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第12話

手のひらが手の甲に重なり、篠宮初音は男性の掌から伝わる温もりをくっきりと感じた。


彼の手は大きく、彼女の手をすっぽりと包み込めるほどだった。

「初音姉さんもお兄ちゃんもいい人!だから、ずっと仲良くしてね!」翔太はニヤリと笑い、可愛らしい八重歯を見せた。

「翔太、『仲良く』って言葉の使い方はちょっと違うよ」篠宮初音はそっと手を引っ込め、男性に申し訳なさそうに微笑んだ。


「子供の言うことですから、気にしないでください」

掌が突然空になり、心までもがぽっかりと穴が開いたように感じた。

九条天闊は黙って手を引っ込み、指先でさっき彼女に触れた場所を無意識に擦りながら、まぶたを伏せた。


しかし、その奥で渦巻く激しい感情の嵐を隠しきれていなかった。

それでもなお、彼は必死に自制していた。彼女を驚かせてはいけない。

「九条天闊と申します」

篠宮初音はわずかに戸惑い、彼が自己紹介をしているのだと気づいた。

九条天闊……九条天闊……心の中でその名前を繰り返し、どこかで聞き覚えがあると感じた。

ふと閃いた。


「あの……九条先輩?」

九条天闊が目を上げ、彼女の星のように輝く瞳を見つめた。


またしても心臓が激しく高鳴り、車椅子のアームをぎゅっと掴み、ようやく平静を保った。


「ええ」

篠宮初音の視線は、思わず彼の動かない両脚へと落ちた。


その瞬間、あの火災のことを思い出した。

聞いたことがあった。


九条天闊は火事場に飛び込んで人を救おうとして意識不明の重体に陥り、その時に両脚も損傷して歩けなくなったのだと。

奇妙な縁だ。


彼女もまたあの大火災の中にいた。


最終的には東雲たくまに救い出され、それがかつて彼女が東雲に一途に思いを寄せるきっかけの一つにもなっていた。

九条天闊は鋭敏に、彼女の視線が自分の障害のある脚に留まっていることに気づいた。


体が一瞬で硬直し、逃げ出したいという強い衝動に襲われた。

体が不自由な、こんな不完全な自分が、輝きに満ちた彼女の前に立つ資格などない。

緊張で体が微かに震え始めた。


ようやく篠宮初音も彼の異変に気づいた。

他人の障害をじっと見つめる行為がどれほど失礼か気づき、慌てて詫びた。


「九条先輩、ごめんなさい。深い意味はないんです」

同情はあったかもしれないが、軽蔑や侮辱の気持ちは微塵もなかった。

「わかっている」九条天闊の声は低く、平静だった。


「気にはしていない。君も気にしないでほしい」

ゴロゴロゴロ……ドーン!

雷鳴が轟いた。ついさっきまで晴れ渡っていた空は、瞬く間に暗雲に覆われ、稲光が走り、雨粒がバケツをひっくり返したように降り注ぎ始めた。

藤原院長先生の声に促され、子供たちは一斉に屋内へと駆け込んだ。

篠宮初音も思わず走り出そうとしたが、その時、九条天闊が自力で車椅子を懸命に動かそうとしているのに気づいた。

彼の後ろには護衛が付いているのに、なぜ手を貸さないのだろう?

