッ、ヤリてぇ!」って空気を出したヤツが死ぬほど嫌いなので敵意を抱きやすいのだ。


 まあ声を掛けたのが小春こはるってのも大きいのだろうな。


 今は姉ちゃんがバス内で暴れないように俺と小春こはるでサンドイッチしている。


 モゾモゾしてバツが悪そうに顔を赤らめている姿はちょっと可愛い。まるで俺と小春こはるが夫婦で子供を挟んで座っているようだ。

 言ったら俺の腹がチョップされるので言わない。



「ガルルルルルッ」


「ヒッ!?」


 姉ちゃんが金髪を睨み付けた。どうやら小春こはるのおっぱいを凝視していたらしい。



「姉ちゃん睨まないの」

「お前のその顔で人の事言えるのか?」

「え?」


「順平ちゃんも花恋かれんちゃんと同じ顔してるよ。私は平気だから」


 苦笑を俺にも向ける小春こはるの言葉に窓に映り込む自分の顔が姉ちゃんと同じ凶悪顔になっている事に気が付いた。


「姉ちゃん、ああいうのが嫌いなのは分かるけど、もうちょい自重しような」


「わーってるよぉ……。小春こはるに馴れ馴れしくするのがムカついたんだ」


「それは俺も同じだよ。俺が何もさせないから心配するな」


「お前、なんか変わったよな」

「たぶん、姉ちゃんのおかげだ」


「……」


 今日の姉ちゃんはどうにもしおらしい。

 さっきのハイテンションは無理してたのかもしれないな。


「ちゃんと小春こはるは守るから、心配しないでくれ。なんか今日の姉ちゃんはちょっと余裕がなさそうだ」


「順平ちゃん♡」


惚気のろけやがって……悪かったよ」


 謝った……。これは大事件である。

 大袈裟に聞こえるかもしれないが姉ちゃんの謝罪はとんでもなく貴重だ。


 幼い頃からこの姉による理不尽に晒され続けてきた俺にはその貴重さが身に染みるほどに嬉しいのである。


「姉ちゃんがしおらしい。今日は空からゴリラが降ってくるな」

「殺すぞ」


「今の姉ちゃんになら勝てそうな気がする」

「死ね」


「今夜真相教えてくれよ」


「……なんの話だ……」

「え、ここに来てとぼけるんだ……」


 明らかに目を逸らしている。

 頬を赤らめ、唇を噛む仕草はとても弟に向けてするものとは思えない。


 どちらかというと恋する乙女だ。

 考えすぎだろうか。


 いや、そうじゃない。俺は知っているんだ。


 俺が姉ちゃんの暴君気味にどうして憎しみを感じなかったのか。


 わりと幼い頃から考えていたのだ。


 それは……、その理由は……。


 ◇◇◇◇◇


 合宿一日目。

 とりあえず今日はつつがなく終了して夕食の時間となった。


 この合宿は、昼食だけ合宿所の食堂を利用することができるが夕食は各々で調達しなければならない。


 俺達はホテル近くのファミレスで食事を取った。


「ガツガツガツガツガツガガツガツッ!!」


 どうやら平和に終わった俺と小春こはると違い、姉ちゃんはそうも行かなかったらしい。


 めちゃんこ機嫌が悪そうにオムライスをガッツいている。

 こんな時でもオムライスってのがちょっと可愛い。


「姉ちゃんどうした?」


「ごくんっ……ふぅ……。指導教官が去年私がぶん殴ったヤツだった。実技でネチネチ嫌味言われたよ」


 一日目のカリキュラムは三時のおやつまで勉学。

 夕方から実技指導であった。生まれて初めて触る自動車に戸惑いながらも感動を覚えたものだ。


 俺の話はとりあえず置いておくとして、姉ちゃんの指導教官に当たったのは、なんと去年姉ちゃんがぶん殴ったという教官だった。


「マジかよ……そりゃ災難だったな。そいつと何があったの?」


「……」


花恋かれんちゃん、私達で何か力になれるかもしれないから、よかったら教えてくれないかな……」


「……わかった」


 それからポツポツと姉ちゃんは語り始めた。


