5月10日
カレキは私の本持ってきた本を読破した。
どうにもヒロイン側(受け)に共感しているみたいで、悲劇のシーンではハンカチで目元を拭ったり嗚咽を漏らしていた。
この日の夜、「ちょっとふたりっきりで話がしたい」と真面目な顔して言われたんで、私は夜の川辺にカレキを連れ出した。
いつもの気難しい老人の姿ではなく、なんかオドオドして、白ひげの先端を指でもて遊びながらカレキは話してくれた。
70年間、ずっと魔法一筋で生きて来てしまい、ろくな恋愛経験もなく、賢者(本職の魔法使いなのに)になってしまったこと。
宮廷魔術師をクビになったのは、本当は年齢とかは関係なく、今流行りの王族悪役令嬢(転生)の家庭教師をしてる時に、つい過激なボディタッチをしてしまい、それが訴えられてザマァ的に追い出されてしまったこと。
そして、ザマァ名誉挽回のために勇者のパーティーに入ったはいいけれど、年端もいかない私みたいな小娘にザマァにされて悔しかったこと。
そんな本当の気持ちを、全部話してくれた。
なぜ話す気になったかと言えば、私のBL本……最初は単なるハレンチな本だと思っていたけど、そこに描かれる人間模様、感動、愛や共感……自分が今まで取るに足らないと思っていたもの、それらに心を打たれたからこそ、本音で話す気になったらしい。
私が「大丈夫。やり直せるよ」と言ったら、目を潤ませて「ホントに?」だって。そんな乙女なおじいちゃんは可愛く思えた。
オ●禁は年齢が年齢だからそう堪えてない、あと欲求はあるけど、実のところ“ブツ”は反応しないという話をされた(ストッキングでのシコシコ事件は、若い頃の性癖から、もしかしたら“蘇るかも”という淡い期待があっただけみたい)。
だから、「竿はダメでも穴があるよ」と言ったら、「あ!」とカレキは輝いた顔をしていた。
それから前立腺刺激の話をして上げると、食い入るように聞いて、必死にメモを取ってた。
「この齢になってもまだ学ぶことはあるんじゃな!」と笑ったカレキの顔は、希望に満ちて健やかなものだった。
私は悪役令嬢よりも、正統派ヒロイン(♂)の方が好きだ。