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ちょっといい関係のパートナーと私
ちょっといい関係のパートナーと私
YOR
現実世界仕事・職場
2025年06月10日
公開日
10.3万字
完結済
ここは東京、きらびやかな高層ビルの20階。 オフィス「スターライト企画」は、広告業界のサバイバルステージ。 26歳・入社3年目のプランナー佐藤ハルカ。 カラフルなシャツにスニーカー、オレンジのヘアピンがトレードマーク。 彼女の武器は――誰にも見えない【直感センサー】。 “ピピッ”と反応するその感覚は、甘い笑顔の裏の棘や、空気に溶けたざわめきを見逃さない。 かつて憧れの先輩だったミサキの裏切り。 そして、会社を揺るがした不正事件。 それらを乗り越え、いま新たな一歩を踏み出すチームに、ミサキが再び戻ってきた。 イベントの大成功、盛り上がる社内、響き渡る「絆」という言葉―― だけどハルカのセンサーは、“ピピッ”と違和感を捉えていた。 本当に変わったのか、この会社は。 ミサキは、仲間になれるのか。 笑顔の奥にある「本音」に、どう向き合うのか。 それでも私は信じたい。 この直感は、自分と誰かを守る小さな力だと。 今日も静かに、“ピピッ”と働きながら。 これは、疑念と信頼の間で揺れ動きながらも、「本音」を見つけ出すために静かに、 力強く前進するハルカの物語。 ハルカの直感は、隠された真実を暴き、やがて「ちょっといい関係」の本当の意味を問いかけることになる。

1章 直感センサー、起動!

第1話:砂糖菓子の罠と直感センサー

スターライト企画のオフィスは空気がざらついている。

窓越しに東京のネオンがきらめくが、ここはただの広告代理店じゃない。

生き残るための戦場だ

——そして、“ピピッ”と今日も私の直感センサーが胸の奥で微かに波打つ。


常に新しいキャンペーンやメディア戦略が飛び交い、高層ビルの20階から見下ろす街は、まるで無数の宝石箱をひっくり返したみたいに輝いている。

その輝きとは裏腹に、オフィスには独特の緊張感が漂っている。


私のデスクには、コーヒーの染みが付いたスケッチブックと、オレンジのペンが乱雑に刺さっている。

今日も私は、来月リリースされる人気ゲームのプロモーション戦略に頭を悩ませていた。


新卒3年目、プランナーの佐藤ハルカ、26歳。

だけどただのプランナーじゃない。

私には、“直感センサー”があるのです!


チームリーダーのミサキが、今日も甘い笑顔でやってくる。


パステルピンクのスーツに、キラキラのネイル。


天井のライトを反射して、まるで砂糖菓子みたいに眩しい。


「ハルカちゃん、困ったら私に相談して! なんでも力になるからね!」


その言葉は、ほんの少しだけ甘すぎる。

いや、"甘ったるい"、"恐怖に近い甘ったるさ"かもしれない。


私は昔から、変な空気とか、言葉の奥の「ズレ」みたいなものに敏感。

ポジティブすぎて失敗も多いけど、「この感覚だけは間違えたことがない」

この胸のざわつきだけは、決して裏切ったことがない。


胸の奥で、モヤっと何かが引っかかる。

しかも、その感覚は日に日に強くなる。


最初は「優しい先輩だなぁ」って、すっかり信じてた。

でもある日、私の中で、胃の奥が、冷たい水が流れるようにゾワリと粟立つ。


――あれ、この優しさ、なんか変?

…なんだか、薄っぺらい?


砂糖菓子みたいな優しさの裏に何があるのか、確かめるしかない。


そんな時だった。


企画書の最終チェックをしていた私の隣に、ミサキが音もなく立つ。

ふわりと甘い香りがして、思わず振り返ると、ミサキがニッコリと微笑んだ。


「ねえ、ハルカちゃん。

実はね、ユウトくんがハルカちゃんの企画、ちょっと使えないって言ってたよ。

せっかく頑張ったのに、残念だね」


ミサキがそう言った瞬間、私の心臓がドクンと鳴った。

胸の奥のセンサーが、警報のように強く「ピピッ!」と反応する。


えっ、ユウトがそんなことを? …なんでそんな話、私に?