 姉ちゃんは去年の教習所参加の時に教官をぶん殴って途中退場となっている。


 その真相はくだんの教官のセクハラから同年代の女の子を守ったからだという。


 概要だけは聞いていたものの、詳しく詳細を聞くととんでもない話だった。


 守った女の子がかばったものの、その教官とやらの主張が通ってしまった。


「マジかよ。なんでそんなヤツが首になってないんだ」


「わかんねぇ。コネでも持ってるのかもしれない」


「運営に訴える方が良いんじゃないか。それは問題行動すぎるだろう」


「うん。その方が絶対良いよ。黙ってるなんて絶対ダメ。殴っちゃった負い目はあるかもしれないけど、それを理由にパワハラを我慢するのは違うと思う」


「……ぁ」


「どうしたの花恋かれんちゃん……?」


「なんか、小春こはる変わったよな……」


「え、そ、そうかな?」


「前はそんなこと言わなかったのに」


「え? え?」

「姉ちゃん、話がズレてるぞ」


 これは意味が分かる。姉ちゃんは寂しがっている。

 小春こはるの精神的成長に対して、物寂しさを感じているようだ。


 姉ちゃんが小春こはるをどういう対象として見ていたのかを理解すれば、その中身がどういうものなのかが手に取るように分かる。


 だって弟の俺がまったく有紗ありさ希良里きらりと全く同じ事を考えていたのだから、やはり俺達は似たもの同士の姉弟だって実感させられた。


「ま、あれだ。同じ教官に当たることは滅多にないって話だから、あんまり波風立てるのも良くないかもしれない」


「それはちげぇだろ姉ちゃん。なんか、らしくねぇなそれ」


「なんでだよ。あたしだって大人にならなきゃって思ってるんだ。殴るばっかが能じゃねぇ」


「さっきパツキンの金的蹴り上げといてよく言うよ」


「あれは小春こはるに手を出そうとしたからだっ!」


「まああれだけ脅しておけば、よほどのバカじゃない限り手を出し来ないだろう」


「えっと……、空き時間にまた声かけられた、かな」


「「よし殺そうッ」」


「だ、大丈夫だよ。しっかり断ったから。ハッキリ彼氏いるから無理ですって言ったらすぐに引き下がったから。っていうか二人息ピッタリだね」


 その日は結局、真相を確かめるなどの話にならず、明日は必ず金髪を殺そうということで姉弟は意見が一致した。


 ちなみに小春こはるはハッキリと意志強く断ったらしい。

 二人して小春こはるの成長を喜んだのは言うまでもない。


 やっぱり、俺は姉ちゃんが大好きだ。


 そして、姉ちゃんもきっと同じなんだ。


 ……ちなみに金髪は翌日絞めておいた。


――――――――


【樋口 花恋】ひぐち かれん ヒロイン →主人公の呼び方【順平】

 ・身長139㎝ バスト64 ウエスト43 ヒップ73

 ・小さい。とにかく色々と小さい、が、チビというとキレる。

 ・古武術道場でほぼ最強の実力を持つ暴れん坊。道場破りを一人で返り討ちにしたこともある。現在はNO.3だが、師範代ともほぼ互角。

 ・順平が手も足も出ないほど強い。

 ・順平と同じ高校の先輩で【小さな大将軍】と呼ばれたヤンキー達の大ボス。地域のヤンチャ達には知らぬモノがいないほど。

 ・家事スキルは非常に高く、料理の腕はプロ並。小春と希良里も花恋から料理を習っている。


――――――――


 本年中は大変お世話になりました。

 2024年の投稿は以上となります。


 新年1発目ももちろん毎日投稿は続けます。

 ますます盛り上がる百合百合ハーレム。

 2025年もよろしくお願いします!

 目指せ書籍化ッ!


 是非ともそのためにレビュー、★★★評価で応援たのんますっ!


 なにとぞーーっ!

 それではみなさま、良いお年を!


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