不思議に思った。

「九条先輩、お手伝いします」雨脚が強くなる中、彼が微かにうなずくのを見て、篠宮初音はすぐに駆け寄り、車椅子を押して素早く屋内へ向かった。

九条天闊は、誰にも自分の車椅子を押させることを決して許さなかった。


誰の前でも弱みを見せたくなかったからだ。


しかし、篠宮初音の前では……どうやら全ての原則が覆されるようだった。

二人とも少しずつ雨に濡れていた。藤原院長が二枚のタオルを持ってきて手渡した。


「初音さん、九条様、さあ、早く拭いて風邪をひかないように」

「藤原院長先生、ありがとうございます」篠宮初音は両手でタオルを受け取り、窓辺へ歩いた。濡れた長い髪を拭いながら、外の土砂降りを見つめた。

天気予報では雨は降らないと言っていたのに、こんなに突然激しく降り出し、様子を見る限りすぐには止みそうにない。

九条天闊は一見、髪を拭くことに集中しているように見えたが、その目尻の端は常に篠宮初音へと向けられていた。

彼女の姿はすでに彼の骨の髄まで深く刻み込まれている。


だが、彼はもっと近くで、さらに近くで、彼女をしっかりと見つめたいと切望していた。

抱きしめ、口づけを交わし、彼女のこれからの人生に自分の存在が刻まれることを焦がれていた。

彼は彼女を求めすぎていた。


その切望がほとんど途方に暮れるほどで、どうすれば彼女も自分を愛してくれるようになるのか、途方に暮れていた……

雨はますます激しさを増し、止む気配はまったくなかった。

雨の日の山道は危険だ。


藤原院長は気遣い、雨がやんで夜が明けるまで泊まっていくことを提案した。

篠宮初音は迷わずに承諾した。篠宮が残るなら、九条天闊に異論があるはずもなかった。

彼女ともう少し一緒にいられるなら、たとえ遠くから見ているだけでも、それで十分だった。

篠宮初音は毎週訪ねてくることもあり、時々泊まることもあるので、施設には彼女専用の部屋が常に用意されていた。

藤原院長は別に二部屋を整え、九条天闊と彼の護衛が泊まれるように手配した。

篠宮初音の部屋と九条天闊の部屋は壁一枚を隔てただけだった。


古びていて遮音性も悪く、隣の物音がはっきり聞こえてくる。

篠宮初音が湯上がりでベッドに横になったばかりの時、隣の部屋から鈍い重い物音が聞こえ、続いて九条天闊の怒りを抑えた低い怒鳴り声が響いた。

「出ていけ! 皆、出て行け!」

九条天闊は脚が不自由でも、着替えや身支度は常に自力で行い、決して他人に頼らなかった。それが彼の驚くべき腕力を鍛えることにもなっていた。


孤児院の設備は限られており、彼に合った入浴施設はなく、風呂に入るのは非常に不便だった。


それでもなお、護衛の手助けを拒んだのだ。

さっき、彼は誤って物を落としてしまった。


護衛がその音を聞きつけて駆け込んできたが、彼に厳しく退くよう叱責されたのだ。

自分が無様で無力な姿を、誰にも見せるわけにはいかなかった。

彼は世界中の名医を探し回るため、巨額の費用を投じていた。この両脚を治すために。

運命が自分にそれほど残酷であるはずがないと信じていた。

いつか必ず、再び立ち上がり、堂々と彼女の前に立ち、さらには……彼女を高く抱き上げる日が来ると。篠宮初音の記憶の中の九条天闊は、かつてあんなにも輝いていた——トップクラスの成績を収める生徒会長、天が授けた才、無数の人々の憧れの的だった。

しかし、あの大火災が、彼の輝きを無情に断ち切ってしまった。

彼女は彼を気の毒に思った。彼はもっと輝かしい人生を送るべきだったのに……

聞いたところでは、彼は当時、一人の少女を救おうと、火の海に飛び込んだのだという。


彼が思いを寄せていた少女を。

彼女は思わず興味を抱いた。


いったいどんな少女が、これほど完璧な九条天闊に、全てを捧げることを甘んじて受けさせたのだろう?

一方、その頃。


薄暗く荒れ果てたアパートの階段には、湿ったカビ臭さが漂っていた。

東雲たくまは早朝から篠宮初音の旧アパートの下に立っていた。


昨夜、彼女がスタンガンで自分を気絶させたことを覚えていた。

なぜそんなことを自分にできるのか、問い詰めようと思った。

しかし、心の奥底では、誰よりもはっきりわかっていた——問い詰めは言い訳に過ぎず、ただそれで彼女に近づく口実が欲しかっただけだと。

自分は篠宮初音に心を動かされたようだ、しかしその胸騒ぎが未練からくるものなのか、それとも他の何かなのかはわからなかった。


さらに、その胸騒ぎがいつまで続くのかも確信が持てなかった。

長年好きだった白石香澄だって、冷めれば冷めたで簡単に好きではなくなった。


今の、篠宮初音に対するこの「ときめき」が、果たしてどれほど持つだろうか?

しかし、いずれにせよ、この瞬間だけははっきりとわかっていた——彼は篠宮初音を欲していた。


彼女が以前のように、永遠に、自分だけを愛し続けてほしい……と。

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