5月23日
ブータロウを呼び出す。
もちろん海の側だ。自殺の名所らしい。岸壁に打ちつける波飛沫が私の顔にまで飛んでくる。
潮風はしょっぱい。涙の味だ。なかなか理想のBLが進展しない私の心の涙だと思った。
そんな感傷に浸ってたのに、KYなデヴが「ここら辺は温泉で有名ですね。ど、どうでしょう。ここらで骨休めでも…」とか言ってきたので、「骨じゃなくて、肉休めだろうが」と腹パンした。
泣きながら嘔吐しているブータロウを見て、私は泣きたくなった。
なんでこんなに私が苦労させられなければならないのかと思うと、腹が立って仕方がない。
さっさと嫌な用件は済ましてしまった方がいい。
私はジュラルミンケースから、A3の紐付き茶封筒を取り出してブータロウに手渡す。
「こ、これは?」といちいち聞いて来たので、ジュラルミンケースの角を指差して「ここで殴るぞ」と言ったら、恐る恐る封筒を開いた。
中はもちろん名探偵の報告書だ。
ブータロウはクリップで留められた写真を見て、「あ!」と叫び声を上げる。
ここからは説明タイムだ。
率直に言うと、ブータロウの奥さん(和服美人)は旦那の留守をいいことに浮気をしていた。
旦那の仕送りで、エステだ、会食だ、ヨガ教室だ、ご褒美旅行だ、女子会だと満喫しているだけでなく、とあるスーパーのダンディ副店長と浮気していた。
報告書は秒刻みに奥さんの行動を書き出してあり、写真は某ホテルでとんでもねぇ変態プレイ(ここでは描写がはばかられる)に夜な夜な終始しおり、3歩後ろを歩いてきそうなお淑やかな見た目は嘘みたいで、髪や乳房を振り回して絶叫しているのは、エン●イアステートビルによじ登って大暴れしているキング●ングにしか見えない。
「あ、おお…」なんて声にならない声を漏らして、報告書を読むブータロウ。涙か鼻水か涎か分からないが、書面をめくる度に紙が濡れていく。
私が「これだけじゃない。こっちは娘の調査資料だ」と、ジュラルミンケースからもう1枚封筒を取り出すと、ブータロウは「も、もうイヤだ…」と言いつつも、封筒を受け取ろうとしたんで蹴り飛ばす。
「なんで?」と聞くんで、「これは明日だ」と言う。
しつこくも「どうして?」って聞くんで、「今日の日記の文字数がオーバーするからだ」と言ったら、なんでか号泣した。