数時間後、ランドクルーザーはいわゆる富士の樹海に到着した。米兵二人と、ランドクルーザーを降り(この停車中のランドクルーザーに車上荒らしでも試みようものなら、逆に電気ショックが流れて返り討ちに会う)、ステイトは樹海へと立ち入った。樹海では、木々からは無数の死体がぶら下がっていた。とても腐敗が進んだ死体もある。
ステイトは、(俺もメアリーの件でどうにも首が回らなくなったら、ここで自殺しようかな)なんて考えていた。
米兵の一人が得意気に言う。「ステイトさん。あんたみたいなマトモなアメリカ人はろくに死体なんて見たことないでしょう?あるとしても、ちゃんと死化粧された、葬式の時の遺体だけでしょう?見てください。これが、NIPPONの現実です。まず、人を殺すとかどうとか言う前に、死体ってものをちゃんと瞼に刻んでおかないと。これからね、あなたはこういう死体を自分の手で作っていこうっていうわけなんですよ。まあ、あなたが殺しをやりたいとは限らないわけだけれども」
ステイトは米兵に一瞥をくれただけで、何らYESともNOとも表明しなかった。
ステイトは、特段殺しを嗜むつもりはなかったけれど、護身用に散弾銃を持つことにした。腕がなくても、近くに寄ってきたものに攻撃を加えるのには優れている。
米兵の一人が、口の前に人さし指を立て、「静かに」と言う合図をした。もう一人も、ステイトを片手でもって制する合図をした。
誰かがやって来たのだ。どうやら痩せぎすのNIPPON人のようだった。ゲッソリと頬がこけている。足どりもフラフラとしていて、もう何日も食料にありつけていないのが明白だった。ロープを持っていて、首を吊るすための輪っかまで用意してあるけれども、吊るすために木の枝にかけるのに、もう体力があまり残されていないためか、難儀しているようだった。
なかなか、木の枝にロープをぶら下げられないその男の自殺志願者を見かねた米兵の一人が、ステイトにこう言った。男には、ステイトや米兵たちのことなど視界にも入っていないようだった。
「ステイトさん。楽にしてあげたらどうです?」
ステイトは憤った。「待ってくれ。どうしようと俺の自由のはずだが……。そそのかすのか?」
米兵は肩をすくめた。「そんなつもりは。あなたの良心が試されますね。さながらトロッコ問題だ。生かしておいて苦しませるか、それとも罪を背負って楽にしてあげるか」
ステイトは慄いた。(米兵までもが、このゲームの国・NIPPONを楽しんでいやがる。なんてこった)
ステイトは散弾銃を握る手に強く力を込めた。
【つづく】