同期のユウトは金髪で派手なネクタイ、いつも「ハルカ、負けんな!」ってテンション高く応援してくれるのに?

彼がそんなこと言うなんて、信じられない。


でも、ミサキはいつも優しいし、嘘をつく理由もないような……。

頭の中がぐるぐるしてきた。

ミサキの瞳の奥に、一瞬だけ、冷たい光が宿ったような気がした――気のせい?



仕事終わりに、私はいつもの喫茶店ルナへ向かった。

スターライト企画から徒歩5分。

古民家風のカフェのドアを開けると、シナモンの甘い香りがふわっと漂う。

木のカウンターの向こうで、ショートカットの姉貴、ナツミが笑顔で迎えてくれた。


「ハルカ、なにその顔。シナモンラテ、濃いめでいく?」


ナツミが淹れてくれた温かいシナモンラテを受け取りながら、今日の出来事を全部ぶちまけた。

ナツミは私の愚痴を聞きながら、「まぁ、気にすんなって。人の噂なんて風よ。流しときゃいいの」と笑う。いつも通りのナツミの、揺るぎない笑顔と声に、私の胸のザワつきがすっと引いていくのを感じた。

その楽観的なアドバイスに、少しだけ心が軽くなる。


すると、喫茶店のドアが再び開いた。

現れたのは、クールな映像クリエイターのリョウだ。

黒縁メガネとモノトーンのコーデ。

いつも肩に掛かる黒髪が、ルナの温かい照明に溶け込んでいる。

彼はいつものカウンターの端に座り、店内のざわめきに溶け込むように、

なぜか私たちの会話が聞こえそうなほど近くで、静かにコーヒーを注文した。


ナツミが淹れたコーヒーを一口飲み、静かにカップを置く。

その「間」が、やけに長く感じられた。

私の目をまっすぐ見て、ポツリとつぶやいた


「自分の目で確かめな」


リョウがポツリとつぶやいた。

黒縁メガネの奥で、彼の目が静かに光る。

私とナツミの会話が聞こえていたのだろうか。

口数は少ないけど、その一言が、私の心にストンと落ちてきた。


「…この人、なんかいい!」


彼の低い声が、まるでルナの温かい照明のように、私の心にじんわりと染み渡るのを感じた。

黒縁メガネの奥の目が、私の不安を静かに見透かしているようにも思えた。

リョウの言葉は、飾り気がなくて、でも妙に説得力があった。

ミサキの甘い笑顔とは全然違う、静かな信頼感がそこにはあった。



「よし、ミサキさんのキラキラ、甘すぎケーキ扱いでチェックだ!」


翌日、私は「砂糖菓子見極め作戦」を発動させた。オフィスでユウトを見つけ、直接聞いた。


「ねえ、ユウト。ミサキさんから聞いたんだけど、私の企画、使えないって言ったって本当?」


ユウトは、私の予想通り目を見開いて、きょとんと首を傾げた。

その顔には「え、ハルカ、急にどうしたんだ?」とありありと書いてある。


私たちのデスクは隣り合わせで、ミサキさんのチームリーダー席は、そこから数メートル先の窓際にある。


「は? 俺がそんなこと言うわけねーだろ! 見たよ!ハルカの企画、すげー斬新で応援したくなったわ! 特にあのゲーミフィケーションのアイデア、最高じゃん!」


ユウトの言葉に、ミサキさんの顔からスーッと笑顔が消え、視線が一瞬だけ泳いだのが見えた。普段は決して表情を崩さない彼女の、その一瞬の隙を私は見逃さなかった。


「……キタ! この感じ、間違いない!」


やっぱり、あの甘さには裏があった。


ドンピシャ! 私の直感センサー、大正解!


仕事終わりに、いつもの喫茶店ルナへ向かった。

ルナの窓から差し込む夕陽に、オレンジのヘアピンがキラッと光る。


ハルカ、初戦勝利!


でもこれはまだ、ほんの始まり。


“感じる力”を武器に、私は今日もこのキラキラした現実を、笑顔でサバイブしていく!


(つづく)


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