5月29日(その5)
モブ郎は話した。
だけど、「あー」とか「えー」が多すぎる上、話がダラダラと長いんで要約する。
結論から言って、モブ郎と料理長は愛人関係だった。厨房という女人禁制の閉鎖空間は、秘密の花園であり、こともあろうか仕事の合間に2人はちちくりあっていたのだ。
つまり料理長は料理を作りながら、モブ郎を料理し、新メニューを開発しつつ、モブ郎の肛門も開発していたというわけだ。
そして、昨日も料理長はモブ郎の穴を弄りつつ、穴子を捌いたり、イカ臭い手でイカ飯を盛り付け、ウニや蟹味噌にだって別のミソが混じり込み、白子だってフグのものじゃない別の何かも混じっていたらしい。
そこまで聞いて、全員がその場で嘔吐した。
カレキが青い顔で「なんで勇者殿は平気なんで?」と聞かれたんで、「嫌な予感がしたから、私の分の料理は隣の宿のものを運ばせた」と説明したら、副料理長がやつれた顔で頷く。
そもそもスタッフが全裸で舟盛りに乗っているようなとこの料理なんて、まともなわけがねぇだろ。常識で考えろ。
余計なとこで、中断してしまった。
話を元に戻すと、そんな風に2人でイチャイチャしていたところ、女将が激おこぷんぷん丸で乗り込んで来たらしい。「食品衛生法的に問題だ! 保健所に見つかって、営業禁止にでもされたらどう責任を取るのか!」と、ごく当たり前の話をして、抱き合う2人を怒ったらしい。
そして、料理長はサラリーマンだった。ここでクビにされてはかなわないと、「付き合いはこれまでだ」と唐突にモブ郎は別れを告げられてしまった。
これに堪らないのはモブ郎だ。入社してから、すでに体は料理長が無くては生きてはイケなくされてしまった。それなのに食中毒ごときを恐れて、自分を捨てるのかと怒りが沸き上がった。
また、なによりも許せないのは、実は女将は料理長に惚れており、2人の関係を面白く思ってなく、その仲を引き裂くために当て擦ったんだろうとモブ郎は思ったらしい。
あとは皆が知っての通り。怒り狂うモブ郎の手で、料理長は舟盛りにされ、女将はシンクロにされてタヒぬことになった。
悲しい痴情のもつれが、この悲劇を生んでしまったのだ。
悲しむモブ郎に、私はビンタする。
そして言った。「ちちくりは家かホテルでやれ。他人に迷惑をかけるな。食い物で遊ぶな」、と。
モブ郎は深い後悔に涙した。
ワニンゴの「マンマァー!」という哀しい叫びが、ずっとBGMとして響いていた。